七十一・飛翔する運命
現在、俺は空を飛んでいる。
いや、飛んでいるというより――
「リリスさん!! もう少しゆっくり……お願いだからァァァ!!!」
「嬉しくて……つい」
――猛スピードで運ばれている。
風が、痛い。
景色が、ぶれる。
息が、できない。
死ぬ死ぬ死ぬ!!!! 落ちるよりマシだけど、これなら地上を走った方が安全だったんじゃないか!?!?!?
リリスの腕に抱えられ、まるで戦闘機のミサイルみたいな速度で夜空を駆け抜ける。
「リリスさぁぁぁん!!! 俺、人間だから!! 空気抵抗とか重力とか考慮してぇぇぇ!!!!!」
「大丈夫です! ちゃーんとヒナタ様の身体には防御障壁を展開しておりますので!」
「そっちの問題じゃねぇぇぇ!!!!」
――さて、話を戻そう。
どうやら俺が飛ばされた深緑の森は、タナトス王国から数国を挟んだ距離にあるらしい。
いやいやいや、「少し離れてる」ってレベルじゃなくね!?!?!?!?
これ、普通に帰ってたら何ヶ月かかったんだよ!?
……いや、でも考えてみれば、カイラナに転移された時点で、かなり遠くに飛ばされたのは間違いないんだよな……。
で、リリスは俺が消えた後――
賊共を一掃し、影から生徒たちを護ってくれていたらしい。
「俺がいなくても問題なくない……?」
そんなことを考えてしまうくらい、リリスは完璧に動いていた。
俺の気配は完全に消えていたが、俺との繋がりは感じ取れたらしく、それを頼りに魔力の痕跡を必死に探していたと。
そして――
俺が赫咬獣と戦ったとき、その魔力の膨大な揺らぎを微かに感知。
即座に飛んできたらしい。
いや、ほんとに俺が死にそうな時は現れないくせに、倒した後に出てくるの何なの……?
……まぁ、それは置いといて。
「それで、どこに向かってるんだ……?」
「はい! 実は……ヒナタ様に会わせたい奴がいるんです!」
「会わせたい奴……?」
俺は風を切りながら、リリスの言葉を反芻する。
リリスがわざわざ俺を連れていきたい相手……正直、嫌な予感しかしない。
……まぁ、それはともかく。
リリスが俺の元へ飛んでくる前、城全体に軽く結界を張ってくれたらしい。
魔の者の侵入を防ぐ効果があるとか。
「まだ賊の正体も目的もわかっていませんからね。再び何かが起こる可能性も考慮しておきました。」
「……そういうところは頼りになるんだよなぁ。」
俺がため息交じりに言うと、リリスは嬉しそうに微笑んだ。
俺が賊に転移させられたせいで、何もできなかったのが悔しかったが……こうして、リリスが裏でしっかり動いてくれているのは本当に助かる。
「まぁ、とにかく……! 目的地まではあと少しですよ!」
「そろそろ降ろしてくれませんかね……?」
「ダメです!」
「ですよねええええ!!!!」
俺は叫びながら、流れる景色をただ見つめることしかできなかった。
俺は知らなかった。
この先に待ち受けるものが、俺にとって試練となることを。
それが、ただの出会いではなく――
俺の運命を大きく揺るがす分岐点になることを。
そして、この旅路が、俺を”ただの人間”のままではいられなくすることを。
────この時の俺は、まだ何も知らなかった。




