第1章 1-8 UC
白い長い廊下だった。リッチャーとアマンドはもくもくとその廊下を歩き、1201号室と書かれた扉の前で立ち止まり、アマンドはフーとため息をついた。その瞬間、勢いよく扉が彼らの目の前で開かれ
「私じゃないわ~~~」と陽気な声とともに一人の女性が飛び出してきた。
「あら!?」と言いながらその女性はまじまじとアマンドを見つめた。
「いいや!君だ。君しかおらん!」今度は野太い男性の声とともに大きな男性が廊下に出てきた。「おや?」野太い大柄な男性がこちらをじっと見て吐き捨てるようにこう言った。
「こいつが例の……。ふん!いい身分め!」
「……!?」アマンドは驚いた。
「さあ君たちいつも通り元気なことだ。もう休憩時間は終わったはずだ。部屋に戻り給え。」
「はい」
「ふん」
その男女は部屋に戻っていった。そうすると部屋の中からまた別の女性の声がした。
「さあ、あなたたち席に着きなさい。これはリッチャー様、この子が例の」
「そうなんだ。よろしく頼むよ。」そう言うとリッチャーはアマンドに向かって
「あとはこのラー先生に任せるとするよ。ラー先生あとは頼んだよ」
「はい。」
リッチャーは去っていった。それを見送ると、ラーはくるりとアマンドのほうに向き直り
「ではアマンド君今日から私たちの仲間です。」と言うとほかの人が座っている席をまじまじとみわたし、こう言った。
「みなさん、この前申し上げたように今日からアマンド君が仲間に入ります。それぞれきちんとした距離感を保ちながら、仲良くするように。」
「はーい」
とみんな同時に叫んだ。
「よっよろしくお願いします。」アマンドはそういうとぺこりと頭を下げた。
「さてみなさん、新しい方が入ったのだから、ここの概要を伝えねばなりません。」
それを聴くと各々くつろいでいた体がピシッと締り、アマンドとラーのほうをキビっと向いた。
「よろしい。では、哲巳君、UCとは何をするところですか?」
先ほどの野太い声の男性がのっと立ち上がり、低いがよく通る声でこういった。
「はい。UCとは、古代語のUniversityとCollegeを組み合わせた造語で、「学びや」という意味です。つまるところ、アルスのなかでも最上位にあたるプリームス・アルスを目指す者たちが集い、学び、互いに競いあう場でもあります。」
「よろしい。」
「さて、プリームス・アルスになるためここでは具体的にどういったことを行うのですか?そうですね、アメルダ、答えなさい。」
そういわれた一番窓際の席に座っていた女性がすっと立ってこういった。
「ラー先生が出す課題をクリアしていくこと。それにつきますわ。」
「よろしい。そう、ここでは・・・。」
「ヘックッション!!!!!!」
急にどでかい地鳴りが鳴ったと言わんばかりの爆発音が目の前でぶち上げられて、アマンドは面をくらった。
「サリバース。どうしましたか?」
黄色の長髪の人間がゆっくりと立ち上がりこう言った。
「す・い・ま・せ~ん。どうも新しい人が来たせいか。なんか変な炭のにおいがしてくしゃみをしてしまいました。」
アマンドはすかさず、クンクンと自分のにおいをかいで、臭くないことを確認した。
「くしゃみは・・・いいですか?」
「は~い」
「ゴホン、改めてここは今この部屋に居るものたちが仲間であり、競い合う者どうしなのです。ここできちんと学びを得なさいね。アマンド君」
アマンドはすべてを理解したわけではないが、流れでコクンとうなずいた。
「さて、今回の課題は」
そう言いながら、おもむろに黒板に文字を書いていった。
『本づくり』
と彼女は黒板に書いてから。
「本を一冊作ってください。期日は3か月後とします。」
その瞬間、空気が凛と張り詰めた。そして、アマンドは周りを見渡すと各々の顔に自信が満ち溢れているように感じた。
「原稿用紙などの本づくりに必要なものはすべてこちらで用意します。みなさんは思う存分良い本をつくってください。」
彼女はまるで規則に従うかのようにニコリと笑った。そして、部屋を出て行った。
それと同時のタイミングで、先ほど部屋から出てきた女性がアマンドの前にやってきてこう言った。
「よろしく~私はマリアーナ」
そう言うと彼女は手を差し出した。
「・・・よろしく」
アマンドは女性から握手を求められたことが少なかったので、少し照れながら握手に応じた。」
そんな様子を見ていた野太い声は、さも不機嫌そうに
「そんな童貞臭い、青二才が特別枠ねえ。」
とつぶやき、こう言った。
「俺は、哲巳!て!つ!み!だ!青二才!よーく覚えておけ!」
「よっよろしく。」
アマンドはマリアーナがしたように握手を求め手を差し出してみたが、哲巳は素通りし、どこかへ行ってしまった。だからアマンドは手を引っ込めようといたところ、先ほどの爆弾くしゃみが両手でその手をぎゅっとつかみ、上下にぶんぶんさせながら
「僕はサリバースと申します!いや~仲良くなれそうな同性が来てよかった~」
そう言うとどかっと自席に座り
「いや~哲巳君はああでしょ?だから難儀してねえ。いや~助かった。」
と言ったと思ったらまた爆弾を投下した。
「いや~失敬。これは『くしゃみ』だ、爆弾などではない!」
「・・・・・はあ」
アマンドでも少し気負いしながらそう言った。するとマリアーナが
「アメルダ!あなたの番よ!」
と窓際の席に座っている女性に声をかけた。
「ふん!」
そう言いながらまるで九九をそらんじるかのようにこう言った。
「アメルダ・ピオーネ。アメルダ・ピオーネよ。」
「アメルダ・・・『ピオーネ?』」
アマンドは名前を確認するようにつぶやいた。
「もしやこいつ。王家の人間を知らんのか?」
「おうけのにんげん」
「僕が説明してあげるよ」
そう言うとサリバースは教室の黒板にアマンドの名前とアメルダの名前を書いていった。
「アマンド君の名前は、アマンドのみだよね?」
アマンドはうなずいた。
「でもアメルダ君はちょっと違うんだ。アメルダという名前の後に『ピオーネ』という名前がまたつく。これは王家の血筋に当たる人間が持っている『ミョウジ』と呼ばれるものなんだ。古のひとびとはそれを持っていたそうだけど、今では一部の人間のみが持っているものなんだよ。そんなかんじであってる?」
「当ってるわよ。」
「まあそこまで気にしなくていいわ。よろしく」
そう言うとアメルダは座って外を向いてしまった。
「さて自己紹介はそんなかんじね。それにしても、次の課題は本づくり・・・燃えるわ」
マリアーナの眼は炎に燃えていた。
「ふん!そんなに気張らずとも造作もなくこなせそうなお題だな」
「あら!そう?でも簡単だからこそどこまで作り上げるのかが重要になりそうだけど」
「本など、古今東西の哲学者の言葉を引用すればすぐに完成できる。」
「それは哲巳君だからできるんだよ(汗)」
「あっあの!」
アマンドが大きな声を出した瞬間周りの生徒の目がアマンドを捉えた。
「本?・・・とはどのようなものですか?」
静寂に包まれた。
「・・・こやつ・・・特別枠だというのに『本』がどうものかわからんのか・・・・?」
「はい。」
「はっはっはっはは!!!」
「こりゃあ傑作だ!本も知らん奴がプリームス・アルスを目指す!滑稽にもほどがある!・・・あまりにもばかばかしくてだんだんイライラしてきたな。」
「てつみくん!・・・アマンド君もしかして今まで本を読んだことが無いの?」
アマンドはこくりとうなずいた。
「あっあの僕、ずっと炭坑で仕事をしてきて、仕事を教わるのも見よう見まねだったから文章というものをちゃんと読んだことが無いんです。絵本ならすこし・・・」
「えっえほん!」
「哲巳君!・・・アマンド君、だと読み書きはできないの?」
「いっいえ。母が教えてくれたので読み書きはできるのですが、本にふれたことが無いだけです。」
「そうなんだ」
サリバースは少し考えると
「じゃあ『本』とはどんなものか見に行かないか?」
アマンドはこくりとうなずいた。




