六・終焉之魔人 ”覚醒“
なんだ…?絶炎焔…獲得…?新しい能力か…けどどうして…いや、今は考えるのを辞めよう……
焉怒雷の時と同じように目の前に文字が浮かび上がった。早速…使わせてもらおう…
「“࿓《絶炎焔》࿓!!燃え尽きろォー!!”」
俺の右手から紅と橙色の混ざった炎の塊が終末の龍目掛けて一直線に飛び放った。
『(凄マジイ威力ダ…コレヲ受ケテハイケナイ!)
避ケキレナ ───────』
”ズドォォーンン“
直撃……はしなかったか。龍の奴、直前で身を交わしたか…だが……!
『クッ……オノレ……小僧…!!』
終末の龍は絶炎焔を避けきれず右半身を軽く負傷していた。
「かすり傷程度は出来ただろ…!」
致命傷にはなっていないか…俺は出血が酷い…もう時期動けなくなる…その前に…全てを奴に……!!!
「もっと近くで…全力を奴にぶつける……!!!」
俺は近距離で絶炎焔を当てる為に終末の龍に向かって走り出す。近距離なら避け用が無いだろう…!!!
『我ヲ誰ト心得ル……我ハ世界最強ノ龍ダゾ…!』
「な、なんだ……!?」
突如、終末の龍を中心に凄まじい風が吹き荒れる。木が簡単に宙に舞っている…俺自身も吹き飛ばされそうだ……まるでハリケーンだ…!
「これじゃあ…奴に近づけない……!!だったら……
“質より量”だ……!!!」
《────── 獲得シマシタ…》
またか……!まぁいい…有難く使わせてもらおう…!!俺は終末の龍の暴風に耐えながら魔力をコントロールする。
『(ナンダ…サッキヨリモ魔力ノ結束ガ強イ…)』
空中に無数の炎の塊が現れる。
「いくぞ…終末の龍……
࿓《絶炎焔・流星》࿓!吹っ飛べェ……!!!」
炎の塊は一斉に終末の龍に向かって飛び立った。数打ちゃ当たる…だ…!!流石に全部は避けきれないだろう…!
『(全テ避ケルノハ無理カ…)クッ……!!』
俺が放った絶炎焔・流星は終末の龍の暴風に耐えながら特攻していく…二、三発は見事に命中した…このままいけば―
『”小賢シイ……!!!!!!
”全テ破壊尽クシテクレル…
【༅破壊覇咆༅】……!!!』
「なんだ……!?破壊砲か…!?」
””キュピン““
“““ズドォォォォーンン”””
終末の龍が放った咆哮は俺の絶炎焔を簡単に吹き消しながら森を抉っていった……危機一髪、俺は回避することが出来た。
まじかよ…数キロ先まで消し炭になっている…今の当たってたら即死だったな……どっちしろもう時期死ぬんだけどな……!!さっきの咆哮で辺りはまだ土煙で視界が悪い。奴に近づくなら今しか無いな…!!俺は龍に気付かないように…土煙に紛れながら走った。
『(小僧ノ姿ガ無イ…死ンダ…?イヤ、奴ノ魔力ハマダ近イ……”近イ“……!?)』
「こっちだよォー!オ゛ラ゛ァ゛ァ!!!」
俺は終末の龍の真下まで来ていた…そして龍の顎を目掛けて思いっきりジャンプしてアッパーを喰らわせてやった…
『“グワァッッ”』
あれ……俺今…数十メートル飛んだよな……?それに打撃が効いてる……火事場の馬鹿力ってやつか…?まぁいい…もうどうにでもなれ…!!
『(コヤツ…ナンテ強イ打撃ダ…我ノ鱗ニヒビガ…!)ヨクモ… ───────ッ!?』
「まだまだいくぞ…!!ラリアット……!からの…──────かかと落とし……!!!」
『グワァッ……!?グワァァァ……!??』
よし…効いてる効いてる…でも、こんな力でるなんて俺の身体…一体どうなってるんだ……?
『“オイ…………小僧…”』
”ドオォォォン“
「ヴッッあ゙あ゙……!!」
頭突き……!?終末の龍の頭突きで俺は地面に埋まってしまった。痛すぎる…でもさっき程じゃない…
「まだだ…まだまだ……!!!」
俺は追い討ちを掛けるように終末の龍に打撃を繰り出す…終末の龍も負けじと尾や爪…手足で俺に攻撃してきた。俺の魔力と終末の龍の魔力がぶつかり合い凄まじい衝撃を生んでいる。
「どうした…!こんなもんかー!?」
『戯ケ!我ハマダ本気デハ無イゾ……!!』
再び俺と龍は殴り合いを始めた…だが消耗戦になれば不利なのは俺だ…はやく決着を付けないと…拳に魔力を集めるイメージ……焉怒雷を拳から繰り出すイメージ……
「〖༄《焉怒雷》༄・纏〗……!!!!」
『ンッ…!雷ノ拳…!?グワァッ…!』
出来た…!俺の拳が終末の龍に触れた瞬間に貫通するように雷は流れた。終末の龍はよろめくが…倒れはしなかった。終末の龍に俺の攻撃は効果ある…それなのに…なんだろう…この違和感は……
『認メテヤロウ…小僧…我ニ…ココマデ傷ヲ与エタ者ハソウ居ナイ。』
「あぁそうかい…。」
そうか…!俺の感じた違和感は圧倒的だと思っていたはずの【終末の龍】の強さ…か…!確かに終末の龍は化物みたいに強い…だが…その終末の龍と俺は渡り合えている。おかしい…全力では無いのか…?手加減をしている…?
考えてもキリがないな…
「そろそろ…終わりにしよう…!!」
『フフッソウダナ…我モ少シ疲レテキタ…』
お互い…はやく決着をつけたいみたいだな…だが俺の今ある能力では奴の致命傷にはならない…何か無いか…他に方法が…!!待てよ…動きを止めることさえ出来れば絶炎焔も焉怒雷も充分通用する…!
よし……イメージ…!魔力で奴を止めるイメージ…!!!
《──────獲得シマシタ…》
獲得…!?また新しい能 ───────
“ズキンッ”
んッ…なん…だこれ…急に…意識が…まずい…動けない…!!く…苦しい…!!!ヤバい…奴…の攻撃がくる…………!
『クラエ……
【黑死珠】……!!』
ヤバい……!なんだ…あれは…黒い魔力の塊が……!動け……避けないと死 ─────────
“ズドォォーンン”
『(避けること無くマトモニクラッタノカ……何故避け無かった…?)呆気ないな… 黑死珠をクラッテ無事のはずがない。黑死珠ハ空間ごと捻じ曲げ破壊スル魔法…久しぶりに使ったな…』
“パラッ”
『ナンダト……!?(小僧ガ…立ッテイル…!?身体ハボロボロダ…何カオカシイ……奴ノ周リニ禍々シイ魔力ガ溢レテイル……!?)アレヲクラッテ生キテイルトワ…ヤハリ…面 ────────』
「痛ェなァ…………オイ…お前…覚悟出来てんだろうな………新しい能力…試してみるか…」
『(ナンダ……!?奴の気配が変わってる…マルデ別人ノヨウダ……!!)』
「縛り付けろ………
࿓《闇縛永鎖》࿓…」
『(ナンダ…!?地面ヤ空中カラ黒イ魔力ヲ纏ッタ無数ノ鎖ガ…!?)クッ……!!一ツ一ツノ鎖ガ頑丈スギル……抜ケ出セナイ……!貴様何ヲシタ……!!!』
「これなら動けないだろ…
࿓《絶炎焔》࿓……」
『マズイ…!真正面カラ…!?動ケ ─────』
“ズドォォーンン”
「頑丈な奴だな……流石に一発じゃあ足りないか…」
『クッハァ…ハァ…貴様ァ……!!
我ヲ舐メルナ…!小僧…!!生キテ────』
「黙れ小娘…」
『ンッ…!?クラエ…!
【༅破壊覇───────』
「させるか…」
『ナニ…!?(鎖ガ我ノ口を巻き付ケルヨウニ…!!コレデハ…攻撃出来ナイ……!!!)』
「終わりにするぞ……終末の龍。
─────〖༄《焉怒雷》༄・連弾〗」
“ズドォォーンン”
『グアッ…我ガ…!』
“ズドォォーンン”
『グアッー!!マズいコノママダト……』
“ズドォォーンン” ”ズドォォーンン“ “ズドォォーンン”
「…凄いな…まだ意識あるのか。」
『ハァ……ハァ………(我ハ…又人間ニ負ケルノカ…)』
「これで最後だ………
“““マノイカヅチィー!!!!!
༄《焉怒雷》༄“““」
“““ズドォォォォォォォンン”””
────────── あれ……
もしかして……俺、勝ったのか…?痛てッ身体のあちこちが痛い…少し座ろう。終末の龍はどう…なったんだろう…お願いだから倒せていてくれよ…!もう動けないぞ……というか、なんで俺生きているんだ?最初に吹き飛ばされた時にもう助からない程の致命傷を受けていたはずなのに…
今は傷は酷いものの…出血は止まっている…それに…どうしてあんなにポンポンと能力を獲得することが出来たのだろう…普通…じゃないよな……
「”え………“」
嘘…だろ…終末の龍……立っているのか……!?
終末の龍は俺の目の前に立っていた。しかし…
”ズドォン“
終末の龍は地面に何の抵抗も無く…倒れた。一安心した俺は終末の龍の近くに座った。今まで気が付かなかったが、近くで見た龍の鱗は元いた世界には無い…光沢や材質をしていた。
「凄いな……」
”──────── 小僧……“
ん!?終末の龍が話した…!?まだ意識あるのか……俺はもう戦えないぞ……!?身構えた俺を見た龍はこう言った。
『安心シロ…戦ウツモリハ…モウ無イ…』
「よ…良かった…」
『小僧…強イナ…名ヲ名乗レ…』
だいぶ弱っているな…声が弱々しい…
「佐藤…陽向って言います…」
『ソウカ…陽向カ…良イ名前ダナ…
我ハ世界最強ノ竜…【覇帝竜・レシュノルティア】
世界デハ【終末の龍】トモ呼バレテイル…』
“世界最強”の竜…
本気なのか冗談なのか分からないな…
「覇帝竜・レシュノルティア……それが…本当の名前…!!あの…レシュノルティアさんが国を幾つか滅ぼしたって…本当なの?」
『フフッ…本当サ…懐かしいな…何故ソンナコトヲ……?』
「よく分からないけど…俺にはレシュノルティアさんが…その……あまり悪い竜には思えなくて…」
『陽向ヲ殺シカケタノニカ…?』
「えぇ…そうなんだけど……俺には貴方が楽しんでるんじゃなくて…悲しみながら戦っているように思えて…」
『フッハハ…ソウ見エタナラソレハ…恐ラク……約束ヲ……果タセナイカラダロウナ…』
「約束……?」
『アァ…オカシナ話ダ…我ガマダ幼い頃…我ハ竜族ノ中デモ小柄デ…弱ク…同族ノ中デ酷イ扱イヲサレテイタ…常二…孤独ダッタ……ソシテ…ソレハ…雲ヒトツナイ晴天デ風ガ心地ヨイ日ノ事ダッタ。我ハ草原デソノ人二出会ッタノダ……』
「その人………?」
『アァ…ソノ人ト出会ッタ我ハ…沢山ノ初メテノ感情ヲ知ッタ…彼ト過ゴシタ短イ日々ハソレハモウ…毎日ガ楽シクテ…コノ時間ガ永遠二続ケバイイト想ッテイタ…ダガ…別レハ…突然ヤッテキタ……ソシテ…別レ際二…彼ト約束シタンダ……』
「その…約束って…?」
『────────── イヤ…ツマラナイ話ヲシタナ…今トナッテハ顔スラ……名前デスラ…覚エテイナイ…ダガ…ソノ約束ダケハ一刻ノ時モ忘レタコトハ無イ……フフッオカシナ話ダロ…?コンナ話ヲスルナンテ我ラシク無イナ…全ク……モウ…終ワリノ刻ガ近イカラカ…想イ出話ヲシテシマッタ…スマナイナ…』
「い、いえ……終わりが近い…って……?」
『我ハ…モウ時期…死ヌノダ…』
「そんな…俺の…せいで……」
俺がそう言うとレシュノルティアは少し、微笑んでいるように見えた。
『今マデ殺シ合イヲシテタジャナイカ…我ハ負ケタノダ…当然ノコトダ…ソレ二……例エ陽向ガココニ来テイナクテモ我ノ終ワリハ近カッタ…』
「それは…どういう…」
『コノ…結界ダヨ…コノ結界ハ刻一刻ト魔力と生命力ヲ奪ッテイッテルンダ…普通ノ人ガ入レバ数分ト持タズ死ニ至ル…』
そうか…だからこの結界の中は嫌な気がしたのか…
「じゃあ…!レシュノルティアさんが封印されてからずっと……!?」
『ソウダ…オヨソ…二百三十年前…我ハアル者ニコノ結界ニ封印サレテイル…オカゲデ本来ノ力ノ二割シカ出セナクナッテシマッタ……身体モモット大キカッタンダゾ…』
「今までのが…本来の力の二割…………!?」
そうか…違和感の正体はこれか… レシュノルティアは全力を出せなかったから手を抜いてると思ったのか…それに…心做しかレシュノルティアの身体は初めて見た時よりも小柄のように思えた。
『フフッ…陽向ヨ…最期ニ楽シイ刻ヲ有難ウ…』
「ちょ…ちょっと待って…!!どうにかして…死なない方法は無いの……!?俺は貴方に死んで欲しくない……!!」
『変わった事を言ウノダナ…方法ハ無イ…モウ我ノ魔力ハ底ヲ付イテイル…』
「そんな……何か方法は…魔力……魔力…!!そうだよ魔力だよ!俺の魔力をレシュノルティアさんに分けたら死なないで済むんじゃ……!!」
『不可能ダ……モシ出来タトシテモ…ソンナ事ヲシタラ今度ハ陽向ノ命ガ危険ダ…』
「やってみないと分からないだろ…!それに…俺の命くらい…くれてやる…!選択肢は二つに一つ…!!
”二人で結界で死ぬか……
二人で生きて結界から出るか…!!“」
なんでだろうな……いつもの俺ならこんなこと言うはずないのにな…
『何ヲ馬鹿ナ……!ソレニ…結界カラ出ルコトスラ出来ルハズガ無イ……!!!』
「それは…後で一緒に考えよう!」
『一緒ニ………本当ニ我ヲ…助ケテクレルノカ…』
「勿論だ………!!!」
俺がそう言った時…レシュノルティアは大きな雫を一滴垂らした。
『ソウカ……モシ………二人共無事ダッタラ…ソノトキハ……我ハ陽向ヲ支エル配下トナロウ……!
(オカシイナ……世界最強ノ竜ガ人間ノ下僕ニナルナド…ナンデダロウナ…数百年振りの人で我を忘れたか…命を賭けてクレルノガ嬉しいのか………
それに彼奴を見ていると…
何処か…懐かしい ───────)』
「おぉ!言ったからな……!!!約束だぞ…!!」
『人間ノ寿命ナド我ニトッテハ短イ時ヨ!ソナタガ天寿ヲマットウスルマデ傍デ支エテヤロウ……!』
「よし…!必ず二人で出よう……!!それじゃあ…やるぞ………!!」
必ずだ…必ず成功させる…
俺は両手をレシュノルティアの額にかざした。魔力を…与える……!集中しろ………!俺の全魔力をレシュノルティアに注ぐイメージ…!!!
レシュノルティアは俺の魔力に包み込まれた。辺りは俺の魔力で風が吹き荒れていた。
「クッ……!!!」
レシュノルティアに魔力を……!!想像以上にキツイな……魔力を根こそぎ持ってかれる…魔力だけじゃない……命の危険…生命力も持ってかれている……
「くれてやる………!“俺の魔力も…命も…!!!全てお前にくれてやる“…………!!!!!!」
俺は叫んだ………
そして…
俺は力を使い果たし…その場に座り込む… レシュノルティアに変化は無い…目も覚ましていない…
「駄目…だった…………」
““キュイーン””
突然…… レシュノルティアが光出す。そして、みるみる小さくなっていく……
なんだこれは…………!?
『────────感謝スル…ヒナタヨ…イヤ、ヒナタ様……我……私を救って下さり…本当に有難うございます…貴方様はこれより…私の主です………!』
レシュノルティアは竜の姿から人の姿に変身した。
黒い艶やかな髪で全てを見透かすような澄んだ紅い瞳…透明感ある白い肌…雑音一つない天使のような透き通った声……そして…眩しさを感じる迄の美しい顔立ち…
その姿はまるでおとぎ話の…
月から降りてきたかぐや姫のようだった─────