運命
〈運命〉
「起きて、いや起きろ。少年!何なら今すぐ起きなければ私直々の蹴りを食らわして差し上げよう。」
耳元に響き渡る大きな声に飛び起きる。
勢いよく起きたからか、それともこの地に降りたときに思い切り頭をぶつけてしまったのだろうか、後頭部にかけて思い切り痛みが走りうめき声をあげながら頭を押さえた。
「ど、どうした!?愛李?」
慌てるような様子で俺の顔を覗き込む先生、否、天照は「嗚呼、やってしまった」とつぶやいた後俺の後頭部へと手をのせる。
「いっ~・・・!!」
手を当てられた箇所がひどく痛み出し思わず目を瞑る。数秒間が数十分に思えてくるほどその痛みはすさまじいもの。
「ほれ、もう痛くはないか?」
その声と共に手が離されれば一瞬にしてその痛みは消えていくそんなような気がした。
後頭部を触って確認すると、目の前の神様が言う通り本当に先ほどのような痛みも感じられない。
彼女が本当に神なのだとこの瞬間完全に理解してしまった。
「い、たくはないです。」
「そっかぁ、いやぁ、まさか着地失敗していたとは思わなくてね、失敬」
前言撤回してもいいだろうか、そういって能天気に笑う彼女に返す気力もなければ怒る気力すらなく、こうもドジでなじみある性格ゆえか古い付き合いゆえか深い溜息を吐くにおさめた。
神様とは言えどやはりドジもあり人間味がある様だった。
そんなことを考えながらも自分の体を確認するようにゆっくりと立ち上がる
都心部とは違う清らかで澄んだ風が頬を撫でていった。
草木が美しく空が幻想的に光り輝く空間はもはや自分が暮らしていたあのブルだらけの狭く感じていた空間とは違う、広くそして広大な世界だった。
「あの、此処は一体どこですか?」
俺の問いかけに天照は両手を広げ俺の目の前へとステップを踏みながら満足げに笑みを浮かべた。
「ここは神の住まう世界、八百万だけではなくすべての神が住まう楽園の場所、」
「ようこそ、愛李。われらの楽園へ、とまぁ早速だけど私についてきてくれないかな?質問は歩きながら受け付けてあげるから」
何処か高圧的にいう彼女に素直にうなずいた。
この頼みを断れば自分は一生帰れないと分かったからだ。
というか、まず家に帰る方法を聞かねばと思った矢先、彼女に思い切り手を掴まれ引っ張られてゆく
「そう言ってくれたのなら早速行くぞぉ!」
「え、ちょっと、まずは家に帰れるかだけ・・・!!」
「家?嗚呼!案ずるな、此処の時間がいくらたっても向こうとは異なる時間の流れであるからな!なぁに、帰りたければ言うことに従えば帰れよう」
そういわれてしまえば何も言えず、大人しく手をつながれ引っ張られるように歩いていく。
「まず個々の説明から始めていくとしようか。此処からは見えないけれど、此処は空に浮かんだ島国さ、下は冥界、まぁいわばお前達が行く冥府の場所さ。」
「え、僕ら死んだんですか?」
その言葉を聞き体の体温が抜けていく感覚に身震いしながらそう問いかけた
「いやいや、何言っているのさ。まず、君は死んでいない、そして君を殺すほど私も鬼ではないし君を気に入っているんだよ?」
その何言ってるんだこいつみたいな顔をされてしまえば自分も侵害だと顔を顰める。
下が冥府と聞いたらそれは誰だって死んでいるのかと考えてしまうものではないだろうか。
「まぁ、話を戻すけれどここは浮島になっているって言っただろう。上空右端に小さな島が見えないかい?」
そう言われ、右端の法をよく観察すれば少々見えずらい物の確かに島のような物体が雲に見え隠れしながら浮いているのが見えた。
「確かに小さく見えますけれど、あの島って」
その問いかけに彼女は首をかしげながら
「それがなぁ、いつできたかは不明なんだ、ほかにも五つ以上浮島はあるけれど、まぁ、そこも歩きながら説明していくさ。」
けらけらと笑いながら歩く彼女に大丈夫なのかとため息交じりにうなずいて彼女の後へとついて行く。
「おお!見えたぞ。すべての神が暮らし集う街、【プラネタリア】だ」
そういって指をさした方向を見て、息が止まる
美しく光り輝く月が大きく浮かび上がり、たくさんの蝶や魚が浮遊し美しいガラスの建物が建てられていた。
そんなひときわ輝く中心部には大きなドーム状の建物があり、どこかこの街にはそぐわない空間が広がっていて
「スノードームみたいですね」
「君本当にロマンチックのかけらもないな…そこは綺麗とか、まるで美しいガラス細工のようだ、とか」
「そういうあなたこそ語彙力のかけらもないじゃないですか。」
「何を言うか、私の美しい言葉遣いをバカにしおって」
そんな軽口をたたきながらも町へ向かい歩みを進めていく。
歩みを進めるにつれて見えてくる景色は本当に美しく、すぐそばに居た魚が泳ぎ過ぎ去っていく。
「いらっしゃい、いらっしゃーい!いいモノ売ってるよ!!」
「ユニコーンの毛皮にグリフォンの脱皮物、今日は大安売りだ!」
「…何ですかこれ」
目の前に広がるマーケットから聞こえてきた喧噪に思わずそんな声が漏れ出てしまう。
「人間らしい言葉が聞けたな」と意地の悪い笑顔で俺を見る天照のおでこを軽くデコピンし、あたりの並べられている商品を天照に引っ張られながらも観察し始める。
見たこともない虹色の羽毛や、宝石のような美しい目玉、何より僕らが食べるような食品や植物など見たことがないものよりも見たことがあるものの方が格段に多く、意外だな、なんて他人事のように考えていたときだった。
「ん?そこにいるのは天照様、と君は?」
背後から声をかけられ振り向けば片手に紙袋を持った華奢な青年が俺たちの元へ近づいてくる。
異国のような美しいブロンドの髪に青い瞳、思わず後づさろうとすればさせるものかと言うように天照に襟首をつかまれる。
「何をそんなに後づさっているんだか…」
呆れた顔でそういう天照は何を思ったか俺を目の前の青年の前へと突き出した
「ここで出会えたのも何かの縁だ!ゲイルお前の新しい新メンバーだ。」
ゲイルと呼ばれた青年は目を見開き俺と天照を交互に見つめ何度も首をかしげていた。
「え、聞いてないんですが…」
「うん、今言ったからな」
あっけらかんと言い放つ彼女に「貴方らしいけれど…」なんて頭を抱えながらうなだれていた。
正直かわいそうだな、と感じた。
「まぁまぁ、人数が増えるのはいい事だろう?」
「だからと言って、お茶菓子を用意できていない状況なんて…」
「そっちを気にするのか?」と突っ込まれてしまうゲイルさんは当然だというように自信満々にうなずいていた。
何だろうか、天照と同じ雰囲気がうかがえてしまった。
「まぁ、無駄話もここまでにしておこうか。ゲイル、屋敷にいるあの陰鬱布神…分かったかな?」
その言葉に納得したのか苦笑交じりに頷いていた。
「じゃぁ、愛李私はそろそろ行かねばならない。案内はこのゲイルがやってくれるさ。」
「家の帰り方は…」
暫くの間の後忘れてたと言うように天照は袂から小さなかけらを取り出し俺に手渡した。
光り輝く美しいその小さな石はどこか引き込まれそうな色を放っていた。
「この石は、そうだないずれ分かるだろうから、ゲイルについて行け。」
説明がもはやめんどくさいというように天照は俺に向かって言い放った後、消えていったのだった。
「…責任力がない」
「あはは…まぁ、あの人らしいね。」
呆れ笑うにゲイルさんに静かにうなずいた後改めて自己紹介をしようと向き直った。
「初めまして、改めて自己紹介しますね。愛李ディシードと言います」
「嗚呼、そうだったね。僕はゲイル。ゲイル・ラーション、宜しく。」
そう言いながら右手を差し出され自身もそれに応じ握手を返した。
「さて、早速僕らの拠点に行こうと思うんだけど、それで良いかな愛李さん」
「はい、あ、そうだ愛李で大丈夫ですよ。」
「え、いいの?なら、僕もゲイルでいいよ、ついでに敬語もいらないからね。」
その言葉にうなずき返すとゲイルさんは笑顔を浮かべ俺の手を握り歩き出した
なぜ手を握るのだろうかと首をかしげたが、この人通りもあってはぐれない様にしてくれているのかと納得いけば、何も言わずついて歩く。
「あ!手をつないでしまっていたけれど大丈夫だったかな?はぐれないか心配で」
「ええっと…僕は別に気にしないですから」
安堵の表情をするゲイルに笑いかけ、少しでも緊張をほぐそうと口を開いた。
「あの、何でゲイルはここにいるの?」
その問いかけに俺を見て「本当に何も聞かされてないんだね」と苦笑されてしまった。
本当に申し訳ないがこの世界のこと以外何で自身がここに来ることになったのかすら、まだ聞かされていなかったのだから。
「そうだね、ここに来た理由は…戦うため。あとは、願いをかなえるため」
何かを言いたそうにしていたゲイルだったがしばらくの静寂の後出てきた言葉はそれだけだった。
「戦い…叶えるって?」
「あ、此処だね。じゃあ目を閉じてくれないかな。答えは後のお楽しみにね」
その言葉に首をかしげどういう意味かを問いかけようとしたのだが、言われるがまま目を閉じ、口を閉ざした。
強い風が巻き起こり思わず目を閉じた。
何も見えていない状態の中、視界の情報もなく飛ぶような感覚と共に何が起きたのか理解できないまま、自身の意識は深く落ちて行ってしまったのだった。