四十四・襲撃 伍
魔族の敵は、物凄い速度でこちらに突っ込んでくる。
だが――
「……遅い。」
俺は容易く回避する。相手の動きが速くなったとはいえ、見切れないほどではない。
「《血晶閃葬》!!」
敵が叫び、瞬間――紅紫の閃光がいくつも俺を包むように襲いかかる。
ズドォォォン!!
無数の魔力の光が炸裂し、爆発を連鎖させながら俺を囲い込む。
(……っ!! これはさっきまでの攻撃とは桁違いだな。)
一発でもまともに喰らえば、ただじゃ済まない。
爆炎が渦巻き、大気が震える。単なる範囲攻撃じゃない――これは俺を確実に仕留めるつもりの魔法。
四方八方から襲いくる紅紫の閃光。まるで獲物を追い詰めるかのように、逃げ場を奪う動きだ。
「あっぶ…ない!!」
俺は素早く身を翻し、迫りくる紅紫の閃光をギリギリで回避する。
ズドォォン!!
爆発の衝撃が背後を焼き、熱風が肌をかすめる。
「くそ……こんなに間髪入れずに攻撃してくるなんて……!」
連続で繰り出される魔法、休む暇すら与えない執拗な追撃。しかも――
(この騒音……まずいな。このままだと、他の人たちが集まってくる……!)
ここで余計な目撃者が増えるのは避けたいところだ。
「……早く終わらせないと。」
俺は小さく息を整え、次の一手を考える。
敵の放つ紅紫の閃光を避けながら、その軌道を観察していた。
(……なるほど。やっぱり、この魔法は撃った後の硬直が大きい。)
強力な範囲魔法ほど、隙も大きい。問題は、その瞬間をどう突くか――。
その隙を突いて! 斬る!!
敵の硬直が生じた一瞬、俺は地を蹴り、前方から猛スピードで懐に飛び込む。
「なっ――!?」
敵の驚愕が漏れる。
敵は刃を突き立てられながらも、一瞬ニヤリと笑う。
「な〜んてなぁ……!!!」
“パンッ”
相手は突然、手を前に出し、乾いた音を鳴らした。
“シュウウン”
……え?
……ええ……??
……えええ………???!!!
俺の視界が、一瞬にして歪む。
気づいたときには――
目の前に広がるのは、まったく知らない場所。
森の中。どこまでも広がる緑。美しく澄んだ川が流れ、大小の岩が無造作に点在している。
さっきまでの戦場とは、まるで別の世界――。
(……なんだ、これは。)
まさか……転移魔法か!?
「このやろーーー!!!!」
俺の叫びが、静かな森に響き渡る。
しかし、答える者はいない。風がざわめき、川のせせらぎが虚しく流れるだけ。
……さて、どうしたものか.....
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「……え?」
——主の気配が、消えた。
レシュノルティアの表情が強張る。
理解が追いつかない。何かが起きた。
焦燥と困惑が胸を締めつける。
そして——
“異変”はすでに始まっていた。




