八十・覇焔の郷 肆
竜巫女とやらに気を取られている間に、気づけば俺たちは完全に包囲されていた。
四方を取り囲む数十人の竜人族の戦士たち。
ただの兵じゃない……精鋭か……!!
まずいな……これは……。
俺はすぐに以心伝心でリリスに問いかける。
(リリス……どうする?)
だが、その返答が来るよりも先に、とんでもないことに気づいてしまった。
――忘れてた。俺は今、終焉の魔人の姿だったんだ!!
そりゃあ、警戒されるに決まってるだろ!!!!
「竜として……こやつらには、指導すべきかと!」
リリスが楽しそうに言う。
いやいや、やめろ!お前の「指導」って絶対ロクなことにならないだろ!!
俺が焦る間にも、周囲の竜人族の精鋭たちは着実に包囲網を狭めてくる。
殺気はないが、明らかにこちらを警戒している。
……くそ、どうする?
仕方ない、ここは演じきるしかないか……!
俺はゆっくりと一歩前へ踏み出し、低く響く声で宣言する。
「オレは終焉の魔人……お前たちは何者なんだ?」
その瞬間、竜人族たちの間に微かなざわめきが走った。
「終焉の魔人……様、ですか。私たちは、**覇焔の郷**に住まう竜人族……竜神の血を受け継ぎし者。」
竜巫女が静かに、しかし揺るぎない声で告げる。
まるで、ここに存在することそのものが誇りであるかのように。
竜神? 覇焔の郷? なんだそれ……?
「この地は竜神の加護を受けし絶対領域。我ら竜人族は、外の者を決してこの地に踏み入れさせません。」
竜巫女が静かに、だがはっきりと告げる。
なるほど……つまり、ここは完全に閉ざされた領域ってことか。
なんだか……とんでもなく面倒な場所に迷い込んでしまったようだ……。
「それで……お前たちは、罪なき者の命まで奪うというのか?」
俺は周囲を見渡しながら低く問いかける。
竜人族の戦士たちは微動だにせず、竜巫女も表情を変えない。
まるで、俺の言葉すら試しているかのように。
「……罪なき者、ですか?」
竜巫女が静かに呟く。
「ならば問います、終焉の魔人。貴方は罪なき者なのですか?」
挑むような、しかし澄んだ声だった。
「……言っただろう?」
俺は一歩前に出る。
「オレは終焉の魔人だと!!」
まるで大気が震えるような圧を放ちながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「この世界を終焉に導く者だ……!!」
竜人族たちの間に、一瞬、ピクリとした動揺が走る。
だが、竜巫女は眉一つ動かさず、ただ俺を見据えていた。
「それが貴方の”答え”……?」
何を試されている?
こいつ……何を考えている?
竜巫女が静かに呟いた、その瞬間——
「ならば、証明してもらいましょう……!」
巫女の瞳が鋭く光ると同時に、竜人族の戦士たちが一斉に構えを取る。
……やっぱりこうなるのかよ!!
「はぁ……仕方ねぇな……」
俺は肩を竦めながら、一歩後ろに下がる。
「リリス、やるぞ」
「ふふ……待ち望んでいましたよ」
リリスが楽しげに微笑み、黒いオーラを纏いながら前へ出る。
「終焉の魔人……貴方の力、見せてもらいます……!」
竜巫女がそう告げると同時に、竜人族の精鋭たちが俺たちへと襲いかかってきた。
(リリス……!!この巫女はどうやらオレが狙いらしい!他の奴らは任せるぞ!)
俺は以心伝心で素早く指示を飛ばす。
(あらあら、ヒナタ様ったら。巫女様と一対一だなんて……ふふ、いいでしょう。楽しんできますね♪)
いや、楽しむな!!
リリスは軽く微笑むと、竜人族の精鋭たちを引き連れ、俺たちから少し離れた場所へと移動する。
さて……これで、俺と竜巫女の一騎打ちか。
「……では、終焉の魔人。貴方の力、見せていただきます。」
竜巫女が静かに構えを取る。
まったく……どいつもこいつも俺のことを試したがる。
「魅せてやろう…」
俺も黒焔刀を作り出し、迎え撃つ準備を整える。
———戦いの火蓋が、今、切って落とされた。




