四十・襲撃 壱
勇者たちが修行の旅に出たその日。
俺たち一般生徒は、数日をかけてアガリアの城へ帰還することになった。
もちろん、道中で魔物に襲われないように、数人の護衛が同行している。
だが、護衛がいたところで、長旅の疲れはどうしようもない。
そして――数日後。
「はぁ~、着いたぁ……。」
誰かが思わず声を漏らす。
その一言に、みんなが深く頷いた。
全員、完全にヘトヘト。
「マジで疲れた……もう歩きたくない……」
「しばらくは授業とか休みにしてくれないかな……」
「帰ってきたってことは、これからまた普通の生活が始まるってことだよな……?」
そんな愚痴があちこちから聞こえてくる。
俺も、荷物を肩に担ぎ直しながら、大きく伸びをした。
「……やっと帰ってきたか。」
長旅は疲れたけど、これでようやくいつもの日常が戻ってくる。
……はず、だった。
その夜――
みんな、さっさと自室に戻り、早めに寝ようとしていた。
長旅の疲れが抜けきらず、今日は誰もが休息を優先する。
それは、俺も同じだった。
「ふぁぁぁ……。」
俺はベッドに腰掛け、大きく欠伸をする。
やっぱり疲れてたんだな……少し仮眠を取ろう………。
……なんて思いながら、ゆっくりと目を閉じた、その時だった。
「……タ様……」
「…………ん?」
何か、聞こえたような……?
「……ナタ様……」
「……んん……?」
半分寝かけた頭で、ぼんやりと声を認識する。
……いや、これは……?
「ヒナタ様!!!」
「うわっ!?!?」
突然、頭の中でハッキリとした声が響く。
リリスの以心伝心だ。
「……なんだよ……。」
俺は枕に顔を埋めたまま、ダルそうに返事をする。
せっかく気持ちよく寝てたのに……!
これ、絶対ロクな用事じゃないだろ!?
「一体どうした?」
俺は恐る恐る尋ねる。
せっかく安眠しようとしてたのに、しょうもない用事だったらリリスに説教のひとつでもぶちかましてやるところだった。
だが――
「敷地内に賊が侵入してきました。」
「……なんだって!!?」
一気に眠気が吹き飛んだ。
おいおい冗談だろ!?
俺たち、ついさっき長旅から帰ってきたばかりだぞ!?
「……」
いや、待て。冷静になれ。
このタイミング――
まさか、勇者がいないのを狙って……!?
それなら説明がつく。
今、城にいるのは俺たち一般生徒と、一部の護衛のみ。
もしも賊が「勇者が不在」という情報を事前に知っていたのなら、ここを襲う絶好の機会ということになる。
でも――
「……どうやって、勇者がいないって知ったんだ?」
これは偶然の襲撃か? それとも、誰かが情報を漏らしたのか……?
状況が分からないまま、俺の心臓はじわじわと嫌な鼓動を打ち始めていた。
「そいつら……どうにかなりそう?」
俺は一縷の望みをかけてリリスに尋ねた。
俺がわざわざ動かなくても、リリスが華麗に処理してくれるんじゃないか――そんな淡い期待を抱いて。
だが――
「すみません! すでに城内に侵入しております!」
「……は?」
一瞬、思考が止まる。
「……なんだって?」
すでに、城内に!?
「……いやいや、それ、“どうにかなる”どころか”どうにもなってない”ってことじゃねぇか!!?」
なんでそんなヤバい状況を、こんなに楽しそうに報告できるんだ!?
「リリス、お前……なんか声が楽しそうだけど?」
「ふふっ、気のせいですよ♡」
「気のせいじゃねぇよ!!」
こいつ、絶対ワクワクしてる!!
ここでは下手に動けない……!!
俺は思わず頭を抱えた。
このまま騒ぎが広がれば、確実に俺も巻き込まれる。
どうする……!?
選択肢は二つ。
① 何もしないで様子を見る。
② 仕方なく動く。
……①で済むなら、それが一番いい。
でも、そんな簡単にいかない気がするのは……俺の勘がそう言ってるからなのか。
「……はぁ。」
とりあえず、最悪の事態だけは避けなきゃならない。
「さてと……どうするか……」
俺はベッドの上で腕を組み、静かに考え込む。
城内に侵入した謎の賊。
戦闘中の護衛たち。
屋根の上でワクワクしながら状況を眺めるリリス。
……最悪の組み合わせじゃねぇか。
「……俺にどうしろってんだよ……。」
思わず天井を見上げる。
このまま静観するべきか、それとも動くべきか――
どっちを選んでも、ろくな未来が待っていない気がする。
だが、時間は待ってくれない。
外では確実に何かが動き始めている。
選ぶのは、今だ。
──幕が上がる、この夜に。
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