三十六・決意
一方その頃——勇者一行
カイラナとの戦闘を終えた翌日。
勇者たちは王都に戻ってきたものの、誰一人として安堵する者はいなかった。
——なぜなら、彼らは”勝った”のではない。
“生かされた”に過ぎないのだから。
仮眠を取り、ようやく話し合いの場についたものの、誰も言葉を発しない。
重苦しい空気だけが、そこにあった。
「……僕たちは負けた……それも完敗だった。何一つ出来なかった。」
長い沈黙を破り、勇者・蓮が重い口を開く。
誰もがわかっていたこと。
それでも、その事実を言葉にするのは、あまりに苦しかった。
部屋には、再び沈黙が訪れる。
それを破ったのは、剣士・駿だった。
「あぁ……俺たちは奴の相手になっていなかった。」
その言葉は、単なる敗北宣言ではなかった。
「“戦った”ですらなかった——ただ”弄ばれた”んだ。」
駿の拳が震える。
蓮も、他の仲間も、深くうなずいた。
——確かに、そうだった。
カイラナとの戦闘は、“戦い”ではなかった。
彼らが必死に攻撃を仕掛けても、すべて無駄だった。
全力で剣を振るい、魔法を放っても——それはただの”じゃれ合い”に過ぎなかったのだ。
カイラナが”本気で殺す”と決めていたなら、今頃この場にいる者は誰一人として生きていなかった。
「クソ……!」
駿が悔しげに机を殴る。
その感情は、皆同じだった。
何の成果も得られず、ただ敗北を刻みつけられた。
魔王討伐どころか、幹部一人にすら敵わない。
このままでは、次に遭遇した時、確実に殺される。
「私たちは”勇者一行”だよ……でも、今のままじゃ、勇者でもなんでもない。ただの”魔王軍の足元に転がる小石”だよ……!」
朱莉が口を開く。
その声には、怒りも、悔しさも、そして何より”無力感”が滲んでいた。
誰も反論できなかった。
全員が、それを痛いほど理解していたからだ。
認めたくはなかった。
しかし、朱莉の言う通りだった。
——あの戦い。
自分たちが、カイラナにとって”脅威ですらなかった”という現実。
それが、何よりも悔しかった。
勇者・蓮は、震える手をゆっくりと握りしめる。
「……次はない。」
力のない声だった。
「もし次にカイラナと戦うことになったら……僕たちは、間違いなく殺される。」
それは事実だった。
昨日はたまたま生き延びたに過ぎない。
もしカイラナの気が変わっていたら?
もし彼女が本気で殺しにきていたら?
——今、この場にいる者は誰一人として生きていなかった。
「魔王軍幹部の”一人”にすら敵わない僕たちが……魔王を討てるはずがない。」
言葉を発しながら、蓮の胸に鋭い痛みが走る。
勇者とは何だ?
自分は何のために選ばれた?
このままでは——
「でも……だからこそ、僕はここで止まらない。」
蓮は拳を握りしめたまま、強く言った。
「このままじゃ、何も変わらない。このままじゃ、僕たちはただ”殺されるだけの存在”で終わる。」
視線を上げ、仲間たちを見渡す。
「だから……僕は強くなる。どんな手を使ってでも、どれだけ苦しくても。“勝てる力”を手に入れる。」
その言葉に——
勇者一行の全員が、静かに、しかし力強く頷いた。
「あぁ……! もっと強くなろう!」
駿が顔を上げ、決意を込めた声を発する。
「そうだね……誰にも負けないくらいに!」
朱莉も賛同するように、瞳に力を宿して言った。
「私も……もっと皆を護れるようになりたい……!」
未来が、搾り出すような声で、それでもはっきりと決意を口にする。
「えぇ……私もそう思います。」
和真が冷静にメガネを押し上げながら、静かに言った。
「あたりまェだァ……こんなとこで死ねっかよ。」
豹牙がふてぶてしい態度で言い放つ。だが、その目は誰よりも真剣だった。
彼らは誓った。
このままでは終わらない。次は絶対に負けない。
強くなる。死に物狂いで——。
蓮は仲間たちを見渡し、力強く言った。
「——よし。覚悟を決めよう。ここからは”修行”だ。」
「僕たちは、生き残るために。“勝つために”、強くなるんだ。」
勇者一行の決意が、一つになった瞬間だった。




