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第五話 騎士団と仲間(前編)

 晴天の朝、強い日差しが、奏雅の閉ざされた視界を赤く染める。朝の訪れをその身で感じるも、体が重く、腕どころか瞼すら上がらない。

「……うぅ……」

体に力を入れると、渇いた喉からうめき声が漏れる。

「よう、起きたか?」

奏雅は、聞き慣れない声に警戒心を抱き、重い瞼を強引にこじ開け、動かなかった体を無理やり起こす。

 見慣れない部屋だった。豪華な装飾が施され、窓から入って来る明かりが燦々と煌めく。純白の壁、紅い絨毯が、光を反射し、宝石箱の中に居るような錯覚すら覚える。そして、その部屋の中には、一人の男が居た。

 橙色の、肩まで届く癖のある髪。白色に青のライン、金の装飾の入った服。面構えからは、まるで小学生の様に活発で、常に楽しそうな印象を受けるが、一方で鋭い目が大人な雰囲気を醸し出している。奏雅と同年代のようだが、彼からは静かに放たれる威圧感があった。

 奏雅は状況を整理しようと、まだ重い頭を働かせた。

(どこまで記憶がある? 干渉先の世界で道を聞こうと、洞穴に入った。しかしそこは、山賊の様な奴らのアジトで、彼らと戦ったが……負けた……。その後は……)

奏雅は男の顔を観察し、記憶を手繰り寄せた。

(顔は見なかったが、コイツのさっきの声……。確か、洞穴で聞いた気がする。コイツの仲間はなんて言ってた? 思い出せ。確かコイツは……)

「ザイレイ=フィエル」

思い出した名を口に出すと、男は驚いたような顔をした。

「なんだ? あの時、記憶があったのか?」

ザイレイがそう訊くと奏雅は、微かにな、と頷き答えた。

「で? どこから来たんだ? お前は」

口の端を上げて尋ねるザイレイと、返答に困る奏雅。二人がしばらく無言で見つめ合った後、ザイレイが口を開く。

「訊き方がまずかったか? ならば……お前はどこの世界から来た?」

奏雅は深いため息をついた。この世界の人々にとっては、干渉者は身近な存在なのだろうか。

(正体を隠しておくのがヒーローだというのに。あの頭といい、コイツといい……)

「なんだ? 世界って……。俺はここの……」

彼が言いかけた時、ザイレイはクスクス笑い出した。

「下手な嘘だな。自分の格好の違和感に、気付いてないのか?」

そう言われると、奏雅はベッドから鉛のように重い体を起こし、自分の服を見つめた。いつもの仕事用の服……黒い光沢のある、フォーマルな上着に、胸の大きく開かれた、白く、襟の目立つシャツ。

「この世界には、そんな服を着てる奴なんていないぜ?」

活発な少年の様な、ザイレイの無邪気な笑み。それとは対照的に、そんな初歩的なことにも気付かなかった奏雅は、ショックを受けた顔をしていた。

「はははっ。そんな顔をすんなよ。俺は別に、お前がどこの世界から来ていようが興味無いんだ」

ザイレイの眼が、スッと細くなる。鋭い、真剣な眼差し。

「俺は戦いたいだけさ。強い奴と。以前俺が剣を交えた干渉者のような強敵と」

ザイレイはそう言いながら、剣を抜いた。正確に言えば、腕にはめた。円筒状の金属の先端に、中型の刃がついている剣だ。左手には、燃え盛る炎のような、鬼の様な顔がついた何かが、装備されている。

「剣を抜けよ……干渉者」

降りかかる威圧感。奏雅は軽く震え、その肌には鳥肌が立った。

 そこに、ドアを開けて入って来る者が居た。

「失礼します。食事を届けに来ました。彼は目覚めましたか? ……って、ザイレイ隊長! 何をしてるんですか!」

湯気の立ち上る、良い匂いをさせたお盆を近くの棚の上に置き、慌てて止めに入る少年。女性のショートヘアーのような金髪。中性的な顔ながらも、芯の強そうな金の瞳。細い体つきとピカピカな鎧が、ザイレイとは真逆の雰囲気を醸し出している。

「邪魔をするな、リューセクタル。別に殺し合いをしようってわけじゃない。試合だ、訓練だ」

面倒そうに、しかし真剣な眼差しを奏雅に向けたまま、ザイレイは言った。

「ちょっと! この人、一般人じゃないですか! 隊長と試合なんて……!」

少年は、あくまでも戦いを止めるつもりのようだ。ここで奏雅が「戦いたくない」と言えば、ザイレイも剣を収めざるを得ないだろう。

(炎鬼のザイレイ……俺を倒した山賊達が恐れた、騎士団の隊長……)

奏雅は拳を作り、力を込める。

(戦いたい! 一対一ならば、俺がどこまで通用するのかを知るために!)

 少年にガミガミ怒鳴られていたザイレイは、奏雅の拳を見て、不敵な笑みを浮かべる。

「リューセクタル。アイツはやる気だぜ? 無論、俺もな。双方、合意の上での試合だ。お前に止める権利はねぇぞ」

「ありますよ! どこでやるつもりなんですか? 総隊長に知られたら、僕まで怒られるんですよ?」

ふたりの口論が続く中、奏雅は手鏡を取り出す。

「場所ならあるさ。その総隊長とやらにも知られない場所が」

空気が振動し、奏雅の声が震えて聞こえる。光の波紋が、奏雅を中心に発せられる。

「アドレス『ワールド・オブ・プロテクト レベル1』に個体干渉。対象三名」

奏雅は声を出しながら、鏡に触れ、強く念じる。そして、大きく息を吸った。

「防御世界『W-P-1』に干渉、開始する!」

奏雅、ザイレイ、リューセクタルの体が発光し、粒子となって消えていく。

 数秒後、彼等は青色と黒色の渦巻く空間に姿を現した。

「これは一体……?」

リューセクタルは周りを見て、驚きの声を上げる。一方ザイレイは、奏雅に対峙したまま、眉一つ動かさない。

「リューセクタル、ここは異世界だ。ヤツに知られる心配はない。問題解決だな?」

ザイレイの低く、脅すような、威圧感のある口調。実際に脅している訳ではないが、戦闘態勢に入った緊張感が、そうさせているのだろう。

 リューセクタルは反論しようと口を開きかけたが、良い言い分が見つからず押し黙ってしまった。

「そういえば干渉者、お前の名、まだ聞いてなかったな」

「結城奏雅だ」

 奏雅は細身の剣を、相手から剣と体が十字に見えるように、水平に構える。ザイレイは、右腕にくっついた剣を斜め下に力無く下げ、左腕についている炎の鬼を前方に向かって突き出している。

「隊長! 炎鬼まで使うんですか?」

「黙って見てろ。……先手をくれてやる。来い! 結城奏雅!」

責める口調のリューセクタルを一蹴し、奏雅に向かって声を荒げる。

 奏雅は地を蹴り、高速で間合いを詰める。瞬きすら許さないような踏み込み。腕や剣に受ける風圧で、軸がブレながらも、疾風のごとき一撃を振るった。

「……遅いな……」

そう聞こえた気がした。

 奏雅が剣を振り下ろした先に、ザイレイの姿は無かった。手ごたえの代わりに、全身の痺れを感じる。

(後ろか!)

痺れは背中の方が少々強かった。ゆえに、敵は背後に回ったと判断した奏雅は、勢いよく振り返る。

「……ふっ……!」

頭上から聞こえる微かな気合いの声。同時に、頭部への斬撃。今度は痺れだけではなく、全身に痛みも受ける。眼前には、またしてもザイレイの姿は無い。

 奏雅の頬を、冷たい汗が伝って落ちた。表情からは焦りの色が滲み出る。

(ヤツは常に、俺の背後にいる……!)

「ウオォォォオ!」

掛け声と共に、大きくバックステップを踏む。加速と共に体をねじり、大きく薙ぐ。

 しかし、まるで当然のように敵の姿はそこに無く、全身に鈍い痛みが走る。

「……素人だとは思っていたが、ここまで弱いとはな……」

奏雅が声のする方向、即ち背後を向くと、炎の鬼を突き出しているザイレイの姿が目に映る。

「勝負を挑んでおいて、期待通りでは無かったから中止では……失礼だろうな。仕方ない、倒すか」

鬼が口を開くと、空気がそこに流れ込む。中から発せられている熱は、数メートル離れた奏雅にも感知できた。

(なんだ……アレは!)

「行くぞ……奏雅! 炎鬼爆砕!」

ザイレイは奏雅に高速で接近し、鬼の口から巨大な炎が打ち出した。

(避けれない……!)

間近に迫る炎に、目をつぶる奏雅。

 一秒、二秒……三秒経っても、身が焼かれる気配はない。奏雅は恐る恐る目を開いた。

「何してるですかぁー、奏雅さん」

巨大な炎を圧縮し、打ち消す沙希の姿があった。

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