五十六・深緑の戦火 陸
“死ぬ” そう予感した瞬間だった。
目の前に迫る刃。避ける暇も、反撃する余裕もない。身体が動かない――否、時間が足りない。
こんなにも呆気なく、俺は終わるのか……? 異世界に飛ばされ、数々の戦いを乗り越えてきたというのに、こんな形で――。
“《ガギィィンッ!!》”
耳をつんざく金属音。視界の端で黒い影が揺れる。
俺を守ったのは――《漆焉黒服》。
身に纏うことすら忘れていたローブが、まるで意志を持つかのように俺の身体を包み込み、カルラの刃を弾き返していた。
俺は一瞬、息を呑む。
俺を護ってくれたのか……?
ただの装備だと思っていたローブが、まるで意思を持つかのように俺を包み込み、絶体絶命の一撃を防いだ。 偶然なんかじゃない。こいつは”選んで”動いた。 まるで、俺が着るべき瞬間を理解していたかのように。
「……助かったぜ。」
俺はゆっくりとローブを羽織る。
その瞬間――視界が赤く染まる。 体の内側から熱がこみ上げ、俺の両目が紅く輝いた。同時に、俺の顔の輪郭がぼやけ、まるでモヤがかかったように歪む。
――認識阻害。
カルラの表情が一瞬歪んだ。俺の姿を見ているはずなのに、顔の詳細が掴めない。 「……なんだ、これは……?」戸惑いの声が漏れる。いいぞ、これで奴の動揺を誘える。
俺は静かに口角を上げ、再びカルラを見据えた。……さて、ここからは”終焉の魔人”の時間だ。
「さぁ……続きをしようか。」
――低く、響くような声で。
カルラが一歩後ずさる。俺の姿が、奴の目には輪郭の定まらない異形の存在として映っているはずだ。
「怖いか?」
静かに問いかける。低く、冷たく、そして確信に満ちた声で。
「お…おまえは…本当に…何者だ…?」
カルラの声が揺れる。先ほどまでの余裕はどこにもない。戸惑いと恐怖が滲み出ている。
俺はゆっくりと前に歩み出し、低く、響く声で告げる。
「オレは終焉の魔人…この世界を終焉に導く者」
大気が揺れ、俺を中心に圧倒的な威圧感が広がる。
「今までのは仮初の姿――ここからが真の姿だ。」
ローブが翻り、紅い瞳が妖しく光る。俺の気配は、先ほどまでとはまるで別物に変わっていた。
俺は静かに手を掲げ、魔力を集中させる。漆黒の炎が滲み出し、刀の形を成す。 刃は闇そのもののように揺らめき、その縁には赤黒い光が脈動していた。
次の瞬間、俺は消えた。カルラが目を見開くよりも早く、黒焔刀はすでに他の魔族を捉えていた。
“シュッ”
ただ、一閃。それだけで魔族の首が宙を舞う。身を翻し、別の魔族へと斬撃を放つ。
“ズバァッ!!”
黒焔が爆ぜ、燃え上がる炎に包まれながら魔族は断末魔すらあげる暇なく灰と化した。一撃、一閃、すべてが瞬殺。
俺は再びカルラの前に立ち、刃についた魔族の灰を払うように軽く振るった。これで邪魔は消えた。
あとは――お前だけだ。
とまぁ……格好はつけてるものの、実は結構しんどい……!!
見た目は余裕たっぷりに立っているが、内心では必死に息を整えている。マジで全力疾走で敵を排除したせいで、足がガクついてるし、心臓もバクバクだ。
それなのに、堂々とした態度を崩さず、あたかも”余裕”のフリをし続けるのが一番しんどい!!
頼む……俺の呼吸、バレるなよ……!!
「ふっ……バケモノが……!」
カルラが口元を歪めながら、低く笑う。疲れを悟られまいと俺はじっと睨み返すが、内心の動揺は隠せなかった。
「終焉の……魔人? そうか……おまえが……」
言葉の途中で一瞬、カルラの目が細まる。確信を得たような、あるいは腑に落ちたような、そんな表情。
……え? なんだその反応。
俺を知っている……? なんで?
こっちはつい最近、成り行きで”終焉の魔人”を名乗っただけのはず。なのに、まるで前々から俺の存在を知っていたような言い方じゃないか。
嫌な予感がする。まさか、俺の知らないところで”終焉の魔人”が独り歩きしてる……? それとも、もっと別の……。




