九十六・暗影兆し
案内されるがまま、俺たちは村の奥へと進む。
遠目から見た時は、自然豊かでのどかそうなエルフの村――そう思っていた。けれど。
入ってみて、すぐに分かった。
この村、どこか……重い。息が詰まるような、胸の奥がざわつくような感覚。
決して目に見えるものじゃない。でも確かに漂ってる。
まるで、陽の当たらない深い森に迷い込んだ時のような、どこか“闇”の気配。
表向きは、エルフたちの笑顔や穏やかな声が飛び交っている。けれどその裏に、何か別のものがある――そんな違和感。
勇者たちは特に気にする様子もなく、セレナの案内に従って歩いている。
二階堂さんなんて「うわ〜、めっちゃファンタジー!」と呑気に言ってるし、七瀬さんも「綺麗な村ですね」なんて微笑んでいる。
だけど俺は、気づいてしまった。
どこか遠くで、誰かのすすり泣くような声がする気がする。
いや、たぶん気のせい。
だけど、そう思い込まなきゃやってられないくらい、この場所の空気は異様だった。
「ようこそ、勇者様方。準備はできております。」
セレナが振り返り、あの完璧な微笑みを浮かべる。
その隣で、俺には冷たい目線を向けたまま。
……なんなんだ、この村は。
なんなんだ、この空気は。
俺の胸の奥に、言葉にできない不安が広がっていく。
集落の中心、重厚な造りの建物。その前に立つひとりの男。
「遠路はるばる、よく来てくださった。」
彼は静かに、品のある声で言った。
長い銀髪に、透き通るような碧眼。均整の取れた体格に、どこか儚さすら感じる美貌。
しかし、その瞳の奥に宿る鋭さ、そして纏う空気――。
この人……相当強いな。
言葉にせずとも分かる。並大抵の存在ではない。
「私は|ゼルフィス。この村を統べる者です。」
勇者たちは少し緊張した面持ちで頭を下げる。
ゼルフィスは落ち着いた笑みを浮かべ、勇者たち一人一人を順に見渡していた。その視線はまるで、全てを見透かしているかのように鋭い。それでいて、威圧感は無く、むしろ包み込むような器の大きさを感じさせる。
(この人…やっぱり只者じゃないな…!雰囲気といい、オーラといい、リリスほどじゃないけど…下手すりゃ今の勇者たちじゃ敵わないかも)
俺は勇者の後ろで、モブらしく静かに佇みながら、ゼルフィスの力量を肌で感じ取っていた。
「ネチェル殿より話は伺っています。皆さんが”勇者”であり、まだ未熟な存在であると。」
ズバッと言うなぁ、この人…!いや、事実だけど。
勇者たちは一瞬ムッとした顔をしたが、ゼルフィスは柔らかく微笑む。
「だからこそ、私は力を貸そう。君たちが“本物”の勇者になるために。」
かっこよすぎるだろ…!!
俺はモブの位置から密かに思う。
(あのオーラ…勇者たちもこの人の下でなら、ちゃんと強くなれるかもしれないな)
その横で案内役のセレナが俺にだけ冷たい目線を送ってくる。
はぁ──。
宿に案内され、ひと段落ついたタイミングで、俺はそっとため息をつく。
勇者たちはすっかりくつろいでいる様子だったが、俺の胸の奥はザワついたままだ。
この村……やっぱり、何かある。
目に見えるものじゃない。けれど確かに漂っている、この“違和感”。
まぁ……勘違いだよね!




