虚無#2
「あんたほんとにやったのね」
感情のない声色で、奈都は響子の隣に座った。
「まあ、私たちもやってもらわなくちゃ困ってたけどね。あなたがやりそうもなかったら、私たちが滝を殺してただろうね。でも、まさか本当にやったのは驚かされたわ」
クスリと馬鹿にしたように笑う。響子は、奈都の感性を疑った。
「菅原さんって、罪悪感とかそういうものないの……?」
「罪悪感? 何それ」
奈都は鼻で笑い、続ける。
「私がそんなの感じていたら、生きていけないわよ」
言葉がつまり、ゴクリと喉が鳴る。
どうしてこの人は笑っていられるの? そういえば雪穂が死んで、悲しんでいるみんなの中で平然としていたっけ。この人にとったら他人の命なんて、虫けらみたいなものなんだ。
「いい? わかってるんでしょ?」
響子を覗き込む表情からは、先ほどの笑みは消えていた。
「誰かに言おうなんて考えてるみたいだけど、そうはさせないよ。誰かさんみたいになりたくなかったら一生その口を閉じてることね」
奈都はそう告げると、ベンチから腰を上げる。自動ドアが開くと、そこで立ち止まり最後に言った。
「あ、そうだ。露木千秋のこともよろしくね」
中に入っていく奈都の背中を見つめる響子。
にぎりしめていた手のひらに、くっきりと爪の跡が残っていた。
『誰かさんみたいになりたくなかったら』
奈都の言った言葉が、響子の頭の中で繰り返される。
これからどうするかなんて、響子の中ではもう決まっていた。
通夜も終わったのだ。もう少し我慢すれば家に帰れる。そう自分に言い聞かせて、裕樹の元に戻る響子。
「大丈夫か?」
心配し、声をかけてくれる裕樹に、響子は頷くだけ。声はでなかった。