三十三・後始末 壱
カイラナとの戦闘を終えた俺は、その場に立ち尽くしながら、ふと考えた。
勇者たちと紫苑は、大丈夫だろうか……?
戦っている間、俺はずっとここにいた。向こうの様子は分からない。
紫苑の幻覚能力は強力だが、すでに限界だった。勇者たちもボロボロで、まともに動ける状態じゃなかったはず。
「……早く戻らないと。」
俺は黒焔刀を消し、フードを掴み、一気にローブを脱ぎ、バッグにしまう。
“終焉の魔人”の役割は、ここまでだ。
急いで戻ろう!長居は無用だ。あまり遅くなると、怪しまれる可能性もあるし!
俺は迷わず地面を蹴り、全速力で勇者たちの元へ駆けた。
森の闇を切り裂くように走る。風が頬をかすめ、木々の隙間から差し込む月明かりがちらつく。
数分後……
俺はついに、勇者たちの元へと戻ってきた。
そして――
「おいおい、マジかよ……」
思わず声が漏れる。
そこに広がっていたのは、俺の想像を超えた光景だった。
紫苑の能力は完全に途切れ、紫苑を含めた全員が気絶している。
全員だ。動ける奴は一人もいない。
「……なんてこった。」
俺は頭を抱えた。
これ、どうすればいいの?
俺がここにいることは絶対にバレちゃいけない。
つまり――俺が勇者たちを助けて運ぶ、なんて選択肢はありえない。
「誰かを探して助けを呼ぶか……?」
うーん……いや、それもリスクが高い。俺がここにいたことを悟られずに助けを呼ぶ方法なんてあるのか?
「……困ったな。」
俺は腕を組み、最善の策を必死に考え始めた。
この状況、どう切り抜ける……!?
「……そうだ!!」
閃いた――!!
俺は天才なのか!? いや、もしかして自分が怖い……!?
ニヤリとしながら、すぐに行動に移る。
作戦名:『七瀬さんだけこっそり回復すれば、あとは勝手にどうにかなる』大作戦!!
七瀬さんは回復魔法の使い手だ。
なら、まず七瀬さんだけを気づかれないように回復させてしまえば――
他のメンバーは七瀬さんが勝手に回復してくれるはず!!
「……完璧すぎる。」
これなら俺がここにいたことはバレない!!
まさに天才的な策――俺は密かにガッツポーズを決めながら、静かに七瀬さんへと歩み寄った。
よし……この作戦で決まりだ。
……って俺、回復魔法使えなくね?
……。
ヒュゥゥゥ……
風が吹く。
冷たいなぁ……。
さっきまでの完璧な作戦が、一瞬で崩れ去る。
……いやいや、諦めるのはまだ早い!!
こういう時こそ、イメージが大事だろ!? “回復させる”イメージ!!
俺は目を閉じ、手をかざす。
頼む……頼むぞ……!!
《低級回復》獲得シマシタ…
「き、きたぁ……!!!」
よし!!勝った!!俺の勝ちだ!!
――と思った、その瞬間だった。
“シュゥゥン”
「……っ!?」
体の奥底から、何かが吸い取られる感覚。
一瞬、意識がガクンッと揺らぎ、視界が歪む。
やばい……なんだこれ……!?
……まさか、魔力不足とか……!?
俺はグラつく足を必死に踏みとどめながら、冷や汗を流した。ヤバい……今にも気絶しそうだ……。
視界が揺れる。足元がふらつく。
だが――
「……ッ、まだだ……!!」
俺はなんとか踏ん張った。
ここで俺が気絶したら、一番意味が分からない展開になる。
想像してみろ――
勇者たちと紫苑が全員気絶している横で、俺も仲良くぶっ倒れてる状況。
「あー……吐きそう……。」
あり得ない。絶対にそんな事態にはならない。
俺は額の汗を拭い、荒い息を整える。
「……とにかく、今は七瀬さんを回復して、紫苑を連れて退散しよう。」
作戦は変わらない。
ここで俺がしくじらなければ、誰にもバレずに全てが終わる。
俺は静かに手をかざし、七瀬さんに《低級回復》を使用する。
淡い光が七瀬さんの体を包み、みるみるうちに傷が癒えていった。
「……おぉ……!」
これは……思ったよりちゃんと効いてる。
だが――完全には回復しない。深い傷は残ったままだ。
「……これがこの能力の限界値ってことか。」
まあ、低級だしな。
それでも、この程度ならすぐに目を覚ますだろう。
「よし……あとは、俺が消えるだけだな。」
俺は紫苑を背負い、重みを感じながらも歩き出す。
足元はふらつくが、気力で前に進む。
これでいい。
誰にも気づかれることなく、“終焉の魔人”は何事もなかったように消える。
そして俺は――
ただの”俺”として、この場を後にする。




