六十五・魔人の誤算
頼む……はやくどっかに行ってくれぇ!!
俺は心の中で必死に叫ぶ。
もう疲れたんだよ……。全力で戦い、炎までぶちまけて、さらには演技まで続けなきゃならない。今すぐ座りたい。できればそのまま寝たい。
だが、俺の願いも虚しく――
「赫咬獣を……討伐……しかも一人で……本当に何者ですか………!!?」
長女・ラミアの警戒はむしろ増してしまった。剣を強く握り、鋭い目つきで俺を睨んでいる。
くそ……騒ぐなって!! そんなに大声出されたら、他の連中まで集まってくるだろうが!!!
仕方がない……少しビビらせるか……!!
もう疲れてんだよ……これ以上問い詰められたら、マジで限界を迎える。だったら――“圧”で押し切るしかない!!
俺はゆっくりと顔を上げ、三姉妹を見下ろすように立ち上がる。そして、低く響くような声で告げた。
「オレの名は──────────」
その瞬間、地を揺るがすような圧が辺りに広がる。
空気が一変し、まるで世界そのものが沈黙したかのような錯覚を覚えるほどの異様な威圧感。
「終焉の魔人……この世界を終焉に導く者……!!」
俺の身体から放たれる魔力の奔流が、大気を震わせる。重圧があたりを包み込み、三姉妹の肌を刺すような感覚を与える。
頼む……!!怖がってどっか行ってくれ!!
長女・ラミアの瞳が揺らぐ。次女・リーリャは微かに息を呑み、三女・ルルンに至っては小さく震えていた。
いいぞ……!!そのまま怯えて――
「す、すごぉぉい!!やっぱりヒナタさん、射神なんでしょ!?!?」
……え?
いや、違う違う違う!!! 怯えろよ!! なんで興奮してんだよォォォ!!!
三女・ルルンは目をキラキラさせながら、俺の周りをぐるぐる回り始めた。
「ねぇねぇ!その黒いモヤモヤかっこいいね!どうやって出してるの!?弓だけじゃなくて魔人にもなれるなんてすごすぎるよ!!!」
やめろぉぉぉ!!! 俺のキャラ崩壊するだろうが!!!
長女・ラミアはさすがにまだ警戒しているが、さっきよりは困惑の色が濃い。
次女・リーリャに至っては、目を細めて俺を観察していた。
「……声が違う。“ヒナタさん”とは別人のように聞こえる。」
やめろ!! そんな冷静に分析するな!!!!!
「ヒ、ヒナタァ…?誰だそいつは。」
俺は必死に低い声を維持しながら、とぼける。
だが、ルルンは相変わらず俺の周りをぐるぐる回りながら、キラキラした目で俺を見つめ続ける。
「ねぇねぇ!やっぱりヒナタさんでしょ!? このオーラ、前に会ったときのと似てるもん!」
……クソッ!!
それだ!!!
俺はようやく気づいた。
ルルンが俺を”ヒナタ”と疑ったのは、俺がまだ魔力操作を使う前――つまり、最初に三姉妹と出会ったときの俺の”漏れ出していた魔力”と、今の”終焉の魔人”のオーラが似ているからだ!!
まさかこんな形でバレるとは……!!
「……フッ、くだらん。」
俺はまだ演技を続ける。
「オレは終焉の魔人……そんな”ヒナタ”とやらは知らん。」
頼む……これで押し切れ……!!
しかし――
「いや、絶対ヒナタさんだよね!?!?」
ルルンの確信に満ちた声が響く。
次の瞬間、長女・ラミアが剣を構え、次女・リーリャが鋭い視線を向けてきた。
「……やっぱり、おかしい。」
「正体を見せてください。」
詰んだ。
あぁ……終わった……!!!
ヤバい。めちゃくちゃヤバい。
俺はまだ演技を続けるべきか、それとも全力で逃げるべきか、脳内で高速会議を開く。
――だが、そんな俺の葛藤などお構いなしに、ルルンはさらに距離を詰めてきた。
「ねぇねぇ、ヒナタさんでしょ? 絶対そうでしょ?」
俺のマントを引っ張りながら、ピョンピョン跳ねてくる。やめろ!! 威厳が崩れる!!!
「……フッ、くだらん。」
俺は再び声を低くし、冷静なフリをする。
「オレは終焉の魔人……そんな”ヒナタ”とやらは知らん。」
――これでどうだ。完璧な威圧感。圧倒的な貫禄。これ以上追及するな、頼む……!!
「えぇ〜?」
ルルンはじーっと俺を見つめる。
やめろ。やめろ。やめろぉぉぉ!!! そんな疑うような目で見るなぁぁぁ!!!
次の瞬間――
「じゃあ、確認するね♪」
バッ!!
俺のローブが勢いよく引っ張られた。
「え?」
「え?」
「え?」
沈黙。
冷たい夕風が俺の素顔をさらしていく。
俺は、終焉の魔人の仮面を脱がされ――
「……ヒナタさんだぁぁぁ!!!!!」
ルルンの全力の叫び声が森に響き渡った。
終焉の魔人、爆誕から数十分――
まさかの、“妹系エルフによるローブ剥ぎ”により、呆気なく終焉を迎えた。
……俺、めちゃくちゃ気まずい。




