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第十二話 a new life

お久しぶりです。

忙しかったり、パソコンが使いにくい環境だったり、保存していたUSBメモリが家出したりと、まぁいろいろあって久々の更新なわけです。


この文章を読んでくださってるということは、最新話を読もうとされているということでね、非常にありがたいです。


ネタだけはポンポン出てくる上に、この話はエンディングまで考えられているので、時間があればスムーズに更新できるんですけど……。


え~、気長にお付き合いくださいな。

あ、サブタイだけはネタ切れです。

 光と共に四人が降り立ったのは、詩亜の鏡屋だった。窓から入り込む光が鏡面や棚、床などに反射し、キラキラと輝いている。夜だと神秘的かつ不気味に感じられたその店は、早朝だとこんなにも神聖で清らかになる。数日間離れていただけなのに懐かしく思われる太陽の光に奏雅は自然と微笑んだ。先程まで居た世界にも似たような恒星はあったのだが、やはり慣れ親しんだ太陽とは違和感があったようだ。

 奏雅がエクトをチラリと見ると、好奇心にあふれた顔でキョロキョロと色々なところに目を向けている。

「さて、私は出かけてきますので。沙希さん、後はよろしくお願いしますね」

 詩亜はそう言うと鏡面から金の輪を取り出し、干渉を始めた。その行動はあまりにも素早く、沙希を含めて誰もが止められなかった。

「アイツ、ケガが治ったばっかりなのに大丈夫かよ。戦いに行く気満々だったみたいだが……」

「まぁ色々大変なんですよぅ、しぃちゃんは~。心配ですけど、我々大人は温か~い目で見守ろうじゃないですかぁ~」

 飄々とした口調とは裏腹に、表情は心配そうなものだ。しかしそんな顔も、すぐいつも通りに戻る。

「さ~て、それじゃ面倒ですけど、私は奏雅さんのせいで増えた面倒な仕事でもしますよぅ。極めて面倒ですけど」

 沙希はエクトの襟をむんずと掴み、ズルズルと奥に引きずって行く。

「あの、僕はどうしたら……?」

「戸籍の偽造とか干渉についての説明とか色々しなきゃならないんで。今日は徹夜ですかねぇ~。まぁ二回目なんで、手際はそこそこ良く出来ますけど、それでもやることが多くて。あ、奏雅さんは店番よろしくおねがいしますねぇ~」

 扉の閉まる音の後、店内は静けさに包まれた。一人残された奏雅は大きく息を吐くと、カウンターの椅子に腰掛けた。軋む音が古風な店内に響く様には趣がある。

 奥の部屋から聞こえる二人が立てる物音は壁に阻まれ、どこか遠くからの音のように感じられる。

 奏雅は焦点をずらして風景をぼやかし、カウンターに肘をついて考えごとに耽った。

 自分の実力の無さ。服装と武器の変化。メストルとその大量発生の原因である人物、ザグイ=ラ=ドイクェ。そして、詩亜にあそこまでの大ケガを負わせた謎の敵。その他にも考えることは山程ある。

「はい、エクトさん。考えて下さい。誕生日、出身地、偽名、それから……」

「えっと、誕生日は……」

 二人の小さな話し声はさらに小さくなり、奏雅の視界が狭まる。

(どうせ客なんか来ないだろう……)

 腕の中に顔を埋め、彼はゆっくりと眠りに落ちていった。




 肩を揺する微弱な振動と女性の可愛らしい声で、奏雅は眼を覚ました。東に輝いていた日は既に西に傾き、店内は橙色に染まっている。

「ちょっと、なに寝てるですかぁ!」

 ぼやけた視界が徐々に鮮明になり、頬を膨らませた沙希の顔が奏雅の目にハッキリと映った。

「なんだ、徹夜じゃないのか?」

 大きな欠伸と共に、そんな疑問が口から漏れる。先の隣に立っているエクトは、呆れたような苦笑いを浮かべている。

「エクトさんは、もう訊くべきことも訊きましたし、説明すべきことも説明しましたので、後は私が仕事するだけです。あ、その前に色々話し合わなくてはならないことがありましてぇ~……」

 話し合いによって決められたのは、エクトの住居や学校についてなどだった。結果、一人で暮らしている奏雅の家で暮らすことになり、学校も行った方がいいとのことで、奏雅と同じ高校の一年生として転入することが決まった。

「しかし、騎士団で数学とかをやっていたようには見えなかったが、いきなり高校なんて、勉強は大丈夫なのか?」

 しばらくの間、騎士団で生活した奏雅だが、彼等が勉学に励んでいる姿は見ていない。

「あぁ~、それなら大丈夫ですよぅ。ちょっと裏技がありましてぇ~」

 沙希が目配せすると、エクトは懐から鏡を取り出した。

「さっき頂きました。自由スキルは『支援』です。傷の手当てや衝撃を吸収する盾を出したりできるはずです」

 奏雅に付いてくる以上、鏡が無ければ話にならない。そういう訳で、エクトは詩亜から手鏡を貰う約束をしていたのだ。

「手鏡が……なんだよ」

 奏雅の知る限り、手鏡には勉強ができるようになるシステムなどない。もっとも、奏雅が手鏡の全てを知っている訳ではないのだが。

「このエクトさんの手鏡、ほら、レリーフのところに綺麗な珠がついてますよねぇ。これが裏技……です」

 良く見ると、エクトの手鏡にはキラリと光る、翠色の小さな珠がはめ込まれている。

「これは世界の常識を変換するものですねぇ。つまり、エクトさんが向こうの世界で十六歳レベルの常識を持っていたとしたら、こちらの世界でも十六歳レベルの常識が得られるという素晴らしい一品です~」

 話を聞いて、奏雅は納得する。だから学校にも行くのだ。騎士団の世界に帰った時に、その知能を周りに対して劣らせないためだ。

 そこで、奏雅はふと思った。異世界と常識の変換ができる道具。そんな便利なものが有るならば、自分にもくれていいのではないかと。

「沙希、その珠……」

 奏雅が言いかけた時、沙希はそれをすぐに遮った。

「これはこの世界専用なので、他の世界に対しては効きませんよ」

 ここで奏雅は再び考える。防御世界、防御領域、受け流せる圧力。鏡から受け取れる武器に、この珠。どうも都合の良いものが有り過ぎるような気がしてならない。

 その旨を沙希に伝えると、彼女は大きく機嫌を損ねた。

「都合が良いって……当り前じゃないですかぁ! しぃちゃんが、あの小さな体で寝る間も惜しんで一生懸命に作ってるんですよぅ! それを何ですか、都合がよすぎるって。それでも人間ですか!」

「……すんませんした」

 烈火のごとく責め立てる沙希に、奏雅はすっかりと気圧されてしまった。その後、沙希による愚痴がしばらく続くと思われたが、仕事に取り掛かると言い、意外にもすぐに解放された。




 二人が鏡屋を出てから奏雅の家に着くと、日はすっかりと沈み、辺りは闇に包まれていた。街灯や周囲の家から漏れる光が、視界を僅かに照らしている。

 そんな住宅街の中、特に珍しいというものではないが、明かりの灯っていない建物が一軒。庭付きの三階建てという、少々大きめの家だ。そしてそこが、奏雅が一人で暮らしているところなのだ。

「うわ、汚いですね」

 玄関をくぐり、電気をつけて開口一番、エクトはそう言った。そう言われるほど汚れてはいないのだが、エクトはどうも綺麗好きのようで、多少の散らかりも気にするようだ。

「片づけてもいいですか?」

「好きにしていいぞ、俺は飯でも作ってるから。お前の歓迎も兼ねて、特別に腕を振るってやるよ」

 そう言って、彼らはそれぞれの作業に移った。

 初めて、だが、使い慣れたという不思議な感覚で、エクトは掃除機をゴロゴロと動かしている。キッチン近くまで掃除した時に、ある疑問が浮かんだ。

「そういえば奏雅さん、料理できるんですか?」

 包丁の音は、プロや主婦のようにとはいかないまでも、そこそこ軽快なリズムで刻まれている。

「そりゃ一人で暮らしてるんだから、少しくらい出来て当然だろ。まぁちょっと待ってろよ」

 それから奏雅はフライパンや鍋を使って調理を進め、エクトがちょうど掃除を終えたころに手を止めた。そうしてテーブルに並べられた料理は、どれも綺麗に彩られており、食欲をそそる見事なものだった。

「お疲れ様です。美味しそうですね」

 食卓に着き、料理を眺めたエクトが感想を口にする。

「そりゃどうも。さ、食おうぜ」

 そう言うと奏雅はスプーンを手に、料理に手をつけようとした。しかし、そこでエクトからストップが掛る。

「ちょっと、『いただきます』は!?」

「お前……この世界に馴染むの速過ぎ」

 エクトは食事の挨拶をし、スプーンでポトフを掬い、口に運んだ。

「……これ、いつも食べてるんですか?」

 眉間にしわを寄せ、不満顔で尋ねるエクト。その口は、わずかに震えていた。その様子は、今にも吐き出したいという衝動を必死に抑えているように見える。

「いや。一応、歓迎の意味を込めて普段作らない特別メニューにしてみた……んだが、不味いか? そういえば、面倒だから味見をしていなかったな」

 エクトに続き、奏雅もポトフを口にする。直後、その器をエクトの方に押しだした。

「……食え、お前のために作った料理だ」

「要りませんよ! そしてこれ全部、こんな酷い味なんですか?」

 ドレッシングが掛けられたサラダ、スープを指して、エクトが言う。主食であるフランスパンだけが、安心して食せるものだった。

「食ってみないことには何とも……」

 そう言いつつも、奏雅はサラダを遠くに押しやり、スープを黙々と食している。エクトは恐る恐るサラダを口に運び、またしても顔を歪めていた。

「これも酷い味ですね、全体にかけられたドレッシングが。これでは残り一品も、期待はできそうに……ん!? このスープ、すごく美味しいじゃないですか!」

 エクトが最後に口にした品、それはプロ顔負けのスープだった。薄めの味付けは素材の味や風味を引き立て、出汁は味に程良い深みを与えている。

「どうしてこれだけ、こんなに美味しいんですか?」

「いつも作っているメニューだからな、豆のスープは。豆を入れるとなっては、どうしたって不味くするわけにはいかないだろう?」

 エクトの問いに対する奏雅の答えは、彼には理解できないものだった。

「理由は、豆……ですか?」

「あぁ、豆だ」

 こうして、二人がこの家で過ごす最初の夜は更けていった。

今回は平和な話でした。平和が大好きなんで楽しかったです。

次回も……文字数的な関係でどこまで進むか分かりませんが、きっと平和的だと思います。


……むしろこのまま何も起こらず、起こさず、平和に楽しく過ごすというのも、ある意味では新展開で超展開かもしれないなぁ。

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