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DEMONSMOB〜勇者に巻き込まれて転移した俺の物語〜  作者: はるりん
第1章 転移、そして目覚め
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三十八・不安

紫苑との密談の翌日。


俺たち一般生徒は、勇者一行に呼び出され、城の一室へと集められた。


「……なんだ?」


カイラナにコテンパンにやられた勇者たちが、ついに心が折れてしまったのか?


まぁ、無理もない。


俺の目の前で繰り広げられた戦いは、勇者たちの完敗だった。


正直、あれを経験した後で、**「俺たちは勇者だ!」**なんて自信を持ち続けられるほうがどうかしてる。


部屋の空気は重かった。


そんな中、勇者の一人――神宮寺 蓮が、ゆっくりと口を開く。


「皆……集まってくれてありがとう。」


蓮の声は落ち着いていたが、その表情にはどこか迷いがあった。


後ろには、他の勇者たちも並んでいる。


全員、いつもの堂々とした態度はなく、何かを決意したような顔をしていた。


「今日はみんなに伝えたいことがあるんだ。」


部屋が静まり返る。


なんだろう……?


この雰囲気……ただ事じゃないな。


「実は僕たち……数ヶ月、修行の旅に出ようと思うんだ。」


……なるほどね。


俺は、すぐにその決断の意味を理解した。


「確かに、今の勇者たちは弱い。」


もちろん、“一般人”の基準で見れば圧倒的に強い。


でも、カイラナ級の相手と戦うには全く足りていない。


どれだけ才能があっても、それを育む何かがなければ意味がない。


そして――少なくとも、今の王都にはそれがないのかもしれない。


「……」


俺は無言のまま、蓮たちの言葉の続きを待った。


すると――


「頑張ってね!」


「寂しいよ……未来ちゃん……!」


「頑張れ!」「応援してる!!」


次々と、一般生徒たちから温かい声援が飛び交う。


おお……!


モブたちがしっかり仕事をしている!!


これはなかなかの光景だ。勇者一行の物語を盛り上げるために、彼らはしっかりと感動的な空気を作っている。


うん、良いモブムーブだ!!


……なら、俺も久しぶりにモブらしく仕事をしてみるか。


俺は喉を軽く整え、絶妙なタイミングを見計らう。


そして――


「“待ってるよ!”」


おお、どうだ?


程よく感動的で、主張しすぎず、でも印象に残るこの一言!!


モブとして、なかなか良い仕事だったんじゃないか!?


「よし……完璧だ。」


俺は心の中でガッツポーズを決めながら、満足げに頷いた。


勇者たちの旅立ちの雰囲気も、これでバッチリ整っただろう。


それにしても彼らは、この修行の旅でどれほど強くなるのだろうか。


カイラナにボロボロにされた勇者たち。


あのままでは、魔王軍とまともに戦うことはできない。


でも――


今の彼らには、“負けた悔しさ”がある。


それを糧にして、どこまで成長できるのか……?


「……楽しみだな。」


俺はふっと笑みをこぼした。


今の俺が勇者たちよりも強いのは事実。


でも、彼らがこの旅を終えた時、俺を超える可能性だって十分ある。


どんな姿で戻ってくるのか――


俺は少し、ワクワクしていた。






数日が経ち、勇者たちが旅立つ前日。


俺は城の外に出て、静かな夜空を眺めていた。


空には満天の星。


遠くで微かに風が木々を揺らす音がする。


俺は以心伝心で、リリスとたわいもない会話をしていた。


(ねぇヒナタ様、今日は何を食べたんですか?)


(適当になんか食った。)


(適当って……ヒナタ様、もっと栄養バランス考えたほうがいいですよ?)


(うるさいな……。)


特に意味のないやりとり。


でも、この穏やかな時間は嫌いじゃない。


……そんな時だった。


「──────佐藤くん……?」


「……え?」


突然、背後から声をかけられる。


不意打ちだった。


まさか、この時間にここで誰かと出会うなんて思ってもいなかった。


俺はゆっくり振り向く。


そこにいたのは――


七瀬さんだった。


「……七瀬さん?」


夜風が吹き抜ける。


七瀬さんの髪が、月明かりの下でふわりと靡く。


いつもは勇者一行の一員として堂々とした雰囲気を持っている彼女。


でも、今は――どこか寂しげな表情をしていた。


「ど、どうしたの? 七瀬さん。」


俺は少し吃りながら尋ねる。


突然のことだったし、夜風に揺れる七瀬さんの髪が妙に幻想的で、ちょっとドキッとしたのは否定できない。


「……明日が出発の日で……寝付きが悪くって……。」


七瀬さんは静かに答えた。


「それで、外の空気でも吸おうかなって思って……。」


「……そっか。」


そうだよな。明日が旅立ちの日。


俺はどこか他人事のように思っていたけど、当事者の七瀬さんたちにとっては大きな節目になる。


不安や緊張で眠れないのも無理はない。


でも――


(ちょっと待て。)


俺はふと、冷静になって考える。


この展開、本来は主人公ポジションの蓮がやるやつじゃね?


「勇者の出発前夜、ヒロインと偶然の邂逅」


これ、典型的な“勇者の特権イベント”じゃないのか……!?


なのに、なぜかモブである俺が遭遇している。


いやいや、俺じゃなくて蓮と話すべきでは!?


「……」


七瀬さんは夜空を見上げ、静かに息を吐いた。


その横顔は、どこか儚げだった。



「不安なの……?」


沈黙が続くのに耐えきれず、俺は思わず口を開いた。


七瀬さんは夜空を見つめたまま、静かに微笑む。


でも、その笑顔はどこか弱々しくて――


「うん……少し……」


そう言った後、ふっと表情が曇る。


「……ううん、とっても怖い。」


「……」


その言葉に、俺は何も言えなかった。


無理もない。


七瀬さんは元々優しい人だ。


人を傷つけることを望まない。戦うことを望まない。


それなのに、こっちの世界に召喚されて、勇者の仲間になれと言われて、命を懸けて戦えと言われて――ついには死を目前にした。


怖くないはずがない。


「……」


でも――


俺には、励ませる言葉がない!!


こういう時、蓮ならカッコよく「大丈夫、僕がいる」みたいなことを言うんだろう。


でも俺は蓮じゃないし、そんなセリフを言える立場でもない。


「……さて、どうしよう……?」


夜風が静かに吹き抜ける。


俺はただ、七瀬さんの横顔を見つめながら、何を言えばいいのかを必死に考え始めていた。


「でもさ……みんな怖いんじゃないかな?」


俺は夜空を見上げながら、ぽつりと呟いた。


七瀬さんが静かにこちらを見る。


「勇者たちも……もちろん、一般生徒も……。」


「……」


「突然異世界に飛ばされて……命を懸けて戦え、なんてさ。」


「……確かに。」


「俺たち一般生徒だって、戦いには巻き込まれないようにしてるけど、この世界にいる限り、絶対に安全ってわけじゃない。」


「……うん。」


七瀬さんは、小さく頷いた。


俺の言葉に共感してくれたのかもしれない。


でも――


俺はふっと息をついて、少し笑った。


「……でもさ。」


七瀬さんが、不思議そうに俺を見つめる。


「正直、俺はそんなに怖くないんだよね。」


「え?」


「もちろん、死にたくはないよ? でも、“この世界で生きる”って決まったなら、それに合わせるしかないじゃん?」


七瀬さんは驚いたような顔をした。


「怖く……ないの?」


「うーん、なんていうか……俺は”怖がるほどの何か”を持ってないんだと思う。」


「……」


「勇者たちは、自分たちの”使命”のために戦ってる。七瀬さんもそうだよね?」


「……まあ。」


「でも、俺は”使命”とかないからさ。」


俺は夜空を見上げる。


「“何かを守らなきゃ”っていう強い気持ちがあれば、怖くなるのかもしれない。でも、俺にはそういうの、ないんだよ。」


七瀬さんが、じっと俺を見ている。


「だから、怖くない。“生きるためにやるべきことをやるだけ”って感じ?」


「……佐藤くん、すごいね。」


七瀬さんがぽつりと言った。


「いや、違うよ。」


俺は軽く笑って、首を振る。


「“すごい”んじゃなくて、“何も持ってないだけ”。」


「……」


七瀬さんは、何か言いたそうに俺を見た。


でも、結局何も言わずに、そっと夜空に視線を戻す。


「……そっか。」


それだけ呟いた彼女の声が、どこか寂しげに響いた。



七瀬さんは、夜空を見つめたまま、小さく息を吐いた。


俺も、それ以上は何も言わず、ただぼんやりと考える。


……まぁ、これでいいかな。


俺がさっき言ったこと――


「怖くない」っていうのは、半分は本音。

でも、もう半分は嘘だ。


本当は、俺だって怖い。


それに、さっき俺は「守るものがないから怖くない」なんて言ったけど――


それも、嘘だ。


紫苑だって、七瀬さんだって、リリスだって……俺には、気にかけてる奴らがいる。


それなのに、まるで”何も背負ってない”みたいな顔をしてたのは、ただの強がりでしかない。


「……」


七瀬さんは、まだ何かを考えているようだった。


俺の言葉をどう受け取ったのかは分からない。


でも、あまり深く考えすぎても仕方ないか。


「ま、とりあえず……七瀬さんは早く寝たほうがいいんじゃない?」


俺は軽く肩をすくめて言う。


「明日は長旅なんだしさ。」


「……そうだね。」


七瀬さんはふっと微笑んで、頷いた。


「……おやすみ、佐藤くん。」


「おう、おやすみ。」


七瀬さんが歩き去るのを見送りながら、俺はもう一度夜空を見上げた。


……まぁ、これでいい。


たぶん、これで。


でも――


俺は、「守るものがない」と言い切った自分に、わずかな違和感を覚えながら、静かに息を吐いた。














「……あっ。」


ふと、頭の中に嫌な記憶が蘇る。


紫苑とのデート……お願いするの忘れてた。


「…………」


「…………」


「…………まぁ、いっか。」


俺は全力で現実から目をそらした。


だってさ――


どっちにしろ、七瀬さんは明日から旅に出ちゃうし!!


今さら言ったところで、どうしようもないよな!?


「……うん、これは”帰ってきてから”でいいな!!」


うん、そうだ。


紫苑には適当に**「タイミングが合わなくて~」**とか言っておけばいい。


「よし、解決!」


俺は一人で頷き、納得した。


……ていうか、俺、こんなこと考えてる場合か?


「まぁ、なんとかなるか!てへぺろ!」


誰に言うでもなく、俺はふざけた声でそう呟いた。


夜風が、少し冷たく感じたのは――


たぶん気のせいだ。


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