七十・宿逢
翌日、旅立ちの日。
集落の入口には、大勢のウッドエルフたちが集まっていた。
……いや、こんなに人いたんだな、この村。
「ヒナタさん……!」
「どうか、お元気で……!」
「またいつでも来てください!」
長老や村の戦士たち、子どもたちまでもが、俺に感謝と別れの言葉をかけてくる。
まぁ、無理もない。俺はこの村を救った”英雄のひとり”みたいなもんだし……。
三姉妹との別れの挨拶をするために、俺は彼女たちの元へ向かった。
「ヒナタさん……いえ、師匠!!」
「ちょっ、まだその呼び方続いてたの!?」
長女ラミアがまっすぐ俺を見つめる。
「またいつか、必ずお会いできると信じています。次にお会いするときは、もっと強くなっているので……その時は本格的な指南をお願いしますね。」
「う、うん……そうだな! 期待してるぞ!!(来ないけど!!)」
俺は心の中で全力で叫びながら、適当に誤魔化す。
次女リーリャは少し寂しそうに俯きながら、小さな声で言った。
「……ヒナタさん、また……来てくれますか?」
「もちろん! また、いつか!!(来ないけど!!)」
俺は満面の笑みを作って答える。
そして問題は――
「ヒナタさぁぁん!!! 師匠ぉぉぉぉ!!! 行かないでぇぇぇ!!!」
三女・ルルンが俺の腰にしがみついて離れない。
「ちょ、ルルン!? 離れろ!! 本気で離れろ!!!」
「ヤダぁぁぁぁ!!! 絶対にまた会うって約束してぇぇぇ!!!」
「約束しなくてもまた会えるって!!(来ないけど!!)」
「ウソだぁぁぁぁ!!!」
「ウソじゃない!! ほら、いつか、絶対、たぶん、きっと!!」
俺が必死に言葉を並べると、ラミアがルルンの首根っこを掴んで引き剥がす。
「ルルン、いい加減にしなさい。」
「うぅ……でも……ヒナタさんと……もっと遊びたかった……」
ルルンが涙目で訴える。
可愛い。
だが、俺はもうここに来るつもりはない!!!
「じゃあ! みんな、お元気で!!!」
俺は全力で手を振り、背を向ける。
そして心の中で叫んだ。
「よし!! ここへ来るのはもうやめよう!!!」
その瞬間だった。
────────── タ様……!!
おいおい、ルルン……離れるのが寂しいって言っても泣きすぎだぞう?
────────── ナタ様……!!!
そうか……俺はそんなにも愛おしい存在だったのか……!!
でもすまない……!! 俺は行かないといけないんだ……!!!
────────── ヒナタ様……!!!
んんん?
……いや、待てよ??
俺はふと違和感を覚え、ゆっくりと上を見上げた。
「えええぇぇぇ!!リリスぅぅ!!??」
俺の視界いっぱいに、紅い瞳と黒衣の少女――リリスの姿が映る。
……というか、すんごいスピードでこっちに突っ込んできてる!!! 避ける時間なんて無い!!!
「タァァァァァ様ァァァァァ!!!!」
「うわぁぁぁぁ!!!!?」
――ドガァァァァン!!!!
俺はリリスの猛スピード抱きつき突進(物理)を受け、集落の入口で盛大に吹っ飛んだ。
地面が抉れるほどの衝撃。村の一同、騒然。
そして、俺はリリスにガッツリ抱きしめられたまま、無様に倒れ込んでいた。
「ヒナタ様ァァァァァ!!!!!」
「い゛た゛い゛っっっ!!!! やめろおおおお!!!」
「ヒナタ様ァァァァァ!!!!」
リリスは俺に全力で抱きついたまま、子供みたいに泣きじゃくる。
「うぅぅぅ……!! ヒナタ様ァ……っ!! ご無事でぇぇぇぇ!!!!」
お、おいおい……泣きすぎだろ……!? てか、苦しい!!! 離れろ!!!
俺は必死にリリスを引き剥がそうとするが、彼女の腕は鋼鉄のように固く、まったく動く気配がない。
「ぐすっ……っヒナタ様ァ……!! うぅ……!! 私、本当に、本当に心配だったんですからぁぁ!!! ヒナタ様がいなくなって、私、もう、どうすればいいのか……!!! うわぁぁぁぁぁん!!!!」
「いや……まぁ、悪かったよ……? でもちょっと待て!! 俺、今、めちゃくちゃ人目あるんだけど!?!?」
そう、集落の入口に集まっていたウッドエルフたちは、完全に ぽかーん として俺たちを見ていた。
特に三姉妹なんかは……
ラミア(長女)
「……あれ、ヒナタさんってまさか……リア充……?」
冷静な顔を装っているが、握り締めた拳が小刻みに震えている。
リーリャ(次女)
「え、ていうか、めっちゃ甘えられてる……何この可愛い生き物……」
俺とリリスを交互に見つめながら、目を細めて観察している。 なんかすごい分析されてる気がする……。
ルルン(三女)
「師匠……その、ずるい……!!」
ぷくーっと頬を膨らませながら、じと目でこっちを見ている。 なんだこの圧力は……!?
そして村の他のエルフたちも、ヒソヒソと囁き合っていた。
「……やっぱり、あの人、只者じゃなかったな……」
「実はすごいモテるのでは……?」
「いや、あの娘さん、独占欲強そうだな……」
あああああああああ!!!! やめてくれええええ!!!
俺はただ静かに去りたかっただけなのに!!!
「おいリリス!!! いい加減離れろォォォ!!!??」
「やぁぁぁぁですぅぅぅぅ!!!! ずっとこうしてたいんですぅぅぅぅ!!!!!」
「やめろぉぉぉぉ!!!!!」
俺の旅立ち。
予想の斜め上のとんでもなく目立つ形で幕を開けた。




