八十一・竜巫女 壱
この巫女……? いや、ただの巫女じゃないな。
構えに無駄がない。呼吸も静かで、殺気も抑えられている。だけど、確かに感じる。全身から滲み出る――圧。
……この感じ、魔力じゃない。何かが違う。もっと根源的な、存在そのものから放たれているような――まるで、リリスに似た何か。
だけど違う。リリスのそれは底の知れない“深淵”だとしたら、この巫女のそれは――“芯”だ。まっすぐで、静かに燃えている。
なんなんだ……お前は。
ただの巫女じゃないことだけは、確かだ。
あんまり、油断しないようにしよう。
目に見えない“何か”を纏ってる感じがする。
「まいります――」
巫女が一礼するように告げた、その瞬間。
スッ――と、彼女の身体が滑るように動いた。
なんだ……!?この動き――まるで舞だ。
一挙手一投足が、あまりにも流麗すぎて攻撃の“気配”がない。まるで攻撃されてる感じすらしないのに、身体が本能的に反応している。
“ヒュッ”
――ッ危ねぇ……!反射で避けられたが、どこから何が飛んできた!?
武器は持っていない。素手……いや、それすら超えている。空間が、彼女の舞いに合わせて歪んでるような……?
攻撃は避けられる。けど……予測ができない!!
くそっ……なんなんだこの“巫女”は……!?
可憐で、まるで儀式の舞のような動き。
その優雅な所作の中に――突如として鋭い一閃が走る。
空気が裂けた。
攻撃パターンが――変わった!?
さっきまでの流れるような動きから、一転。迷いも溜めもない、直線的な殺気。
読めない……これは、舞ではない。型が無い。
“チッ――!”
避けられ――
――ないッ!!!
俺の視界に、銀白の手が迫る。直撃すれば、確実にただじゃすまない――!
なんとか避けきれた。けど――まずいなぁ……。
今の、完全に殺す気だったじゃんか……!あと数ミリでも反応が遅れてたら、俺の顔面が吹き飛んでたぞ……!
「……今のを防がれるとは、思っておりませんでした」
巫女が静かに言葉を落とす。その声音は驚きよりも、少しの感嘆を含んでいた。
「竜穿掌――竜の力を、肉体に通す技です。武器を持たぬ我らが、自らの拳を“刃”と化す術」
竜穿掌――か。竜人族の拳術……!
なるほどな、あの見た目からは想像もつかない威力……!今ので地面が軽くえぐれてるってどういうことだよ!
ほんとに気が抜けない……!
俺はすでに“終焉の魔人”として名乗りを上げている。
黒焔刀もすでに手にしていた。となれば、ここで黙って押され続けるなんて――様にならない。
「……悪くない」
俺は静かに一歩踏み出す。足元に滲む熱が、地面を焦がす。
「なら――今度は、オレが魅せてやろう。終焉の名に相応しい、“力”をな」
黒焔刀が音もなく振るわれ、刀身を包む黒き炎が、周囲の空気を震わせる。
「受けの舞は終わりだ。
ここからは――オレの“演目”。」
ふむ……今のは、自分なりにけっこうカッコよかった方だろう!!
あれくらい言い切らないと、終焉の魔人の威厳も何もあったもんじゃない。
黒焔刀を構え、俺は地を蹴る――一気に間合いを詰め、真正面から突撃。
直線、真正面――避けやすい攻撃だ。案の定、巫女は滑るように可憐な動きで身をかわす。
だが――それが、ブラフだ。
避けた先に、“仕込んでおいた”黒焔が待っている。
刹那、黒焔が爆ぜ、弾けるように燃え上がる。
彼女の優雅な動きさえも一瞬、止まった。
まじかよ……
今のを――完全に避けるだと!?
黒焔の爆発の瞬間、確かに確信した。
当たった、と。いや、当たるように計算していたはずだった。
けど――
爆煙の中から、舞うように後方へ跳躍する巫女の姿が浮かび上がる。
服の裾一つ焦がさず、まるで風に乗る羽のように――完璧に回避していた。
黒焔の熱が大地を焼き、岩肌にひびが走る中、
彼女はひと筋の乱れもなく、静かに着地していた。
その目は揺れていない。
俺の仕掛けた罠も、あらゆる奇襲も――全て読んでいたかのように。
(この人……想像以上だ……!)
黒焔刀を握る手に、微かに力がこもる。
――遊びじゃ済まされないかもしれない。
相手はただの巫女なんかじゃない。
この覇焔の郷において、“竜の名”を背負って立つ者――
それが、この女――【竜巫女】だ。




