七十九・覇焔の郷 参
「さて……どうしてくれましょうか?」
リリスがゆっくりと口を開く。その声はどこか楽しげで、それでいて……どす黒い闇を滲ませていた。
空気が変わった。
さっきまでの軽やかで優雅な雰囲気はどこへやら、今のリリスはまるで悪魔の微笑みを浮かべているようだった。
じわり、と肌が粟立つ。怖い……!
「ま、待てリリス!!あんまり派手にやるなよ!俺たちはただの迷い人で……」
「ええ、分かっておりますよ?ですが……向こうはどうやら、その言い訳を聞く気はないようですし?」
リリスの視線の先、集落の奥にある砲台の周囲が慌ただしく動き始めているのが見えた。
――また撃つ気か!?
「はぁ……勘弁してくれよ……!」
リリスが放つ前に何とかしなきゃ……!!
このままだと、この集落が崩壊してしまう……
冗談抜きで、シャレにならない。リリスが本気でやれば、さっきみたいに砲弾の軌道を捻じ曲げるどころか、砲台ごと吹き飛ばすだろう。
恐ろしすぎる……!!
「リリス……!いいものを魅せよう!」
俺は即座に࿓《黒焔》࿓を弓形態へと変化させた。
同時に、࿓《千里眼》࿓と࿓《魔力操作》࿓を発動。
俺の視界が一気に広がり、砲台の細部までくっきりと映し出される。
砲撃のエネルギーが収束し、撃つ直前の状態であることも見て取れた。
「間に合え……!!」
俺は狙いを定め、࿓《黒焔》࿓の弦を引く。
【特上能力】
࿓《黒焔弓》࿓――滅影ノ一閃
黒焔の矢が音もなく放たれた。
空気を裂き、砲撃砲へと吸い込まれるように一直線に飛ぶ。
“ズバァァァァンッ!!”
狙いは完璧だった。砲台の砲口に寸分の狂いもなく命中し、魔力の暴発による爆発が巻き起こる。
「ふむ……なかなか綺麗な爆発ですねぇ。」
リリスは面白そうに口元を緩める。
俺は胸を撫で下ろした。ギリギリ間に合った……!!
「ふふふ……どうだリリス!!すごいだろう!!」
俺は胸を張り、ドヤ顔でリリスを見る。
砲撃を撃たれる前に潰したんだぞ!?これはもう大手柄だろ!!
「おぉ……確かに素晴らしいですねぇ。」
リリスはゆっくりと拍手をしながら、どこか楽しげな笑みを浮かべている。
「ふふ、ヒナタ様がそんなに誇らしげなお顔をされるなんて、珍しいですねぇ♪」
「そ、そりゃそうだろ!!今回は俺がちゃんと活躍したんだからな!!」
俺はさらに胸を張る。どうだ、俺だってやるときはやるんだぞ!!
……と、思ったのも束の間。
「……ですが♪」
リリスが悪戯っぽく笑うと、俺の肩にぽんっと手を置いた。
「これ、もう次の砲撃が来ますよ?」
「……は?」
“ズドォォォン!!”
俺の自慢タイムは、一瞬で吹き飛んだ。
一体、何台あるんだよ…!!
しかもこれ…普通の砲撃砲じゃないよな?
なんだ、この妙な魔力の流れ……ただの爆発系の兵器とは違う。まるで生き物のような脈動を感じる……。
もしかして、これが竜人族特有の技術ってやつか?
考えているうちに――
「あなたがたですね……この地を乱す”不審なる者”とは。」
澄んだ声が響く。
俺は顔を上げた。そこに立っていたのは、小柄な美しい少女。
黒髪が風に揺れ、瞳は深い琥珀色。
衣はどこか神聖な雰囲気を纏い、異世界的な紋様が刻まれている。
……翼は、ない。
竜人族ってのは、生まれつき翼があるわけじゃないのか?
それとも、自由に出し入れできるのか?
俺が彼女を観察していると、リリスがふっと笑った。
「ふむ……この威厳……お前がこの集落の龍巫女か?」
リリスが口元に笑みを浮かべながら言う。
俺は改めて少女――龍巫女を見つめる。
彼女はまっすぐに俺たちを見据えていた。
その眼差しには一切の迷いがない。
強い覚悟を持って、俺たちを”異物”と見定めている。
これは……簡単に話が通じる相手ではなさそうだな。




