四十二・襲撃 参
談話室での会話を盗み聞きしながら、俺は静かに息を吐いた。
……ここにいても得られる情報は限られてるな。
このまま状況が進めば、いずれ生徒たちも動き出す。だが、俺は俺のやり方で動くべきだ。
「……そろそろ動こうか。」
誰にも気づかれないように、俺は談話室の扉へと向かう。周囲の視線が別のところに向いている隙をついて――スッ……静かに部屋を抜け出した。
(ふぅ……。)
廊下に出ると、城の中に漂う気配を探る。まだ、敵はいる。しかも、複数――数人は確実に潜んでいるな。
(……よし、試してみるか。)
俺は小さく呟きながら目を閉じた。
࿓《鑑定眼》࿓――発動。
視界が一瞬、特殊なフィルターをかけたように変化する。すると――
「へぇ……。」
俺は思わず口元を緩める。
《鑑定眼》にはこんな力もあったのか。
敵の位置が、まるで”光の点”のように明確に浮かび上がって見える。
これなら、無駄な動きをせずに、的確に相手の動きを追える。俺は静かに歩を進めた。
“ドサッ”
静かに地面に崩れ落ちる黒装束の侵入者。俺は背後から、一瞬の隙をついて仕留めていた。気づかれる前に。
「……ふぅ。」
短く息を吐きながら、周囲の気配を探る。今のところ、俺の動きはバレていない。……順調、だな。
これで4人目。
だが、まだ終わりじゃない――。
俺は静かに息を整え、再び影に身を潜める。
数分後――
「……これで最後か。」
目の前には、倒れた侵入者たち。気づかれることなく、俺は侵入者全員を仕留めた。呆気なく終わったが――実力だけで見るなら、こいつらは決して弱くなかった。
真正面からぶつかっていたら、手こずる相手だったかもしれない。
「……まぁ、真正面から戦わずに済んでよかったな。」
俺は少し安堵し、ふっと息を吐く。
その瞬間――
“殺気”!!!!?
「……っ!」
全身の毛が逆立つ。迷わず前方へと跳び退る。背後を向いたまま、直感だけで回避した。
直後――
「……凄いなぁ……今のを避けるとは!」
背後から聞こえる、余裕のある声。ただの賊とは違う――この声の持ち主は、間違いなく”格が違う”。
俺はゆっくりと後ろを見た。
(……まずいな。)
幸い、まだ顔は見られていない。俺は慎重に視線だけを向ける。そこに立っていたのは、体格のいい男。鍛え上げられた筋肉、戦闘に慣れた鋭い眼光。
こいつは――
(……今までの賊とは、一線を画す実力者。)
こいつが、親玉か……?
「まさか……勇者以外にここまでやれる奴がいるとは……!」
男の声には、明らかな驚きが混じっていた。だが、俺にとってそれは最悪の反応だった。……やばいな。
このまま顔を見られれば、俺の存在が余計な騒ぎを生むかもしれない。
俺は密かに**《認識阻害》**を発動。
視界の端で、瞳が赤く染まるのを感じる。……これで、俺の顔はぼやけて見えるはず。
相手の視点からすれば、俺の顔はモヤがかかったようになり、はっきりとは認識できない。
……さて、どうするか。敵の強さは未知数。
「……まぁ、やるしかないか。」
俺は一瞬で敵の背後に回り、迷わず強烈な一撃を叩き込む。
“どっ”
確かな手応え――のはずだった。だが、違和感が走る。
(……ん?)
「へぇ……驚いた。」
男の低い声が響く。
「けっこう早いな!」
俺の拳は――届いていた。だが、完全に受け止められていた。俺の打撃を、その男は片手で――いや、まるで”軽く受け流す”ように止めていた。
……マジかよ。
この速度、この威力――普通なら吹き飛ばされてもおかしくない。なのに、こいつは微動だにしない。
(……厄介な相手だな。)
俺はすぐに拳を引き、一度距離を取る。体勢を立て直しながら、冷静に男の動きを観察する。
男はゆっくりと、鋭い大剣を鞘から引き抜いた。
「じゃあ……今度はこっちの番だな!」
宣言と同時に、男が一気に踏み込む。
シュンッ――!
大剣とは思えない速さで、俺へと斬撃が振るわれる。
……おいおい、大きい武器のくせに結構はやいな。
だが――
避けられないほどではない。
ヒュッ――!
俺は紙一重で回避する。なるほど……コイツの力はこんなもんか。確かに強い。だが、このレベルなら――早めに終わらせるのも可能だ。
「……なら、少し“本気”でいこうか。」
俺は一瞬で地を蹴る。
「な……! 消えた……!?」
男の驚愕の声。
俺の姿は――やつの視界から完全に消えた。
次の瞬間、俺は敵の頭上に回り込んでいた。
「――遅い。」
俺は、一気に頭目掛けて蹴りを叩き込む。
“ドォォォン”
俺の蹴りを受けた男は、勢いよく壁へとめり込む。
「……っ!!」
確かな手応え。だが、まだ終わりじゃない。
「(痛え……! こいつ、さっきまで全力じゃなかったのか!?)」
男は苦しげに呻きながら、壁の中から頭を引き抜く。
「やるなぁ……小───────」
その瞬間――
「……喋る暇なんて、やらないよ。」
ズドンッ!!
俺は一切の躊躇なく、再び強烈な一撃を叩き込む。
男の体は反対方向へと吹っ飛ばされ、床を滑るように転がった。
「ぐっ……!!」
……さて、どこまで耐えられる?
俺はゆっくりと歩を進めながら、地面に転がる男を見下ろした。
「なぁ……お前たちは何者なんだ?」
襲撃のタイミング、戦い方のお粗末さ――不可解な点が多すぎる。
ただの賊にしては、動きに統一性がなかった。
それでいて、勇者達がいない間を狙ったかのようなこの計画性。間違いなく、背後には何かがいる。
それも、大きな何かが。
「……答えろ。」
俺はさらに言葉を続ける。
「お前たちの目的と――“背後にいる存在”を。」
そう、これは単なる賊の襲撃なんかじゃない。
恐らく、あの時王都へ向かう途中で出会った“デスパレード”とやらも、同じ黒幕が仕組んだものだろう。
俺の目は、紅く鋭く輝いていた。
その視線が、男の心に深い恐怖を刻む。




