二十八・終焉に導く者 参
「いくぞォ……!! 終焉のォ……魔人!!!』
カイラナが叫び、地を蹴る。
一瞬で間合いを詰め、俺に向かって飛びかかってきた。
はやい!
……が、避けられないほどじゃない。
俺は静かに息を吐き、最小限の動きで身を翻す。
カイラナの拳が空を切り、そのまま俺の後ろへと着地した。
――華麗に交わしてみせた。
「チッ……!」
カイラナが舌打ちする。
よしよし、今のところ順調だ。
このキャラ設定的に、あからさまに苦戦するのは不味いもんなぁ……。
俺は”終焉の魔人”。ならば、圧倒的な余裕を見せつけるべきだ。
つまり――ここからが演技の本番。
俺はゆっくりとカイラナに向き直り、フードの奥で不敵に笑った。
「それで終わりか?」
低く、静かに、まるで“戦いですらない”とでも言うように。
カイラナの顔が、微かに歪んだ。
「ふっ! 今のをォ交わしたくらいでェ、調子に乗るなよォ……!!」
カイラナが笑いながら言う。
「コイツはあんま使いたくなかったんだけどよォ……! テメェなら少しは耐えてくれるだろォ……!!」
その瞬間、空気が震えた。
カイラナの身体から溢れ出すオーラが膨張し、まるで実体を持つかのように揺らめく。
“シュィィン”
鋭い音が響くと同時に、カイラナの手が変形した。
【獣臨爪】
黒く輝く鋭利な爪。まるで獣のそれを思わせる、禍々しい刃が生え揃っていた。
……なんだあれ。
俺は目を細め、カイラナの腕を見つめる。
……一部魔獣化、なのか?
カイラナの全身に漂う気配が、さっきとはまるで違う。速度、攻撃力、殺傷能力……全てが跳ね上がっているのがわかる。
参ったな……。
これは、結構しんどい戦いになりそうだ。
カイラナのオーラはさっきとは桁違い。
魔獣化の影響か、筋肉の張りも増し、速度も攻撃力も確実に跳ね上がっている。
俺のキャラ設定的に「余裕のある圧倒的な存在」って感じでいきたいけど……
実際、そこまで余裕があるかって言われたら微妙だぞ……!?
だが、ここで焦りを見せたら”終焉の魔人”の威厳が崩れる。
だったら――
俺はフードを軽く押さえながら、ゆっくりとカイラナを見据える。
そして、低く、落ち着いた声で言った。
「耐える……? おまえの爪が、俺に耐えられるかってことか……?」
カイラナの笑みが、一瞬だけピクリと引きつる。
よし、ブラフ成功。
実際のところ、俺はこの爪をまともに食らったらどうなるかなんて分からない。
でも、相手にそう思わせなければ勝ち目はない。
この戦い――心理戦も含めて、俺が支配しなきゃならない。
というか、あの爪に対抗するには、こっちも武器が必要だよな。
……ん、冷静に考えたら俺、今丸腰じゃね!?
剣を持ってくるのを忘れた……? いや、そんなバカな。
……なんてこった……
考えてる時間は無い。カイラナの殺気が膨れ上がり、今にも飛びかかってきそうだ。
チッ……こうなったら代用品で我慢だ!
幸い、俺には”特上能力”がある。
俺は深く息を吸い、手のひらに力を込める。
࿓《黒焔》࿓――発動。
全身の魔力を掌に集中し、漆黒の炎を剣の形に変形させるイメージ……
鋭く、強く、そして俺に馴染む刃を――
ゴォッ……!!
黒い炎が形を変え、俺の手元に一振りの刀が生まれた。
俺はしっかりと柄を握り、その質量を確かめる。
……よし、いい感じだ。
これはただの炎じゃない。黒焔を刃へと昇華させた一撃必殺の武器。
名付けて――࿓《黒焔刀》࿓!!
俺はその名を心の中で呟き、刀を軽く振る。
シュンッ……!
黒い炎の残光が軌跡を描く。
ふむ……悪くない
いや、むしろ――
かっこいいィ!!
俺は内心でガッツポーズを決めながら、フードの奥でニヤリと笑った。
とはいえ――
俺は剣術なんて知らない。
まったくの素人だ。
素振りすらしたことがない。剣を持ったのなんて、せいぜい観光地で模造刀を触ったくらいのもんだ。
でも……まあ、魔法とかスキルとか駆使すれば、それっぽい動きにはなるかな……。
そういうのを補うために”能力”ってのがあるわけだしな。
ただ……ちょっと心配。
黒焔刀を軽く握り直しながら、俺は静かにカイラナを見据える。
「……フッ。」
雰囲気だけは完璧に仕上げる。
“終焉の魔人”としての演技は、絶対に崩さない。
俺は刀をゆっくりと構え、低く呟いた。
「さぁ……はじめようか……終焉への戦いを……」
その瞬間、空気がピンと張り詰めた。
カイラナの口元が、愉悦に歪む。
「クク……いくぜェ……!!」
そして ──────────
戦いが、始まる。




