四十六・森妖精
「さて…どうしたものか…。」
変な場所に飛ばされてしまったが、落ち着いて考えれば、ここは異世界転移とは違う現象のようだ。
「でも多分……ここはさっきとは違う世界ってわけじゃ無さそうだ!!」
確証はないが、感覚的に分かる。異世界転移して、さらに別の世界に飛ばされたら……もはや意味がわからないしね。
「とりあえず……」
࿓《鑑定眼》(かんていがん)!!
視界が一瞬で変わり、周囲の情報が視える。
「なるほど……。」
近くに敵の存在はなさそうだ。ただ、少し離れた場所にいくつかの反応がある。
(……気をつけよう。)
「それと……今持っているものを整理してみよう。」
冷静になって、状況を確認することが大事だ。
まずは――着ている服。履いている靴。
……以上。
「のみ!! よし!!!」
一瞬、前向きにまとめてみたが――
「ふざけんなぁぁ!!!」
俺の怒声が森に響き渡る。
木々はただ静かに揺れるだけで、誰もツッコんでくれない。
(……マジかよ。武器も道具も、何もないじゃないか。)
これは……さすがに厳しいな。
と思ったら――
**黒いローブ《漆焉黒服》**が目の前に現れる。
「え、どこにあったの?」
さっきまで何も持ってなかったはずなのに。
まあ……確かに、このローブを初めて見つけたときも、急に俺に覆いかぶさってきた。
(……意志のようなものがあるのだろうか?)
手に取ると、不思議な感覚が伝わってくる。
そして俺は気づいた。
このローブ、どうやら伸縮自在らしい。
どんなに大きくも、小さくもなれる。豆粒ほどのサイズにさえ――。
(……なるほど、便利だな。)
俺はそれを、常に身につけておくことに決めた。
いつ、どんな時に――“終焉の魔人”が必要になるか分からないからだ。
──────────
1時間が経っただろうか。俺は森の中を歩き続けている。
ふと、思う。
(……俺、こんなところで道草食ってるけど……向こう、生徒たちの城は大丈夫なのだろうか?)
少し不安になるが、すぐに考えを振り払う。
(まあ、リリスがいるし……あの魔族も何とかしてくれたでしょ。)
あいつが本気を出せば、大抵の問題は片付く。俺がこうして彷徨っている間に、すべてが解決していたとしてもおかしくはない。
さて、さっきから俺を監視している奴がいるな。
気配はずっと感じていた。だが、何もしてこないから様子を見ていた。
(……まあ、面倒事は嫌いなんでね。)
撒かせてもらうよ!!
俺は瞬時に地を蹴り、全速力で駆け出した。
“ザッ!!”
風を切る音が響き、森の景色が一瞬で流れていく。
(ふっふっふ……どうやら動揺して、あたふたしているようだ。)
足音が乱れ、動きがついてこれていない。
(さて、このまま撒くか……それとも、逆に引っ掛けてみるか?)
俺は走りながら、監視者の出方を探った。
すると――
「ちょっと…待ってぇ!」
「お待ちください…!」
「はや…すぎる…」
甲高い三人の声が、森の中に響く。
(な、なんだ……?)
思わず俺は動きを止めた。さっきから感じていた監視者の気配――それが、この三人?
振り返ると、森の奥から小柄な影が三つ、必死にこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
(……俺、なんか面倒なことに巻き込まれたか?)
走り方もバラバラで、まるで俺を捕まえることに必死な様子。それでいて、敵意は感じられない。
俺は軽く息を整えながら、彼女たちを待つことにした。さて、一体何者なんだ?
「はぁ…はぁ…」
三人は俺の元にたどり着いたが、息を切らして肩で呼吸をしている。
(この人たち……もしかしてエルフ!?)
特徴的な長い耳、透き通るような肌色に近い色の肌。初めて見た……!
やっぱり異世界といえば、美少女エルフでしょ!!! 大人の包容感たっぷりな!! ……
……なんか幼く見えるけど。
理想と現実のギャップに若干の落胆を覚えつつ、俺は彼女たちが落ち着くのを待った。
そして、ようやく呼吸が整ったのを確認すると、俺は口を開く。
「え…っと……どちら様ですか……?」
俺は慎重に問いかけた。
「申し訳ありません。私たちは 森妖精、この森に住む者です。」
三人の中でも、一番大人びた雰囲気のエルフが口を開いた。
(ウッドエルフ……!! いいねぇ!!)
異世界らしさ全開の種族に、思わずテンションが上がる。
とはいえ、彼女たちは明らかに幼い雰囲気。俺の中の”理想のエルフ像”とは少し違うけど……まあ、細かいことは気にしないでおこう。
「それで……僕になんか用ですか?」
俺は軽く頭をかきながら、首を傾げた。
「おまえの…! …いや、あなた様の力を我ら一族に貸してほしいんだ!です。」
一番小柄で、どことなくバカっぽい雰囲気のエルフが元気よく話す。
(こ、子供……??)
エルフって長寿な種族のはずだけど、こいつはまるで人間の子どもみたいだな……。
というか、力を貸すって……見ず知らずの俺になぜそんなことを……?
俺は困惑しながら、彼女たちを見つめた。
「ば、ばか! ルルン…! 申し訳ありません…詳しくお話します。」
そう言うと、一番大人びたエルフ――ラミアが落ち着いた口調で説明を始めた。
どうやら、この三人のウッドエルフは三姉妹らしい。
•長女:落ち着いた雰囲気のラミア
•次女:大人しそうなリーリャ
•三女:元気でちょっとバカっぽいルルン
この森の奥には、ウッドエルフたちが住む村があり、どうやら最近、その村が魔族の襲撃を受けて困っているらしい。
被害も尋常じゃないほど甚大だとか。
そこで、突如としてこの森に”異様な気配”が現れたため、偵察に来たら――俺がいた、というわけらしい。
俺は魔族ではないし、“強いオーラ”を感じるから、助力をお願いしたいということらしいが……。
……いやいや、なんで俺??
急にそんなことを言われても、正直困るんだけど……。
俺は三姉妹を見つめながら、どう返事をしたものかと考えた。
早く…元の場所まで戻りたい。
でも――
彼女たちの涙で光る瞳!
(……これには抗えないぃ!! ずるいよォ!!)
潤んだ瞳で必死に見つめられたら、断れるわけがない。
俺は大きくため息をついた。
「……はぁ、分かったよ。」
嫌々ながらも、承諾することにした。
こうして俺は、ウッドエルフの集落とやらに向かうことになったのだった。




