七十八・覇焔の郷 弍
俺たちは慎重に歩みを進めながら、遠くに広がる集落を観察した。
竜人族――そう呼ぶべきだろうか。
そこにいる彼らは、俺たち人間とほとんど変わらない姿をしていた。肌の色も、髪の色も、体格も、まるで普通の人間のようだ。
だが、決定的に違うのは、その中の一部の者たちには翼があるということ。
背中から生えた大きな翼は、まるで竜のそれを思わせた。
翼のある者はそれほど多くはなく、大半の住人は翼を持たない。しかし、彼らも普通の人間とは違う雰囲気を漂わせている。
そして、もう一つ気になったのは――
彼らの服装。
全体的に、時代遅れのような古めかしいデザインをしている。
布地はかなり傷んでおり、まるで何百年も前の衣服をそのまま着続けているかのような印象を受けた。
「……なんだか、妙ですね。」
リリスがぽつりと呟く。
「ああ。なんというか、“時が止まっている”感じがするな。」
竜人族……彼らの歴史はどれほど古いものなのか。
この集落、いや、国のような場所は、一体どれだけの年月を経てここに存在しているのか。
“ピカッ”
一瞬、光る気がした。
「ヒナタ様!危ない!」
リリスの声と同時に、目の前に眩い閃光が炸裂する。次の瞬間、轟音と衝撃が周囲を襲った。
“ドォォォォンッ!!”
俺は反射的に身を引き、リリスの後ろへと転がるように尻もちをつく。――砲撃砲。岩肌が粉々に砕け、辺りには砂煙が舞う。もしリリスが即座に結界を張らなければ、俺は今頃吹き飛ばされていただろう。
「……不意打ちとは、いい度胸ですね。」
リリスの声が静かに響くが、その表情はどこか楽しげだ。砲撃の方向を見やると、集落のほうから煙が上がっていた。どうやら、俺たちの存在に気づかれていたらしい。
「くそ……これ、歓迎じゃないよな?」
俺は立ち上がりながら、苦笑いする。
「ふふっ、もしかしたら竜人族なりの”挨拶”かもしれませんよ?」
リリスは軽く笑いながら肩をすくめる。その余裕っぷりに、逆に俺のほうが焦る。
俺たちは無傷だった。
「ありがとう…リリス…」
「いえいえ、お気になさらず!」
まるで砲撃なんてなかったかのように、リリスは軽やかに笑う。……頼もしいけど、もう少し危機感を持ってほしい。
結界越しに遠くの集落を見据える。――どうやら、ここは”無断で入っていい場所”ではなかったようだ。
俺たちを敵だと認識しているのか……。
砲撃の跡を見ながら、俺はため息をつく。ここに来たのは単なる事故なのに、いきなり攻撃されるとはな。
「まったく、物騒ですねぇ。私たちはただの迷い人なのに。」
リリスが呑気に言う。いや、本当にその通りなんだけど。
結界のおかげで無傷とはいえ、歓迎どころかいきなり砲撃とは……ここがどんな場所なのか、嫌でも分かるってもんだ。
「さて、どうします?ヒナタ様。」
リリスが余裕たっぷりの笑みを浮かべながら俺に尋ねる。
「交渉……する必要はない、かな。」
俺は遠くに見える集落を見据える。向こうがこちらを敵と判断した以上、無駄に関わる必要はない。
「おやまぁ、今回は随分とドライな判断ですね?」
「うん。これ以上、意味のない衝突を増やしても仕方ないしね。」
「それもそうですねぇ。」
リリスは軽く肩をすくめる。
このままここに居続ける理由はないし、向こうがどう出るか分からない以上、さっさと離れるのが一番いい。
「よし、行こう。こんなところで足止めされるのは嫌だし。」
「了解しました♪」
軽快に返事をするリリスを横目に、俺たちはこの場を離れることにした。
――はずだった。
再び、砲撃の光が閃く。
「まじかよ……!!?」
俺は思わず声を上げる。
殺す気満々じゃないか……!!
“ドォォォォンッ!!”
空気を裂く轟音。俺たちめがけて一直線に飛んでくる砲撃砲。
「……一度ならず、二度までもとは。無礼にも程がある……!!」
リリスが静かに呟いた。
その声音はどこか楽しげでありながら、確かな怒気が滲んでいる。
彼女は左手を軽く掲げた。
すると――砲弾の軌道がねじ曲がり、真横へと逸れる。
“ドガァァァン!!”
砲弾は遥か遠くの岩壁へと激突し、爆風と共に砂煙を巻き上げる。
「やれやれ……“挨拶”としては随分と手荒ですねぇ?」
リリスはくすくすと笑いながら、指先についた埃を払うようにひらひらと振った。




