第十話 援軍と黒い影
正義の味方、満を持しての登場! さぁ戦いの結末は如何に……?
……と、ちょっと煽ってみました。
では御覧下さい。どうぞっ。
金色の輪に、どこからか次々と注がれるエネルギー。光として目視できるそれは徐々に大きさを増していた。そしてある程度肥大化したところで、詩亜は翳していた手を輪から離した。光の巨大化はその時を境に停止した。
詩亜は顎に手を当てながら、じっと戦場を見つめている。
「詩亜、それでどうやって地中の敵に攻撃するんだ?」
ようやく意識がはっきりしてきた奏雅は、詩亜の武器を見つめて尋ねる。それに対し詩亜は、片目を茶目っぽく瞑り答える。
「それは見てのお楽しみですっ。……ん、そろそろですか」
詩亜は金の輪をフリスビーの要領で構える。その視線の先には巨大なピコピコハンマーを手にした沙希と、それを囲むように群がるメストル達。増援した敵は先程までのものより大きく、凶暴だ。結果、先の生き残りである一体が子供のように見える。
「わわっ! なんか凄い群がって来てますよぅ。こっち来ないでください~」
騒ぎ立てる沙希。突然その足元が発光した。
「沙希さん、飛翔!」
言うと同時に、詩亜は輪を沙希の居る場所に向かって投げる。
「は、はいぃ~」
間の抜けた返事をし、沙希は地を蹴って空に浮かび、そこから急速で離れる。
何度も見た爆発が起こる中、今までと異なるのは宙に停滞する金色の輪。
上空から沙希の声が聞こえる。
「煌めいて、ときめいて、貫いて♪ 放て必殺のしぃちゃん☆すぺしゃる。レンディア・フルハーーート!」
「勝手に変な前口上と名前を付けないでください。……撃ちます!」
いつか奏雅が見た、青白い巨大閃光が地に向かって撃ち出される。それは湧きあがる爆発をいとも簡単に押し返し、地中で弾けた。
悲鳴か、地震か。けたたましい音が鳴り、次第に地面が鎮静化していく。詩亜はようやく立ち上がった奏雅の方を見て笑いかける。
「どんな敵も、攻撃の瞬間はどんな形であれ、私達と繋がっているんですよ……普通は……」
最後の言葉はとても小さく、奏雅はよく聞き取れなかった。
「さて、それじゃあ私は沙希さんを手伝ってきますね」
笑顔を絶やさずに詩亜が告げる。しかしその顔には汗が浮かび、青白くなっており、よく見ると足元には血が流れ出ていた。
「詩亜、どうした?」
「あはは。大丈夫ですよ。ここに来る前、ちょっと手酷くやられちゃいまして、撤退してきたんです。そんなことより、早く沙希さんの援護に行かないと……」
奏雅は驚きの表情を露にする。最強とも思えるような力を持つ彼女に深手の傷を負わせる敵が存在するとは思わなかったためだ。
しかしすぐに我に返り、彼女を引きとめる。そんなケガをしている少女を戦いには送れない。
「待てよ。沙希ならアレくらい切り抜けられるんだろ? なにもケガした詩亜が行かなくても……」
彼の言葉を遮るように、詩亜はフルフルと首を振る。
「確かに沙希さんは強いです。でも、ダメなんです。だって……」
チラッと沙希の方を見る詩亜。奏雅も釣られてそっちを見る。
「だってあの人、基本的に体力ありませんから……」
二人の視線の先には地面に座り込んでいる沙希がいた。
「さらに言うと、やる気も根気もありませんから」
遠くでは沙希がなにやら文句を言っている。
「もぅ~、重労働ですよぅ。なんなんですか、この数はぁ。虫みたいにワラワラ集まってぇ」
未だに保つ詩亜の笑顔も徐々に弱々しいものに変わりつつある。
「だから私が、助けないと……」
歩こうと踏み出した足がよろけ、倒れる詩亜。奏雅は咄嗟にそれを受け止める。彼女の呼吸は腕の中で段々と荒くなる。体はグッタリとし、ローブからは血が滲んできた。
よほどの激戦だったのだろう。それに加えてここに駆けつけるという無茶な行動。疲れや傷が、見て取れるだけでも、少女どころか人間の限界を軽く超えている。
「しぃちゃん!?」
遠くで座り込みながら応戦する沙希が倒れる詩亜を見て、声を掛ける。今にも目を瞑りそうな詩亜はそれに答えるだけの声も出せずにいる。
「そうだ、早くしぃちゃんの手当てをしないと……」
慌てたような声で漏らす沙希。その言葉の途中、彼女の気が緩んだと思ったのか残った十ニ体のメストルが一斉に襲い掛かる。上から一体、三百六十度周りから十一体。
「そこで転がっている人、槍を借ります!」
「えっ? あ、はい。どうぞ」
いつもの間延びした声はなりを潜め、凛とした声で言う沙希に、エクトは槍を差し出した。
沙希はそれを受け取ると宙に放り投げ、その柄頭をピコピコハンマーで強く打った。
「喰らえ究極最大一撃必殺! ヴォーテックス・スピアーーー!」
勢いよく発射された槍は、まるで意思を与えられたかのように次々と敵を追尾しながら貫いていく。
周りを囲んでいた敵を円を描く様に一掃した後、空から襲いかかってくる最後の一体に突き刺さった。
「プレス・エンド!」
沙希は指をパチッと鳴らした。その音と同時に槍が炎を伴わない大爆発を起こし、メストルと槍が跡形もなく消滅した。
「ぼ、僕の槍が……!」
口をあんぐりと開け、空を見上げるエクト。
そんな彼には目もくれず、沙希は珍しくマジメな顔で地中のメストルが死した場所へ歩いて行った。彼女は爆発後の穴に潜り、ゴソゴソと何かを探っている。
「沙希さん、どうですか?」
先程までのように強がった口調は無く、弱り切った少女のそれで沙希に声を掛けた。
「禁呪術の刻印……やはり第一級犯罪者、クロノエッジ首領、ザグイ=ラ=ドイクェのものです」
沙希は氷の刃の様な鋭い口調で報告する。ピリピリとした雰囲気がなおも続いていて、奏雅やエクト、その他の騎士たちも声を出せずにじっと聞き耳を立てていた。
「……そうですか。沙希さん……」
「はい」
どこかの軍隊のようなハキハキとした受け答え。次はどんな言葉が来るのだろうと、皆が見守っていた時だった。詩亜はゆっくりと口を開く。
「お疲れ様ですっ」
張りつめた空気を払拭するかのような可愛らしい少女の笑顔で告げる。その表情もまた、彼女の無理なのだろう。しかし自然に出たものでもあり、キラキラと輝いている。
「はい~。しぃちゃんも早くケガを治して、一緒にイチゴクレープを食べに行きましょ~。私、今回は頑張りましたので、もちろん店長の奢りですよぉ?」
沙希の態度もいつも通りに戻る。意識のある騎士たちは次々立ち上がり仲間の応急処置を始めた。
沙希も詩亜に駆け寄り、手当てを始める。
「もちろんです。トッピングだって付けちゃいますよ?」
「ホントですかぁ~?」
「それも、一週間毎日です。……だって、嬉しかったですから。沙希さんが私のために、あんなに疲れそうな技を使ってくれて……」
顔を少し赤らめ、嬉しそうに言う詩亜。それを聞いた沙希はパーッと顔を明るくし、詩亜に抱きついた。
「可愛い過ぎですよぅ、しぃちゃん。……ていうか、水臭いです。私達、親友じゃないですかぁ。しぃちゃんのためなら、アレくらい疲れでもなんでもありませんよぅ」
晴れた空に、二人の少女のほほ笑ましい会話が響き渡る。周りでは傷ついた騎士達も互いを労う様に語り合っている。
こうして騎士達の死を覚悟した激戦は、少女達の援護もあり、奇跡的に一人の戦死者も出すことなく終わりを迎えたのだった。
暗雲の立ちこめる空の下、黒いローブを身に纏いフードをすっぽりと被った人物の手の上で、光っていた印が静かに消えた。伸び放題の髪が風で揺れ、歪んだ口元がチラリと覗かせる。十センチメートルほどに伸びた爪をカチカチいわせながら、誰もいない宙に向かって呟く。
「この圧倒的な力の反応……クレンシア嬢か。ヤツが来ると思ったんだがな。この結末を見やがったか、カシアン=メルクエイド……!」
言ってからクックと笑い出す。それから思い出したかのように懐から水晶玉を取り出した。それには、ぼんやりと眼鏡の男の顔が映っている。
「やはり居場所は掴めないか。我が邪魔をし続ける障害の分際で、随分と生意気な!」
パキンと音を立て、灰色の手の上で水晶が砕け散る。
「フン。まぁいい。次に我が前に現れた時が、貴様にとって地獄の始まりとなるだろう……!」
高笑いする彼の隣、そこの空間が割られ、一人の若い男が姿を現す。
「また独り言かい? ザグイ」
嫌味そうな笑みの男が尋ねる。
「さてな。それでカミヤ、ヤツは引き込めそうか?」
ザグイは髪で隠れた顔を男に向け、静かに尋ねる。
「ああ。僕と同じく、所属はしないが協力はしてやる……だとさ」
その答えを聞き、ザグイはまたクックと笑いだした。
「これで準備は整った。あとは暫し、機が熟すのを待つのみ……」
「相変わらず気持ち悪いな、君は。さて、それじゃあ僕は適当に遊んでくるよ」
そう言いながら手鏡に触れ、干渉を始めるカミヤ。
「余計なマネはするなよ?」
冷酷な口調で言い放つザグイに、カミヤは顔だけ笑って答える。
「この僕に指図をするな、下劣なゴミクズが!」
光に包まれ、その場から消えるカミヤ。残ったザグイはおどろおどろしい声で再び呟く。
「いいだろう、その力で暴れてみせろ。……フフ、面白くなりそうだ」
第十話 沙希、大活躍の巻。いかがでしたか?
最後ちょろっと伏線張っておきました。
うん、少女達の力と男達の情けなさが露になった話でしたね。
ヒーロー役を取られて奏雅君もしょんぼり。
大丈夫。男ってのは、戦いの中で成長するものさ。
これからも頑張って更新しますので、次回も読んでくださいね。
ではまた。