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DEMONSMOB〜勇者に巻き込まれて転移した俺の物語〜  作者: はるりん
第1章 転移、そして目覚め
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九十一・安息

 俺たちは、人目を避けつつ街の中を歩き、周囲の情報を集めていた。


 ここは、ルディアス連邦・ルゼノア。

 どうやら商業と職人の街として栄えている場所らしい。

 街は活気に満ちていて、朝から荷物を運ぶ人々や、露店で元気に声を上げる商人たちが目立つ。

 石造りの建物が並び、道は綺麗に整備されている。


 俺は、人混みから少し離れた路地で腰を下ろし、深いため息をついた。


「はぁ……思ったより飛ばされたなぁ……」


 さっき、終焉の魔人の装備を解いておいたのは正解だった。

 あの格好で現れたら、この街中でパニックになるところだった。


 リリスは俺の隣で楽しそうに周囲を見渡している。


「ヒナタ様〜!異国の街、素敵じゃないですか?」


 俺はげんなりしながら答える。


「まぁな。でも俺は早くタナトス王国に帰りたいんだけどなぁ……」


 結局、俺たちは瞬間転移を使ったものの、距離の制限でこのルゼノアに飛ばされてしまった。

 タナトス王国まで、あと2日はかかるらしい。


「とりあえず情報を集めよう。」


 俺は立ち上がると、リリスを連れて人通りの多い大通りへと歩き出した。


 ルゼノアの大通りを歩いている俺とリリス。

 本来なら、情報収集だけのつもりだったのに――


「ヒナタ様!見てください!あそこ、珍しい果実が売ってます!」


 リリスはキラキラとした目で屋台の方を指さす。

 いや、リリスさん、急いでるんだけど…?


「少しくらい、いいじゃないですかぁ〜。せっかく異国の地に来たのですし!」


 うーん…まぁ、少しなら。

 俺は小さくため息をつきつつ、リリスに引きずられるように果実屋へ。


 リリスはというと、試食を頬張りながら「美味しい〜!」と嬉しそうに笑っていた。

 口の端に果汁ついてるし…。


「これ、10個ください!」


 え…?ちょっと待って、リリスさん…俺の財布……。


 気がつけば、リリスは次々と店を巡り、小物やら、お菓子やらを手に取っている。

 こっちは転移魔法の反動で魔力がスカスカなのに…。


「ヒナタ様、このアクセサリー、どうですか?」


 差し出されたのは、小さな花飾り。

 ……うん、似合ってる。すごく。


 俺は悟る。

 今日の俺の役割は、どうやら──財布係。


 通りすがりのカップルに間違われたり、店のおばちゃんに「まあまあ、仲良しさんねえ」とからかわれたり。

 心がすり減っていく。


 結局、情報収集はそこそこに終わり、俺の両腕には荷物の山。


「ふふっ、楽しかったですねぇ!」


 リリスの満足そうな笑顔を見て、俺はまたため息をつく。


 ……これ、どう見てもただのデートじゃないか!


「今日はもう遅いし……どうせ明日には魔力も回復して、タナトス王国に戻れるはずだしね。」


 俺はそう呟きながら、リリスと一緒に適当な宿を探す。

 市場の喧騒から少し離れた、そこそこ綺麗な宿屋。


「ここでいいかな…?」


「はい!良いですね!」

 リリスはいつものように無邪気に返事をして、勢いよく受付に向かう。


「すみませ〜ん!お部屋は……1部屋お願いします!」


「はぁ!?ちょ、ちょっと待った!!」


 俺は慌てて割り込む。


「なんで1部屋なの!?別々でいいでしょ!?いや別々がいいでしょ!!」


「え〜?なにをおっしゃるんですか、ヒナタ様。私たち主従ですよ?一緒に寝泊まりするのが当然です。」


「どこの異世界基準だよそれ!!」


「それに……」

 リリスはふいっと俺の方を見て、にこっと悪戯っぽく笑う。


「ヒナタ様なら……いいですよ…///」


「いやいやいや、なんでそこで照れるの!?こっちは困惑しかしてないから!!」


 受付のお姉さんがニヤニヤしながら、「ふふ、お二人ともお熱いですね」と笑う。

 俺は恥ずかしくて顔を覆う。


「だ、だったらせめて別のベッドの部屋に……」


「ダメです!経費削減です!」


「え、俺払うんだけど!?」


「大丈夫です!私、ヒナタ様の隣でないと寝られない体質なので!」


「そんな体質いつ発症したんだよ!」


 散々押し問答した結果――

 受付のお姉さんに「お決まりですね」と言われながら、結局、1部屋を取ることになった。


 部屋は広くも狭くもない二人用。

 普通に別々のベッドがあるだけマシか……


「ふふっ、これでゆっくり眠れますね!」


 ベッドにぽすっと飛び込むリリスを横目に、俺はひとつため息をついた。


「ほんと…頼むから寝相だけはおとなしくしてくれよ…」


 部屋に荷物を置いて、とりあえず一息。


「はぁ…今日はほんと色々あったなぁ…」

 ベッドに腰を下ろしながら俺が呟くと、隣のベッドではリリスがご機嫌な様子で、くるくる回っている。


「ふふふっ♪ ヒナタ様とお泊まりなんて…まるで恋人みたいですねぇ!」


「やめろ、その発言は色んな意味で俺に効く…」


「え?じゃあ本当に恋人みたいに……夜這いとか……」


「しない!!絶対にしない!!」


「残念ですぅ…」


 リリスはベッドに大の字で倒れ込み、足をばたばたさせながらニヤニヤしている。

 こいつ、本当に竜神様なのか?

 俺は思わず頭を抱える。


「それよりリリス、さっきまでいっぱい散策したし、汗だくでしょ?」


「え?じゃあヒナタ様と一緒に……」


「行かねぇよ!!」


「なんでですかぁ〜!!?」


 リリスは大袈裟にベッドの上で転がりながら抗議してくる。


「男女の違いとか知ってるよな!?ていうかお前、普段もっと威厳ある竜神様なんじゃないのかよ…」


「え〜?ここは主様とふたりきりのお部屋ですから。威厳は外に置いてきました!」


「置いてくるな!!」


 結局、押し問答の末リリスはしぶしぶ風呂に向かい、俺はその間、部屋でひとりソファに沈み込む。


「はぁ…明日はちゃんとタナトス王国に戻れるかな…」


 しばらくしてリリスが風呂から戻ると、湯上がりなのか髪をタオルで拭きながら、俺の方を見て言った。


「おまたせしました!じゃあヒナタ様、次は一緒に……」


「行かねぇって言ってるだろ!!」


「残念ですぅ…」


 またそれかよ。


 そのまま、ベッドに飛び込んで「おやすみなさいませぇ〜」と丸くなるリリス。

 俺はため息をついて、やっと寝支度に入る。


「ほんと…疲れる……」


 でも、なんだか少しだけ、安心している自分がいるのも事実だった。






 夜。

 静寂に包まれた宿の一室で、俺は深く眠りに落ちていた。


 だが──


 ざわ…ざわ…


 闇の中に微かなざわめきが聞こえる。

 目の前は真っ暗なはずなのに、どこか、重く圧し掛かるような気配。


「ヒ…ナ…タ……」


 誰かの声。

 遠くで、確かに俺を呼んでいる。


「助けて…」


 小さな、か細い囁き。

 どこから聞こえるのか分からない。耳元なのか、頭の中なのか。けれどその声は、ひどく苦しそうで、悲しそうで──何より、怨念のように俺を縛りつける。


 足元がズブズブと沈む。

 まるで底なし沼だ。

 いくら足掻いても抜け出せない。


 目の前に、影が現れる。

 黒く、歪んだ無数の腕が俺に向かって伸びてくる。


「助けてよ……」


 その影は…血だらけで、顔は見えない。

 でも確かに、どこかで見たことがある気がした。


 ──ずるずる

 ──ずるずる


 引きずり込まれる。

 逃げたい。逃げなきゃいけない。

 でも身体が動かない。


「ヒナタ…助けて……」


 次の瞬間。


「──ッ!!」


 俺は飛び起きた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 胸がひどく苦しい。

 冷や汗が全身を濡らし、心臓は激しく跳ねていた。


 さっきのは……一体、なんだったんだ……?

 まるで、本当にあの場にいたような、あまりにもリアルな……


 俺は胸に手を当てた。

 鼓動が早い。まだ、夢から完全に戻ってこれていない。


「……あれは、夢…だったのか?」


 誰かの助けを求める声。

 あの影。あの血。


 無意識に、俺の手はペンダント──リリスから貰った封印石に触れていた。

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