四十三・襲撃 肆
「馬鹿言え……!! 答えるわけ……」
“ズズッ”
言いかけた男の顔を、俺の拳が容赦なく打ち抜く。重い衝撃とともに、男の体が床を滑る。俺は無表情のまま、ゆっくりと拳を振り払った。
「……答えないと、苦しいだけだぞ?」
低く冷たい声が、静まり返った空間に響く。
「ぐっ……!!」
男は苦しげに呻くが、それでも反抗の意思を捨てていない。まったく、無駄な抵抗を……。なら――
ドゴッ! ドガッ!
容赦なく、さらに攻撃を浴びせる。拳が肉を叩く鈍い音が響き、男の体が何度も床に叩きつけられた。
「が……っ!! く……そ……」
ボロボロになりながらも、なお睨みつけてくる男。だが、もはやそれも虚勢にしか見えない。これが拷問なら、俺は拷問官だ。
心のどこかでそう思う。俺は敵に慈悲をかけるつもりはない。ただ、必要な情報を得るまで――それだけだ。俺は、ふと思った。
(……俺は、どうしてこんなにも怒っているんだ?)
情報を聞き出すため? それとも、こいつが俺たちを襲ったから? いや――それだけじゃない。
胸の奥が熱を持っている。どこかで、こいつらの存在そのものに苛立っている自分がいる。
理由は分からない。
「……さあ、そろそろ話す気になったか?」
「馬鹿を言え……!! この城ごとお前を消し炭にしてやろう!!」
敵が吠えるように叫び、手をかざす。
【༅浸爆──────────】
(ん!?)
瞬間、俺の全身に警戒信号が走る。
範囲攻撃魔法――!!
このまま詠唱を許せば、俺だけじゃなく、城の中まで巻き込まれる!
させるかよ!!
俺は一瞬で間合いを詰め、顎下めがけて膝蹴りを叩き込む。
“ゴッ!!”
衝撃が走り、敵の詠唱が止まる。
間髪入れずに、首根っこを掴む。
「……外で.....やろうか!!」
俺は迷わず、目の前の窓へと向かって全力で敵を投げた。
“バリィィン!!”
窓ガラスが砕け散り、男の体はそのまま外の庭へと吹っ飛んでいく。
俺は以心伝心でリリスに問いかける。
――リリス、外の状況はどうだ?
すぐに、軽快な声が頭の中に響いた。
≪賊は全員排除っ! 守護隊達も命に別状はありません!≫
――……そっか、良かった。
これで城内の混乱はほぼ収束したと言える。
だが――
まだ、俺の目の前には”片付いていない相手”がいる。
――リリス、俺も今から外に向かう。
そして、念のためもう一つ指示を出す。
――他の人がこっちに来ないように見張っといてくれ。
≪了解ですっ♪ ヒナタ様の邪魔はさせません♡≫
これ以上、余計な奴らに見られるわけにはいかない。
“終焉の魔人”は、まだ表に出すつもりはないんだからな。
俺は粉々になった窓の外を見下ろしながら、静かに地を蹴った――。
“スタッ” 音もなく着地し、軽く息を整える。どうやら、こいつはいくら痛めつけても口を割るつもりはなさそうだ。ここで情報を聞き出しておきたいところだったが……まぁいい。いずれ分かるだろう。
「怪物め……! 俺にここまで傷を負わせるとは!」 男が苦しげに息をしながら、俺を睨みつける。
だが――
「……お前が弱いだけだろ。」
俺は淡々とそう返した。事実、戦いは一方的だった。俺たちは激しく打ち合い、剣と拳が交錯する――。だが、それは”互角の戦い”にはほど遠い。
「ぐっ……!!」
男の剣を軽く受け流し、すかさず拳を叩き込む。まともに反応すらできていない。
……良い勝負? いや――これは、圧倒的な差だ。
変だな……。 俺は違和感を探る。もっと強いと思っていたんだけど……何かが引っかかる。
すると――
「仕方ない……!! こんなところで死ねるかよぉぉぉぉ!!!」
凄まじいオーラが爆発的に膨れ上がる。
なんだ……!? 禍々しさが増している。
(……これは、ただの闘気じゃないな。)
嫌な感覚が背筋を走る。まるで、この場の空気そのものが歪み始めたような――。
何かが、変わる。
な……なんだ、あれ!? 俺は目の前の光景に息を呑む。
男の皮膚がボロボロと剥がれ落ちていく。まるで人の皮を脱ぎ捨てるように――いや、元の姿に戻ったという表現のほうが正しいかもしれない。
「ふハハッハ!! 俺様の正体を観られた以上! 生きて返すわけにはいかねぇなぁ!!?」
不気味に響く声。さっきまでの人間のものとは明らかに違う、異質な響きを持った声だった。
(……なんだ? 魔族か?)
魔族が人間のフリをしていた? それなら……どうして?俺の中で疑問が膨らんでいく。何のために? 何を企んで?
これは、ただの襲撃なんかじゃない――。
もっと大きな“何か”が動いている。
今は考えてる場合じゃないな……!!
疑問は尽きないが、今は目の前の敵に集中するべきだ。
コイツ……さっきより遥かに強くなってる!
まとっているオーラの質が違う。重く、鋭く、肌を刺すような威圧感。さっきまでは“強い人間”だった。だが今は――完全な化け物だ。




