七十三・英雄顕現
大地を引き裂く咆哮が響いた。
**《穿陸獣》**が地上に姿を現すと同時に、勇者一行の周囲に衝撃波が広がり、砂煙が巻き上がる。巨大な体躯が大地を踏み鳴らすたびに、地面が震え、足元が不安定になった。
「ッ……なんて威圧感だ!」 駿が歯を食いしばりながら後ずさる。
全長十メートルを超えるガルヴォルグの全身は硬質な岩のような外殻に覆われ、鋭い棘が無数に生えている。頭部には巨大な顎があり、一度噛みつかれれば、そのまま粉砕されることは確実だった。
「ここまでの巨体が、地中を自在に動いていたのか……!」 和真が低く唸る。
蓮は剣を握りしめ、冷静に戦況を見極める。
「……来るぞ!」
次の瞬間、ガルヴォルグが素早く動いた。
ズガァッ!!!
巨体とは思えない速度で突進し、地面を抉る爪が襲いかかる。
「散開!!!」
蓮の叫びとともに、一行は一斉に飛び退いた。
ギャリッ!!
爪が地面を引き裂き、深い溝を刻む。巻き上がる砂塵の中、朱莉が弓を引き絞り、瞬時に射出。
「はぁっ!!」
矢がガルヴォルグの胴体へと吸い込まれるが——
カンッ!!
硬質な外殻に弾かれ、かすり傷ひとつつかない。
「防御力が異常……!?」
朱莉の眉が険しくなる。
「効く場所を探るしかねぇな……!」 豹牙が拳を握りながら獰猛な笑みを浮かべる。
ガルヴォルグの目が赤く光った瞬間——
「下がれッ!!!」
蓮が叫んだ。
次の瞬間、ガルヴォルグの背中の棘が発光し、無数の岩弾が弾けるように発射された。
ドゴォォン!!
爆発的な衝撃が大地を揺るがし、一行は咄嗟に回避行動を取る。
「クソッ……こんな攻撃まで!?」 駿が荒い息を吐きながら転がり込む。
防戦一方——いや、それなりに攻撃はできている。
だが、決定打がない。
「どうする……!? 何か突破口を見つけなきゃ、ジリ貧だぞ!!」 和真が叫ぶ。
蓮は冷静にガルヴォルグの動きを観察する。どこかに”突破口”があるはず。
しかし、それを見つける前に——
——ガルヴォルグが再び突進態勢に入った。
ズガァンッ!!!
圧倒的な質量を誇る巨体が、一瞬で距離を詰める。
「速ぇッ!!?」
駿が咄嗟に横へ跳び、ギリギリで回避する。しかし、その場に残った地面は、大きく抉れ、粉砕されていた。
「避けられねぇ!!!」
豹牙が拳を固め、迫る爪に向かって拳を叩き込む。
ゴッ!!
硬質な外殻に拳がめり込む。しかし、ガルヴォルグの圧倒的な力には抗えず、豹牙の体が弾き飛ばされる。
「ぐあっ……!!」
十メートル以上吹き飛ばされ、地面に激突。砂煙が舞う中、咳き込みながら膝をつく。
(クソ……拳が痺れやがる……!!)
ガルヴォルグの硬質な外殻は、並大抵の攻撃ではビクともしない。しかも、一撃一撃があまりにも重い。
駿は剣を構えながら素早く駆け回るが、ガルヴォルグはその動きをしっかり追っている。
「このデカブツ、速さもあるのかよ……!!」
瞬間、ガルヴォルグの背中の棘が光を帯びる。
「来る!!!」
蓮が叫ぶと同時に、無数の岩弾が弾けるように発射された。
「くっ……!!」
駿は超速で駆け、寸前で回避。だが、避け切れなかった破片が脚をかすめ、痛みが走る。
朱莉が弓を構え、和真が結界を張るが、それすらガルヴォルグの猛攻の前では圧倒される。
未来が回復の準備をしながら、唇を噛む。
「みんな……このままじゃ……!!」
蓮は剣を構え直しながら、歯を食いしばる。
戦えてはいる——だが、勝てる気がしない。
「突破口を……見つけるしかない……!!」
しかし、ガルヴォルグは止まる気配を見せず、さらなる猛攻を仕掛けようとしている。
未来が、震える手を胸の前にかざした。
「……お願い……!」
その瞬間——周囲の空気が変わった。
乾いた大地に、突如として潤いが生まれる。大気が揺らぎ、澄んだ波紋が広がったかのように、未来の足元から淡い青の魔力が溢れ出す。
「……【࿓水天の抱擁࿓】……!!」
未来がそっと呟くと、彼女の周囲に透明な水流が生まれた。それはやがて、空中で渦を巻き、ガルヴォルグの足元へと一気に叩きつけられる。
「なっ……!!?」
勇者一行は息をのんだ。
「未来……いつの間に水魔法なんて!?」 朱莉が驚きの声を上げる。
「お前……回復魔法だけじゃなかったのかよ!?」 豹牙も思わず叫ぶ。
未来自身も、困惑しながらもその力を実感していた。だが、今はそんなことを考えている暇はない。
ズズ……!!
ガルヴォルグが足元の異変に気づいた。
大地に根を張るように動いていた巨体が、水流によって足場を奪われ、わずかにバランスを崩す。
砂混じりの地面が緩み、鋭い爪が沈み込む。
「……効いてる!?」
駿が目を見開く。
未来の水魔法によってガルヴォルグの足場が崩れた。
それを見た豹牙と駿が、即座に動く。
「今だ……! やるぞ!!」
豹牙が地面を踏み砕くように前へ出た。拳を握りしめ、体全体に燃えるような魔力を纏う。
「【࿓獅炎衝࿓】!!」
彼の拳から、獅子の咆哮のような炎が弾ける。
燃え盛る赤い闘気を纏った拳が、ガルヴォルグの硬質な装甲に叩き込まれると、衝撃波と共に炎が弾け飛び、外殻の一部が焦げるように黒くなった。
「効いてる……!?」
しかし、完全にダメージを与えるには至らない。
「なら、こっちで崩す!!」
駿が一気に距離を詰め、剣を振り上げる。剣の刃が風を纏い、煌めく魔力がその身に宿る。
「【࿓疾風裂刃࿓】!!」
瞬間、駿の剣が閃き、凄まじい風圧とともに鋭い刃の波動が放たれる。
風の刃はガルヴォルグの足元を狙い、傷口を広げるように斬り裂いた。
「よし……倒すなら今しかねぇ!!!」
動きを鈍らせたガルヴォルグ。その一瞬の隙を逃さず、勇者たちは一気に攻め込もうとする——。
「よし……倒すなら今しかねぇ!!!」
豹牙と駿の魔法によってガルヴォルグの動きが鈍った。しかし——
「……ッ、まだかよ……!」
駿が歯を食いしばる。
ガルヴォルグは、その巨体を揺らしながらも倒れる気配はない。むしろ、足場が崩れた状態でも強引に踏み込もうとし、その赤黒い瞳がさらに鋭さを増していた。
「——来る!!!」
蓮が叫んだ瞬間、ガルヴォルグの背中の棘が再び光を帯びる。
ズガァァァンッ!!
無数の岩弾が弾けるように放たれた。
「くっ……!?」
朱莉が瞬時に反応し、弓を構える。
「【࿓࿓風矢壁࿓࿓】!」
風の矢が目の前で弾け、即席の防壁を作り出す。しかし、ガルヴォルグの攻撃はそれを上回る威力で貫通し、勇者たちの間を次々と砕け散る。
「ッ……駿!」
蓮の声に、駿が即座に動く。
「チッ、仕方ねぇ……! 朱莉、後ろへ!!」
駿が素早く朱莉の前へ飛び込み、剣を大きく振るう。
「【࿓࿓疾風裂刃࿓࿓】!!」
瞬間、彼の剣が鋭い風の軌跡を描き、飛来する岩弾をかろうじて弾き飛ばす。
「っぶねぇ……!」
衝撃波で砂煙が舞い上がる。その隙に、朱莉が弓を再び構えた。
「今のうちに!」
矢が放たれ、ガルヴォルグの頭部を狙う——しかし、装甲は相変わらず硬い。
「っ……マジでどこが弱点なんだよ!」
焦燥が募る中、ガルヴォルグの咆哮が再び響き渡った。
ズシンッ!!
巨体が大きく跳躍し、そのまま勇者たちに向かって落下する。
「避けろォ!!!」
豹牙が叫ぶ。
全員が四方に飛び散るが——その瞬間、地面が大きく割れた。
「うわっ……!?」
崩れ落ちる大地に、和真と未来が足を取られかける。
「ッ……!!」
未来の手が空を掴み、バランスを崩す。
その瞬間——ガルヴォルグの目が未来を捉えた。
「狙われてる……!?」
背中の棘が再び光る。未来に向けて、次の攻撃が放たれようとしていた。
蓮は迷わず駆け出す。
「……させるか!!!」
だが、ガルヴォルグの攻撃のほうが速い。
背中の棘が再び発光し、無数の岩弾が未来へ向けて放たれる。
「——ッ!!!」
未来は動けない。足元の崩れた大地に体勢を崩し、踏みとどまることすらままならない。
(このままじゃ……!)
瞬間——
ズガァンッ!!!
土煙と衝撃波が巻き起こった。
「ぐっ……!!」
未来が目を閉じた次の瞬間、彼女の前に立ちはだかる影があった。
「……間に合った……!!」
蓮が剣を構え、岩弾を弾き飛ばしていた。剣に走る衝撃が腕を痺れさせる。それでも、彼は決して動かない。
「未来、大丈夫か!?」
「う、うん……!」
未来が息を整えながら立ち上がる。しかし——ガルヴォルグの攻撃はまだ終わっていない。
巨体を揺らしながら、さらに深く足を踏み込み、大地を割るような咆哮を上げる。
「チッ……! こいつ、まだこんな動きが……!」
駿が警戒する。
和真が素早く結界を張り、朱莉が再び矢を構える。豹牙は拳を握りしめながら、ガルヴォルグの動きを見極めていた。
連携で何とか持ちこたえている。しかし、このままではジリ貧だ。
この戦いに決定的な一手が必要だった。
「……ここで終わるわけにはいかない!!」
蓮の瞳が鋭く輝いた。その瞬間——
**༄《至高勇者》༄**が発動する。
ゴォォォッ……!!
膨大な魔力が蓮の身体を駆け巡る。風が渦巻き、大気が震える。
全ステータス強化——。
力がみなぎる。視界が冴え渡る。体が軽い。
「なっ……!? 何だ、この気配……!!」
駿が驚愕の声を上げる。
ガルヴォルグもまた、蓮から放たれる圧倒的な魔力を感じ取り、わずかに動きを鈍らせた。
その一瞬の隙を見逃さない。
「行くぞ……!!!」
蓮が踏み込み、驚異的な速度で距離を詰める。
ズバァッ!!
閃光のごとき剣撃が、ガルヴォルグの外殻を切り裂く。
「効いてる……!?」
朱莉が驚きの声を上げる。
先ほどまで、まるで通じなかった攻撃が——今は、確かに傷を刻んでいる。
ガルヴォルグが咆哮し、反撃の爪を振り下ろす。
しかし、蓮は一瞬で身を翻し、それを紙一重で回避。
その姿はまさに——勇者の名に相応しいものだった。
そして——
蓮の手に握られた剣が、虹色の輝きを放ち始める。
まるで、“真なる力”に目覚めたかのように。
《神帝剣・天光》——
その名は、“虹”のごとき光を宿す剣。
蓮は剣を振りかざし、解き放つ。
「【༄༄天光裂覇༄༄】!!」
ズバァァァン!!
光を纏った斬撃が、爆発的なエネルギーと共に放たれる。
刃の軌跡が虹色の閃光となり、大地ごと裂く。
地割れが広がり、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
ガルヴォルグの巨体が直撃を受け——その場に、静寂が訪れた。
決着の時が、ついに訪れたのだった。




