六十・封魔激突 参
そしてその頃、三姉妹はすでに《常葉の庵》へとたどり着いていた。
ゴゴゴゴ……!!
地響きのような振動が森全体を揺るがし、封印の砕ける鈍い音が響き渡る。空気が重く澱み、瘴気のような禍々しいオーラが広がっていく。
長老の館、その中庭。風がざわめき、樹々が不吉に軋んだ。
「いまのは……?」 静寂を切り裂くように、長女ラミアが呟く。
敏感に感じ取ったのは、異常なまでの魔力の波動。その濃密な瘴気に、彼女の眉が険しく歪む。
(このオーラ……まさか……)
脳裏に最悪の可能性が過る。胸の奥がざわつく。
その瞬間——
「全員……!! 戦闘態勢!!」
長老が鋭く命じた。一切の迷いもなく、的確に。彼の一声で、場にいた戦士たちが即座に動き出す。武器を手にし、陣形を整え、“何か”に備える。
何が起こったのかはわからない。だが、一つだけ確かなことがある。
——“封印が破られた”。
それは、森の民にとって決して許されざる事態だった。
三姉妹は、誰よりも早くその場を抜け出し、封印の跡地へと向かっていた。森の木々が次々と後ろへ流れていく。
「まずいよ…このままじゃ…ヒナタさんが…!」 次女リーリャが焦りを滲ませた声を上げる。
「はやく助けなきゃ…!」 三女ルルンが不安そうに呟く。その小さな声には、恐怖と切迫した想いが入り混じっていた。
ラミアは唇を噛み締める。鼓動が早まる。冷たい風が頬を打つが、そんなことに構っている暇はない。胸がざわつく。焦燥と恐怖、そしてたまらないほどの不安が心を掴んで離さない。
(待っててください…ヒナタさん…すぐに駆けつけます…どうか…ご無事で…!)
祈るような想いが胸を締めつける。最悪の事態が頭をよぎるたび、それを必死に振り払う。
足を止めるわけにはいかない。
ただひたすらに、彼女たちはヒナタのもとへと向かっていた。
────────── そして
この魔力……このオーラ……!!
ヤバい。圧倒的な威圧感が空気を震わせ、肌に突き刺さるような重圧を感じる。
まさか――
長老が言っていた”封印”が解かれたのか……!?
俺の脳裏に、長老の言葉が蘇る。太古の昔、この森に封じられた強大な魔族……もし解き放たれれば、災厄となる存在。
もしそれが本当なら、最悪の事態だ。
くそ……!! 一体、何が起きている……!?
辺りに広がる黒い瘴気はますます濃くなり、空気が粘つくように重くなる。まるで、この世界そのものが拒絶しているかのような不吉な気配。
そんな異様な状況の中で――カルラは歓喜に満ちた声で叫んだ。
「さぁ……どうした……!! 終焉の魔人!!」
狂気を孕んだ笑みを浮かべ、俺を挑発するように両手を広げる。
「敵は用意してやったぞォ!!?」
「最悪の存在……赫き牙が穿つは、血の災厄と呼ばれた……!!」
「【赫咬獣】をォォ!!!」
その名が響いた瞬間、瘴気がさらに膨張し、空間を揺るがすような重圧が辺りに満ちる。
遠く――森の奥深く、確かに”それ”は目覚めつつあった。
この距離でも感じる威圧感……
まずいな……これは……。
このままじゃ、深緑の森がもたない。
瘴気はますます広がり、重圧が増していく。まるで大地そのものが悲鳴を上げているかのような異常な空気。
そんな中――
カルラの姿が、フッと掻き消えた。
まるで霧のように、何の前触れもなく。
「……逃げたか。」
だが、今は追っている場合じゃない。
俺には、もっと優先すべき”災厄”がある。
俺は黒焔の弓を消し、地を蹴る。
向かうべきは、あの異様なオーラの源――赫咬獣。
……こいつを止めなければ、深緑の森が終わる。




