二人 【真奈子】
「あーあ。いいよね、真奈子は藤川くんと同じクラスで」
昼休み、露木千秋はおにぎりにかじりつきながら、羨ましそうに真奈子を見る。
「藤川渉の何がいいのさ。私にはちょっと理解し難いかなあ」
真奈子はわざと千秋を怒らせるような言葉を選び、千秋の反応を楽しむ。案の定、千秋は真奈子に怒鳴る。
「ちょっと! 何言ってんのよ! 藤川くんの悪口いわないでよ。超格好いいし、頭もいいじゃん。あとスタイルと!」
格好と、頭とスタイルが良ければ誰でもいいのかと、真奈子は疑問に思う。一番大事なのはやはり性格ではないかと思われる。
「だって藤川渉、なんか怖い」
「怖いってあんた、いい加減その対人恐怖症治したら?」
「対人恐怖症じゃないって。ちょっと人と話すのは苦手だけど、藤川渉はそれとこれとは別の話。なんかあの人、他の人を近寄らせないオーラみたいなのがあるの」
「えーでも、ほら。よく真奈子と同じクラスの菅原さんと杉宮くんと一緒にいるじゃん」
「それは、三人が幼馴染だからでしょ」
ええ! と驚く千秋。口に入ってたご飯粒が真奈子の方へ飛んでいく。
汚い。もっと行儀よく食べて欲しいものだ。
「そんなの初耳! 何その情報。あたし菅原さんとライバルだと思ってたのに……菅原さんの方が立場有利じゃん!」
昔の千秋はこんなに喋る子じゃなかった。
真奈子と千秋は、中学生の頃からの付き合いで、お互い引っ込み思案な性格だった。だが、何かと気が合う友達として仲は深まった。喧嘩も一度だってしたことがなかった。真奈子が千秋を変え、千秋が真奈子を変えたのだ。そうやってお互いやってきた仲だった。
「千秋何もしらないの? 菅原さんは杉宮君と付き合ってるんだよ」
またも、驚く千秋。飲み物を飲んでいた千秋は、危なく口の中のものを噴出してしまいそうだった。
「ちょ、なにそれ! もー早く言ってよねー」
なぜか、自分が悪者になってしまった真奈子は呆れながら、昼食を終えた。
「あ、ねぇ千秋」
真奈子は、先ほど教室で起こったちょっとした事を思い出した。
「何―?」
千秋も昼食を終え、空になった弁当箱をハンカチで包みながら返事をする。
「菅原さんで思い出したんだけど、菅原さんが木町さんをぶったの」
「え、何で?」
興味深い話に、千秋はつい手を止めて聞き入る。
「よく事情は分らないんだけど……木町さんが菅原さんにぶつかったらしくて、それで木町さん謝らなかったの」
「え、それだけで殴ったの?」
「うーん、なんか口論もしてたしね。菅原さんってそういう人じゃん。だからそんな人と関わってる藤川渉は、私あんまりオススメしないよ」
「えーでも、好きなもんは仕様がないでしょ」
千秋は再び手を動かし、ひとり言のように呟いた。