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DEMONSMOB〜勇者に巻き込まれて転移した俺の物語〜  作者: はるりん
第1章 転移、そして目覚め
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六十六・焔心

 俺たちは森の中を歩いていた。

 **漆焉黒服(しえんこくふく)**を脱いで…


 ……俺は、ひたすら下を向いていた。


 めちゃくちゃ気まずい。


 いや、そりゃそうだろ!! あんなにカッコつけて「終焉の魔人……」とか言っておきながら、数分後には「ヒナタさんだぁぁ!!」ってバレてんだぞ!?! こんな恥ずかしいことある!?!?


「……あの、ヒナタさん?」


 ラミアが慎重に話しかけてくる。


「い、一応……その……あなたが”終焉の魔人”であることは、私たちだけの秘密にしておきますから……安心してください……。」


「……うん……ありがとう……」


 俺は蚊の鳴くような声で答える。


 リーリャは腕を組みながら、クールな表情で言った。


「まぁ、あれだけの戦いを見せられたら、下手に広めるよりも、黙っていたほうが得策でしょうしね。」


「そ、そっか……そうだよね……うん……」


 うああぁぁぁ!! なんだこの気まずい空気!!!


 ルルンに至っては、俺の顔をじーっと見ながらニヤニヤしている。


「ねぇねぇ、ヒナタさん。“終焉の魔人”のセリフ、もう一回言ってみてよ♪」


「言わねぇよ!!!!」


 ルルンの悪戯っぽい笑顔が、俺の羞恥心に全力クリティカルヒット。


 もう……やだ……


 俺はうなだれながら、ズルズルと足を引きずるように歩く。


 お家に帰りたい……!!!


 いや、帰る家なんて無いんだけど!! でも今すぐどこかのベッドにダイブして、布団の中で現実逃避したい……!!!


 それにしても……


 俺は三姉妹の背中を見ながら、改めて思う。


 こいつら……本当に”原石”かもしれない。


 ただの”有能なウッドエルフ”とかそういうレベルじゃない。


 三姉妹…特にルルンは、俺が終焉の魔人であることを一瞬で見抜いた。しかも、出会った時の俺は封印石で魔力を抑えていた。効果は薄れてたにしても。


 ――リリスも前に言っていた。


『終焉の魔人としてのオーラと、普段のヒナタ様のオーラ(封印石の影響下)が”同じ”だと気づける者はほとんどいません』


 俺を観察し、魔力の違いに気づき、それを疑問として結びつける。


 それが”できる”ということは……


 この三人、相当な”目”を持っているってことだ。




 俺たちは、封印されていた場所へとたどり着いた。


 そこは禍々しい雰囲気が漂う異質な空間だった。大地は抉れ、木々は焼け焦げ、まるでそこだけが”異界”と繋がっているかのような瘴気が渦巻いている。


 かつてこの地に封じられていた**赫咬獣(かっこうじゅう)**は、俺が討った。


 だが――まだ終わりじゃない。


 俺たちの視線の先。


 封印の中心だったはずの場所に、一人の男が膝をついていた。


「……タリオン……?」


 ラミアが驚いたようにその名を呼ぶ。


 タリオン。


 かつて俺を”魔族”と疑い、襲ってきた男。そして赫咬獣の封印を解いてしまった”張本人”。


 ……なのに。


 今のタリオンは、まるで抜け殻のようにただ呆然と、虚空を見つめていた。


 何があった……?



 タリオンの顔は、これ以上ないほどの絶望に染まっていた。まるで世界のすべてを失ったかのような虚ろな瞳。


「……俺は……牢で……父に会った……」


 掠れた声で、彼は語り始める。


「……父は、俺に言ったんだ……“封印を解け”って……“それがお前の使命だ”って……」


 言葉を紡ぐたびに、タリオンの肩は小刻みに震えていた。


「俺は……信じた……信じたんだ……あれが……父だと……」


 爪が食い込むほど拳を握り締める。


「……でも……あれは……父じゃなかった……」


 膝をつき、地面を見つめながら、タリオンの声はかすれていく。


「封印を解いた瞬間……“それ”は現れた……赫咬獣(かっこうじゅう)が……」


 その瞬間、タリオンの瞳にわずかに光が戻る。だが、それは気づいてしまった者の、絶望そのものだった。


「…………っ!!」


 タリオンは叫びかけて言葉を詰まらせる。


 彼の視線の先。


 俺たちはようやく”それ”に気がついた。


 封印の祭壇の端。


 そこには――


 ウッドエルフたちの死体が山となって積み重なっていた。


 深い傷を負い、血を流し――


 いや、血を流していない。


 死体には、あるはずの血が、一滴も残っていなかった。


 赫咬獣との戦いを思い出す。


 あいつは周囲の血を吸収し、何度でも蘇った。なら――


 ここにある死体も、その血をすべて奪われたのか。


 恐怖に歪んだ顔のまま、絶望の表情のまま、彼らはただ積み上げられていた。


 タリオンの嗚咽が、静寂の中に響く。


「……俺は……“使命”を果たしたはずだったんだ……」


「……なのに……どうして……」


「……どうして、こんなことに……!!」


 彼の拳が、地面を叩く。


 それでも、何も変わらない。


 死者たちは答えない。ただ、静かに、その場に積み重なっているだけだった。


 目の前に広がる光景に、俺は息を呑んだ。


 血の気が引いていくのがわかる。


 ――吐きそうだ。


 今まで戦ってきた。何度も命を賭けた戦いをしてきた。強敵と戦い、傷を負い、それでも生き延びてきた。


 だが――


 “死体”を目の当たりにするのは、初めてだった。


 ましてや、これほど多くの、血の一滴も残されずに無惨に横たわる亡骸を。


「……っ」


 喉の奥が焼けるような感覚がする。思わず顔を背けたくなるが、目を逸らせば何かが壊れそうな気がして、俺はその場に立ち尽くした。


 ……恐らく、この死体たちは封印を解くための”生贄”にされたのだろう。


 でも――ならばなぜ、タリオンはここに?


 なぜ、敵はタリオンを生かしたまま、ここに?


 俺は疑問を口にする。


「……なぜ、タリオンをここに?」


 その問いに、ラミアが沈痛な表情で答える。


「……聞いたことがあります。」


 彼女は静かに視線を落とし、血の気を失ったタリオンを見つめた。


「封印を解くためには、“ただの生贄”では足りません。」


「本当に必要なのは――“封印を施した(おさ)の血族”の血と、解放を望む祈り。」


 空気が凍りつく。


 ラミアの言葉の意味を理解した瞬間、俺はタリオンを見る。


 タリオンは――この土地に封印を施した”かつての長”の末裔だったのだ。


「……そうか。だから、お前はここに残されたのか……」


 俺は小さく呟く。


 ただの生贄ならば、赫咬獣に喰われた他のウッドエルフたちと同じように殺されていたはず。だが、タリオンは生かされていた。


 それは、彼の”血”が鍵だったからだ。


「……私たちも……」


 ラミアが静かに言葉を続ける。


「遠い血縁ですが……私たち三姉妹も、タリオンと同じ”長”の血を引いています。」


 一瞬、胸が締めつけられるような感覚がした。


 もしも敵が”その事実”を知っていたら――


 三姉妹も、生贄にされていたかもしれない。


 俺は知らず知らずのうちに、拳を強く握りしめていた。


「……狙われなくてよかったな。」


 俺はそう呟き、三姉妹を見やる。


 ルルンは珍しく真剣な顔をしていて、リーリャは静かに目を閉じている。ラミアは、唇を噛み締めながらタリオンを見つめていた。


 タリオンは肩を震わせながら、何かを絞り出すように呟いた。


「……俺は……何を……してしまったんだ……?」


「安心していい。赫咬獣(かっこうじゅう)はもう居ない。」


 俺は静かに告げた。


 タリオンは小さく息を呑む。


「……え?」


 信じられない、といった表情だ。


「おまえが……?」


 俺は首を横に振る。


「いや、俺じゃない。」


 タリオンだけじゃない。ラミアやリーリャ、ルルンも驚いたように俺を見ている。


「じゃあ……誰が……?」


 タリオンの問いに、俺は淡々と答えた。


「……終焉の魔人だ。」


 空気が凍る。


 三姉妹は沈黙し、タリオンは言葉を失ったように俺を見つめる。


「終焉……の、魔人……?」


 タリオンはかすれた声で繰り返した。


「そんな存在が……本当に……?」



 ──────────



 それにしても……カルラ、だったか。


 あのふざけた態度の男。赫咬獣(かっこうじゅう)を解き放ち、俺を嘲笑いながら去っていった。


 そして恐らく――タリオンをここへ導いたのも、奴の仲間だろう。


 タリオンの”血”が封印の鍵だったのなら、こいつを騙して利用したのは間違いなくあの連中だ。


 ……まだ、近くにいるはずだ。


 これだけの惨劇を引き起こしておいて……このまま逃がすと思うか?


 ……いや、逃がすわけがない。


 俺は静かに息を吐いた。


 だが、心の奥底では”怒り”が燃え盛っていた。


 ウッドエルフの村を蹂躙し、罪のない者たちを”生贄”として屠り、その血を赫咬獣に捧げた。


 ただの殺しじゃない。“利用”し、“弄び”、“消費”した。


 ……そんなやつらが、ただで帰れると思うなよ。


 指先が僅かに震える。だが、それは恐怖ではない。


 沸き上がる憤怒を、抑えきれなくなってきているだけだ。


「……少し、離れてて」


 俺はそう呟き、静かに周囲の気配を探った。

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