六十九・逃げ場なき指南役 弍
なんとか……三姉妹の件は丸め込んだけど……絶対また会ったら弟子入りさせられる流れだよな、これ。
まぁ、それは未来の俺に任せるとして……
明日にはここを出たいなぁ……!!
この数日、色々ありすぎて、普通の生活ってものに戻りたくなってきた。
そう思いながら、俺は村の外れで木の枝をナイフで削っていた。
適当な長さに折った木の枝を削ってると、なんとなく落ち着く。べつに矢を作ってるわけじゃない。ただの気晴らしだ。
「ふぅ……」
夜風が心地いい。
すると――
「こんなところで何をしている?」
ふいに声をかけられた。
俺は手を止め、振り向く。
そこにいたのは――タリオンだった。
「ヒナタ……ヒナタさん……本当にありがとうございました。」
タリオンはそう言いながら、深々と頭を下げた。
……いや、もう何度目だよ、この謝罪と感謝のコンボ。
タリオンからは、俺が目覚めた日にすでに散々謝られたし、感謝も浴びるほど受けた。
正直、そんなに気にしてないんだけどな……。
まぁ、それだけ今回の件がタリオンにとって衝撃的だったってことなんだろう。
「……まぁ、無事でよかったよ。」
俺は適当に答えながら、削っていた木の枝を弄ぶ。
どうやら、タリオンは今回の件は無罪放免になったらしい。
そりゃそうだ。実際、ウッドエルフたちが被害を受けたわけじゃないし、結果として村は救われた。
良かった、良かった!
……俺も最初、コイツのこと”悪役”かと思ってたんだけどな。
偽物の父に騙され、封印を解く手助けをしたって時点で「うわ、こいつラスボスの側近とかか?」なんて思ってたけど……
話を聞けば聞くほど、ただ純粋で、正義感の強い優しいやつだった。
……まぁ、その純粋さがちょっと危ういんだけどな……。
「ヒナタさん……俺、強くなりたい。」
んん?
この流れは……!!?
デジャブ!!!!
三姉妹からまったく同じようなことを言われたばっかなんですけど!?
おいおい、もしかしてウッドエルフ族の伝統行事なのか!? 強くなりたいと思ったら俺の弟子にならなきゃいけない決まりでもあるのか!?!?
「……えっと、それはつまり……?」
俺は一応聞いてみる。まさかとは思うけど、弟子入り希望とか言わないよな……?
「俺に、強さを教えてほしい!!!」
ですよねええええええ!!!!
俺は盛大に頭を抱えた。
「ま、待て待て!!」
俺は慌てて手を振る。
「タリオン……俺は別に強くないわけで……。赫咬獣を倒したのも……その……終焉の魔人だし……」
語尾がゴニョゴニョと濁る。
頼む、このまま誤魔化せ……!!!
しかし、そんな願いは儚くも散る。
「いいえ……!!」
タリオンは真剣な目で俺を見つめ、拳を握り締めながら力強く言い放った。
「最後の弓……!!あれだけでも、ヒナタさんの強さが分かります!!!」
「ぐっ……!!」
ぐぬぬぬ……!!!
……おい、俺が何かすごいことしたみたいな空気になってるけど、あれは勢いで撃っただけだからな!?!?!?
「そ、それはたまたま……」
「いえ、たまたまなんかじゃありません!!」
タリオンの目がキラキラしてる。
ダメだ、この流れ、絶対に回避できないやつだ!!!!しかもなんか急に敬語になってるし……!!
「……強くなれ……!」
俺は適当にそれっぽいことを言う。
「俺が再びこの地に来るまで……それまでは、教えることは無い!!」
タリオンは目を見開き、拳をギュッと握りしめる。
「……!! そ、それってつまり……!!」
「そういうことだ!!」
そういうことってどんなことだよ!!!と自分で思いながらも、勢いで押し切る。
タリオンは感動したように目を潤ませ、力強く頷いた。
「……分かりました!! ヒナタさんが戻ってくる日まで、俺は全力で鍛錬します!!!」
「……う、うむ!! 期待しているぞ!!」
心の中で土下座しながら、俺は右手を突き出した。
タリオンも力強くそれを握り返す。
よし!! これでしばらくは誤魔化せる!!!
……でも、よく考えたら、これ、“俺がまた来る”前提の話になってない!?!?
俺、もう来る予定ないんだけど……!!!




