五十二・深緑の戦火 弍
今は……! 考えてる暇は無いな!!
࿓《千里眼》 発動!!
視界が一気に広がり、遠くの敵の姿がくっきりと映し出される。
更に……!!
࿓《魔力操作》発動!!
矢の軌道を微調整し、狙いを完璧に定める。
あ た れ ぇ ぇ !!!
心の中で叫びながら、俺は炎の矢を放つ。
――弓矢の経験なんて無い。
これは、ただの見よう見まね。そして、能力での真似事に過ぎない。
だが――
ここ数日で、三姉妹の動きを観察し、俺なりに学んだことがある。
まず、一番重要なのは“引き絞るタイミング”。ただ力任せに弦を引けばいいわけじゃない。狙いを定めながら、どの瞬間が最適かを見極めることが大切だと、ラミアが言っていた。
次に、“射る瞬間に息を止めること”。リーリャはほぼ無音で弓を撃つ。呼吸すら制御し、一切の無駄を省いていた。
そして、“重心の使い方”。ルルンは力強く弓を引くが、実は腕の力だけじゃなく、腰の回転を利用していた。そのおかげで、速く正確に矢を放てる。
俺はその全てを思い出しながら、できる限り実践する。
これは、ただの矢じゃない。
俺の持つ特上能力――エクストラスキルの組み合わせ技。
࿓《絶炎焔》、࿓《千里眼》、࿓《魔力操作》。
この3つを融合させた、俺にしか扱えない遠距離攻撃。
“《ゴォォッ!!》”
“《シュバァッ!!》”
燃え盛る赤い矢が空を裂き、一直線に敵へと向かう。
“《ドスッ!!》”
矢は見事に命中。
敵の身体を貫き、そのまま勢いを殺さず突き抜ける。
しばらく進んだところで、矢は炎の残滓を残して静かに消滅した。
よしッ!!!
「え……なにいまの……??」
「ヒナタさんが……?」
三姉妹が俺の矢を見て驚いていた。どうやら観られていたようだ。
彼女たちは目を見開き、俺と矢が消えた先を交互に見比べている。
その表情には、動揺と驚きが入り混じっていた。
「す……すごい……!!」
ルルンがぽつりと呟いた。
その言葉を皮切りに、三姉妹は俺の放った一撃を改めて理解し、さらに驚愕の色を強めていく。
「ここからじゃ……姿も見えない……敵を……弓で……」
長女・ラミアが信じられないといった表情で呟く。
「一瞬……気配を感じたけど……それも一瞬で消えた……」
次女・リーリャは鋭い目をしながら、何かを考え込んでいる。
そして――
「もしかしてヒナタさんッ!!! 伝説の“射神”(しゃしん)なの……!!?」
……は?
な、なに、写真?
いや違うよな。射神……?
何か凄そうな称号っぽいけど、俺にはさっぱり分からない。
(でも、たぶん違う……絶対違う!!)
三姉妹の視線が、俺に集中する。
「と、とりあえず! 魔族の襲撃だ! 早く《常葉の庵》の人たちに伝えなきゃ……!」
俺は急いで三姉妹に告げる。
「俺が魔族をここで引き止める。三人は集落に戻って伝えて……!」
「1人では危険すぎます……!!」
ラミアが強く反対する。
「大丈夫! 敵の数は多くない!」
……嘘である。
今もなお、魔族の数は増えている。
その数、34体!
……あ、今35体になった。
(いや、増えんなよ……。)
このまま三姉妹がいたら、かえって戦いに集中できなくなる。
「俺は大丈夫だから!」
俺は無理やり押し切る。
――そして、三姉妹は渋々頷き、集落へと走り出した。
「必ず、すぐに戻ってきます!! どうか……ご無事で……!!」
ラミアが名残惜しそうに振り返りながら言い残し、森の奥へと消えていく。
よし……行ったな。
俺は静かに息を吐く。
さっきの変異進化ってやつ……
どうやら、元の能力は消えず、まったく新しい能力が手に入るらしい。
(……さて。)
俺は目を閉じ、意識を集中させる。
࿓《千里眼》(せんりがん) に ࿓《鑑定眼》(かんていがん) を上乗せ!!
視界が鮮明になり、さらに細かな情報が流れ込んでくる。
(ほんと便利だ……。)
なるほど、敵の強さは把握した。
ほとんどは雑魚だ。問題になるほどの戦闘力を持ったやつはいない。
――ただし、数体を除いては。




