九十四・新旅黎明
一通りのドタバタ劇が終わり、勇者たちも俺の「たまたまここに飛ばされただけ」という苦しい言い訳を、なんとな〜く信じてくれたのか、場は和んでいた。
二階堂さんはずっと、「佐藤くん、ホント面白いんだけど〜!」と笑ってるし、獅子王は「ァ〜?まぁ変なやつだけど無害だなァ」って肉をむさぼってる。
伊集院は冷静に「状況としては…まぁ論理的にはあり得る範囲だな」とか言ってるし、七瀬さんは「良かった…無事で…」と相変わらず優しく微笑んでくれる。
その横で、一条は無言でスープを啜っていた。
お前…この状況で一番動じてないな。
俺は笑顔で相槌を打ちながら、背後の席で、サングラスとマスクを装着し完全に不審者なリリスを必死で無視していた。
そして──
神宮寺がふと真面目な顔になる。
「佐藤くん、僕たちはこれから目的地に行くんだ。」
お、そういえばこいつら修行の旅の最中だったな。俺がタナトス王国から吹っ飛ばされて、かれこれ2週間。こいつらはその間ずっと旅を続けていた訳だ。
神宮寺は続ける。
「実は、この連邦の外れに住んでいる“ある人”がいるらしくてさ。僕たちの剣術と魔法の師匠候補を、ネチェルさんが紹介してくれたんだ。」
へぇ〜…
ネチェルさんって確かタナトス王国の宰相だよな…そんな繋がりまであるのか…
二階堂さんがにやにやしながら
「なんかね、その人めっちゃ怖いらしいよ〜!うちら全員ボッコボコにされるって噂〜!」
七瀬さんは少し不安そうに
「でも…強くならなきゃいけないから…」
伊集院は静かに
「僕たちの力が未熟なのは明らかだ。このままでは…また同じ悲劇が起きる。」
一条がポツリと
「やられる前に、やれるようにならないとな!」
そう、こいつらは本気で強くなろうとしている。
……でもなぁ。
俺は知ってる。
この世界は、勇者だけじゃ救えないってことを。
少しの談笑の後、神宮寺が静かに口を開く。
「……佐藤くん。君をこのまま1人で帰すわけにはいかない。」
その声は、冗談混じりでもなく、いつもの穏やかなものでもなく──本気だった。
「この世界は危険だ。君も、それをよく知っているだろう?」
他の勇者たちも、真剣な目で俺を見ていた。
あー……やっぱり、そうなるか。
そりゃそうだよな。俺みたいな一般生徒が、こんな場所で1人で彷徨ってるなんておかしすぎるもんな。
放っておけないって思うのも当然か。
(はぁ……めんどくさい。)
心の中でそう呟く。
断れば怪しまれる。それだけは避けたい。
だから、俺は……仕方なく、少しだけ俯きながら言った。
「……わ、分かりました。じゃあ……ご一緒させていただきます。」
その声は少し震えていたかもしれない。
本音じゃない。本当はすぐにでもタナトス王国に帰りたい。
でも。
「できるだけ……皆さんの邪魔にならないようにしますから……」
最後は小さく、聞こえるか聞こえないかの声で、
「よろしくお願いします……」と、俺は呟いた。
言葉を聞いて、神宮寺はふっと微笑んだ。
二階堂さんも「よかったぁ!」と少し安心した様子で手を叩く。伊集院は腕を組んで頷き、一条は「賢明な判断だな」とだけ短く言った。
獅子王は「へっ、足手まといになんなよぉ?」なんて、いつもの悪態をつく。
七瀬さんだけは、俺の目をじっと見て、小さく「無事でよかった」と呟く。
──なんだよ、みんな。
少しだけ心が温かくなった。
……でも、絶対に油断はしない。俺の正体がバレたらおしまいだからな。
そのまま、俺たちは出発の準備に取りかかることになった。
それぞれ荷物をまとめ、外へ出る。連邦の街「ルゼノア」はまだ朝の光の中で活気づき始めたばかりだった。
俺は振り返る。遠く、街の喧騒と人々の声。
やっと帰れると思った矢先、まさか勇者一行と一緒に行動する羽目になるとはな……。
それでも。
──もう、行くしかない。
俺は深呼吸し、一歩踏み出した。




