八十三・竜巫女 参
「────おもしろい。ならば、オレも少しだけ“本気”を出してやろう。」
巫女の瞳が紅く輝いた瞬間──
世界が、震えた。
空気が重く沈み込み、肌に刺さるような圧が辺り一帯を包み込む。
その源は、巫女から放たれる禍々しい竜のオーラ。
俺は、静かに息を吐く。
すぐさま、俺の内からも湧き上がる。
終焉の魔人のオーラ――
黒焔のごとく燃え滾る、“世界の終わり”の気配。
二つの気配がぶつかり合った瞬間、
まるで空間そのものが悲鳴をあげるように歪んだ。
ゴゴゴゴゴゴ……!!
地が揺れ、空気が割れ、見えない波動が辺りを薙ぎ払う。
巫女は一歩も退かず、俺の放つオーラを正面から受け止める。
俺もまた、一歩も引かない。
竜の禍々しさと、終焉の魔の重圧。
二つの“異質”が拮抗し、拮抗したまま、世界を圧し潰そうとする。
「────どうした。“竜の巫女”。その程度か?」
俺はあくまで余裕を崩さず、低く言い放つ。
巫女は微笑んだ。
「……貴方こそ。“終焉の魔人”にしては、随分と優しい目をされますね。」
その言葉に、俺の眉が僅かに動く。
だが、次の瞬間には互いの足が動いていた。
オーラの渦が爆発し、俺と巫女は再び刃と拳を交える。
オーラが爆ぜる。
互いの足が同時に地を蹴った。
巫女は舞うように、俺は風を裂くように。
一瞬で距離が詰まる。
キィィンッ──!!
黒焔刀と、巫女の素手が交錯。
刃と拳とでは、普通なら勝負にならない。
だが、この巫女は違う。竜の力を纏ったその手は、鋼よりも硬く、俺の斬撃を易々と受け止める。
「速い……!」
巫女の拳が俺の脇腹をかすめる。
瞬間、風圧で大地が抉れる。
くっそ……!本当に人間離れしてやがる。
だが、俺も負けてはいない。
「────“終焉”は、いつだって“踊り”の後に訪れる。」
俺は黒焔刀を翻し、巫女の背後へと回り込む。
巫女はすかさず距離を取ろうとするが──
甘い。
俺の刀は、すでに巫女の退路を塞いでいた。
ギンッ!
彼女は間一髪、腕で刀を受け流す。
しかし、その瞬間。
「逃がさないぞ。」
ドンッ!!
俺の膝が、巫女の腹を突き上げた。
巫女は小さく呻きながら、後方へ跳ぶ。
だが、目は笑っていた。
「……本当に強いですね。“終焉の魔人”。」
「当然だ。オレはこの世界の“終わり”そのものだ。」
余裕を崩さず言い放つ。
しかし内心では汗をかいている。
(……マジで化け物かよ、この巫女。)
あの【竜力撃】。
そして、この身体能力。
普通の“人間”ならとっくにケリがついている。
巫女はゆっくりと息を吸う。
その瞬間、周囲の空気が震えた。
「……ここまで、追い詰められるとは思いませんでした。」
彼女の足元から、淡い光が広がる。
それは大地に刻まれた**紋章**のように、瞬く間に広がっていく。
俺は眉をひそめた。
(なんだ……?この“気”は……)
巫女が静かに構えを取る。
「見せましょう。我が一族に伝わる秘術。」
彼女の瞳が、紅く強く輝く。
「**竜神秘奥技・天穿陣**──」
瞬間、彼女の背後に六枚の光の翼が展開した。
その翼は魔力のそれではない。
“竜の権能”そのもの。
ズゥゥン……!!
地が震え、空気が歪む。
俺の周囲に、無数の小さな魔法陣が展開される。
(マズい……!これ、ヤバいぞ……!!)
巫女は静かに言った。
「────避けきれるものなら、どうぞ。」
だが。
「面白い……!」
俺は余裕を装って笑う。
内心では、全然面白くない。
正直、心臓バクバクだ。
ズバァァァン!!
黒焔刀を振るい、一撃目を弾く。
だが、槍は終わらない。
連続で、無数に、天から降り注ぐ。
(なんだよこれ!!数おかしいだろ!?)
一撃一撃は、俺の黒焔刀でどうにか捌ける。
だけどこの密度、この数、この速さ。
回避し続けてるだけで、呼吸が乱れる。
(おいおい…これ、俺…詰んでないか……!?)
それでも、顔には出さない。
「────なら、オレも一つ魅せてやる。“終焉”の流儀をな。」
俺は刀を振り上げる。
焦りを押し殺し、余裕の仮面を被ったまま。
俺は刀を振り上げる。
内心では――
(ヤッベェェェェ!!!さっきからギリギリすぎんだろォォ!!このままじゃ削り殺されるぞ俺ぇぇ!!)
必死に動揺を押し殺し、深呼吸する。
「オレの一振りは“破滅”を呼ぶ。」
フッ……とかっこつけて目を細める。
(いやいや、自分で言っといて寒すぎる……!)
俺は魔力を刀に集中させた。
その瞬間、黒焔刀が禍々しく脈動し、周囲の闇が収束していく。
「見せてやる……終刻断刃」
足元から黒い霧が立ち上がる。
俺の周囲を中心に、巨大な半月状の斬撃が形成されていく。
(てかこれ、今考えた名前だからな!?即興だからな!?しかもかっこいいかどうか微妙じゃない!?)
巫女の**天穿陣**と同時に、俺の斬撃が解き放たれる。
ズガァァァァン!!!!
闇と光がぶつかり合い、爆風が辺りを呑み込む。
衝撃で吹き飛びそうになる俺。
(あっぶねぇぇぇぇ!!これ、俺が一番危ないじゃん!!)
必死に体勢を立て直し、煙の中を睨みつける。
「さぁ、“竜巫女”……これでもまだ踊れるか?」
(いやほんと頼む…!今のマジで即興で出した技だし…正直出力調整すらしてないし…!成功して良かったァァ!!)
俺はあくまで低く威圧的に言い放つ。
でも心の中では膝ガクガクだった。




