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第四話 異世界と騎士団

 奏雅が剣を構えると、洞穴の内部で成り行きを見守っていた数十人の男達が一斉に武器を持って立ち上がり、入口に向かってきた。しかし、彼らは武器を構えてはいるものの、襲い掛かってくる気配はない。

「おい、何してやがる! さっさとこいつを殺しちまえ!」

頭は構えたまま動こうとしない男達に一喝した。

 男達がその声にオロオロしている中、その中の一人が口を開く。

「お頭、そいつの動き、見なかったんですかい? あの三人に触らせることなく……強すぎますぜ」

「テメェらこそ、見てなかったのか? そいつの動きは確かに速いが、どう見ても素人のそれだ。その証拠にそいつらの腕を見てみな」

 頭が先ほどの三人を指差した。男達と奏雅がその三人の腕を一斉に見ると、そこには紅い歪な曲線が刻まれていた。

「そいつに斬るつもりが無かったのはわかるな? だからそいつは刃を横に向けた。それにもかかわらず、そいつらの腕は切れている。その傷は慣れない剣の扱いと、横に向けた時の風の抵抗による手元の狂いが原因だ」

 彼の言うことは当を得ていた。手鏡の力で身体能力が格段に上がっているとはいえ、剣を振るうことはおろか、喧嘩すらまともにしたことが無い奏雅が、実戦において完璧な攻防ができるはずもない。

「つまり……人海戦術で責め続ければ、必ずボロが出るはずだ。テメェら! 素人が俺達のアジトに単身で乗り込んできたことを、死をもって後悔させてやれ!」

 頭の言うことに納得したのか、男達はそれぞれ大声を上げて奏雅に向かい駆けだした。

(さすがにこの数が相手では……)

 圧倒的速さで攻撃をかわすも、周りを囲まれた状況での無数の攻撃に、反撃する余裕は彼にはない。

 雨のように武器が奏雅に向かって降り注ぐ。武器はこん棒、鉄球、短剣など実に様々である。

「頭の言った通りだ! こりゃあ嬲り殺しだぜ!」

下品な笑い声が聞こえる中、弱まることのない攻撃の嵐。

 奏雅は頭上から迫りくる鉄球を左に避け、しつこく狙うこん棒の追撃を後ろに下がり、空振りにさせた。しかしその時、背後から勝ち誇ったような声が上がる。

「もらったぁー!」

奏雅の背中に向かって一直線に飛び出す男の声。その手にはキラリと切っ先の光る短剣が握られている。

 男達の歓声が上がる。同時に短剣の刃先が奏雅の背中に接触する。

「くっ、しまった……!」

 しかしその刃が刺さることは無く、代わりに奏雅は全身に強い痺れを受けた。

「あれ?」

奏雅は背中を触るも、血が着くどころか服すら無傷だ。

 それを見た男達は攻撃の手を止め、訳がわからない、といった表情で立ち尽くしている。そして、それは奏雅も同じだった。

「小僧……干渉者かっ!」

静寂を突き破り、頭は声を荒げて奏雅に問う。

 その問いに対し、奏雅は答えることに躊躇する。詩亜には干渉先の実在する世界では、極力干渉能力について秘密にしてほしいといわれている。スキルを発動しないのもそのためだ。だが相手が干渉について知っている場合はどうなのだろうか。

「お頭! なんですかい? その干渉者ってのは」

先の刃物を持った男が頭に尋ねた。

「俺も詳しくは知らねぇ。だがついこの間、そう名乗る奴が隣の国に現れたらしい。そいつはコイツと同じように、刃物で攻撃しても傷つくことが無かったそうだ」

(聞いてないぞ……詩亜)

 刃物によって刺される、あるいは斬られるというのは、小面積に強い力が掛かることによるものである。干渉者は身体に加わる圧力を体全域に分散する能力がある。それ故に傷を負うことは滅多にないが、全身を鈍器で殴られたような衝撃を受けることになっている。

「フン。傷つくことは無くても、効いてないってことはなさそうだな」

頭は奏雅の痛みに顔を歪めた一瞬を見逃さなかった。

「便利な能力だ。だが哀れな力でもある。なんたって、楽には死ねないんだからなぁ! 野郎ども、攻撃の手を休めるな。この小僧をブチ殺せぇー!」

 頭の号令と同時に男達は再度、奏雅に襲いかかった。奏雅は降り注ぐ攻撃を、初めは前後左右と巧みにかわしていたが、戦い慣れしていないため無意識に規則的に避けるようになってしまう。

 防戦一方の攻防が続き、三度目、右の後に左へかわした時だった。

「死ねぇっ! ザコがぁ!」

一人の男の攻撃が、ついに奏雅をとらえた。背中への鉄球による一撃に、体全体の痛みを感じ、その動きが止まる。その刹那、男達は奏雅に集中攻撃を浴びせた。

 怒号と共に、男達はそれぞれの武器を、奏雅に叩きつける。

(……まずい……意識が、遠のく……。調子に、乗りすぎたかな……)

 奏雅は攻撃を受け続け、ガックリと硬い地面に膝を着いた。

「お頭っ! 大変ですぜっ!」

その時、洞穴の外に居たであろう男達の仲間が、慌てて駆け込んできた。

「騎士団がっ、騎士団がこのアジトに向かってやって来やがった!」

見張りであろうその男は声を荒げて訴える。

「騎士団? この辺りの騎士団など、俺達に刃向かうことのできない腰抜け揃いだろう。どこの国のだ?」

奏雅が攻撃を受け続ける中、二人が会話している。

「それが、フルーエル騎士団のようで、一番隊隊長のザイレイ=フィエルが先頭を歩いて……」

「何だとっ!」

 頭が大声を上げると、男達は攻撃の手を止めて、会話中の二人に注目した。

「野郎共! 今すぐこのアジトを捨てて逃げるぞ!」

 頭の突然の撤退宣言に、男達は眼を丸くした。

「奴だ! 『炎鬼のザイレイ』がここに向かってやがる!」

その言葉と共に、洞穴の中は騒然となった。

「ザイレイ=フィエルだと? 冗談じゃねぇ!」

「奴に関わるなんて、地獄に行くのと同義じゃないか!」

 男達は、一斉に荷物をまとめ、ばらばらに洞穴から駆け出ていく。

「小僧、命拾いしたな。これに懲りたなら、二度と俺達の前に姿を現すな。次は……殺すぞ」

頭が、男達が出て行った後、最後に残ってそう言った。

(……助かったのか? 俺は……)

 奏雅の霞む視界に、去っていく頭の姿だけが映る。やがて、奏雅はゆっくりとその目を閉じた……胸に敗北の悔しさを抱きながら。




 ゴツゴツした岩の上。その寝心地の良いとは口が裂けても言えないであろう場所に、奏雅はうつ伏せに身を横たえていた。

 体中が、これまで経験したことのない痛みに襲われている。足や腕はおろか、瞼すら動かすのが億劫だ。しかし、辛うじて意識はあるようだ。彼の耳に、いくつかの話し声が聞こえてきた。

「静かだな。奴ら、勘付いて逃げ出したのか?」

 男の事務的な低い声。

「そのようですね。ザイレイ隊長、どうしましょう?」

 今度は高い声。女性ではないが、声変わりした男の声には聞こえない。

「ほっとけ。俺は戦う意思が無い奴らに、興味ねぇんだよ」

 そして、リズムに乗せて話している様な錯覚すら覚える、元気な若い声。

「まさか隊長……勘付かれたの、わかってました?」

「勘付くって……。思いっきり見張りが見てたじゃないか」

 高い声の主の責めるような口調に対し、ザイレイは軽快に笑って答えた。

「なんで対処しないんですか! 今回の山賊討伐の任務、失敗じゃないですか!」

「失敗じゃねぇよ。今回の任務は山賊鎮静化だ。討伐じゃねぇ。戦いもせずに逃げる奴らなんざ、戦ったって面白くないんだ。ならば無駄に殺し合う必要もないだろう」

 声の主たちは、コツ、コツ、と足音を鳴らし、洞穴周辺を調査するように歩きまわっている。どうやら洞穴周辺に居るのは三人で、他の者はどこかで待機しているようだ。

 やがて、それらの声が、奏雅に大きく聞こえるようになってきた。洞穴内部に足を踏み入れたのだ。

「ん? おい! 誰か倒れてるぞ! 大丈夫か? 君!」

 大声を出し、駆け寄ってきたのは、事務的な声の主だった。

「……うう……」

肩を揺らされた奏雅から、低いうめき声が漏れる。

「状態は?」

ザイレイが辺りを見渡しながら尋ねた。

「見てわかる傷はありませんね。骨折、内臓破裂などもなさそうです」

 事務的な声の男は、奏雅の体を観察、触診し、答えた。

「そうか……。ならば、城に連れて帰れ。事情を聴く必要がありそうだ。……どこから来たのか……とかな」

ザイレイは口の両端を軽く上げ、そう言った。

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