二十五・終焉之魔人“降臨”
「……嘘だろ」
誰かが呟いた。
だが、目の前の現実は容赦なく彼らを突きつける。魔王幹部・カイラナの戦力は、想像を絶するものだった。何度も鍛錬を積み、強敵を倒してきた彼らの力すらも、まるで取るに足らないもののように踏みにじられる。
「嘘だ……蓮が、死ぬなんて……」
駿の震えた声が、静寂の中に溶けていく。
蓮は動かない。どれだけ名前を呼んでも、返事はない。
他の仲間たちも涙を流すだけだった。いや、涙すら枯れ果て、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……もう終わりにするかァ……」
カイラナが、諦めたように呟く。
─── 数分後
勇者一行は、全員死んでいた。
誰一人として、逃げることはできなかった。助けを求める暇もなかった。
大地は赤く染まり、折れた剣が虚しく転がる。死体が横たわるその光景は、まさに地獄そのものだった。
そして、世界は静かに終焉へと向かっていく。
──物語はここで、幕を閉じた。
数分後、勇者たちを一蹴したカイラナは、森の木々を悠然と駆けていた。
「はぁ、つまらねェ……。こんなのがバフォメット様の脅威になるって? 笑わせるぜ」
(……ん? なんか妙だな)
周囲を見回すが、カイラナの部下たちの姿が見当たらない。確かに自分は単独で飛び出してきたが、それにしたって、この静けさは異常だった。
「……おいおい、まさかとは思うが……」
カイラナは眉をひそめ、森の奥へと駆け出した。いつもなら鬱陶しいほどに聞こえる部下たちの声が、今は一切しない。それが不気味だった。
(クソッ……まさか、誰かにやられたのか?)
風が吹き抜け、木々の葉を揺らす。まるで、これから起こる異変を告げるかのように——
数分後——。
カイラナは遂に森を抜け出した。広がるのは見慣れた荒野。だが、安堵する間もなく、背後から異質な気配が背筋を撫でた。
「……ッ? なんだァ……?!」
瞬間、全身の毛が逆立つ。殺気とは違う、だが、明らかに“普通”ではない何か。
(……気のせいかァ?)
そう思いたかった。だが、戦場を生き抜いてきたカイラナの直感が、それを許さない。振り向くべきか——否、それとも、このまま前へ進むべきか——。
僅かに湿った風が、背後から吹き抜けた。
「チッ……まあ、いいぜ。来るなら来いよォ……」
カイラナは大きく息を吸い込み、震える拳を握りしめた。ここで逃げるわけにはいかない。意を決して、ゆっくりと後ろを振り返る。
──そこにいたのは、一人の男。
太い枝の上に悠然と立ち、黒いローブをまとっている。ローブには紫色の精緻な刺繍が施され、ただ者ではないことを物語っていた。そして何よりも目を引いたのは、その紅く輝く瞳。まるで深淵をのぞき込むかのような、異質な光を宿していた。
(こいつァ……強い!)
カイラナの本能が警鐘を鳴らす。ただの魔法使いじゃない。この男は、間違いなく異質の存在。息をのむカイラナに向かって、男はゆっくりと口を開いた。
「──よくここまで来たな」
低く響く声が、森の静寂を切り裂く。カイラナはゴクリと唾を飲み込み、全身の力を込めて構えを取った。
「おまえェは一体……何者だァ……!!!」
カイラナは息を切らしながら叫んだ。目の前に立つのは、明らかにこの世界の理から外れた存在。その威圧感は、肌に直接突き刺さるようだった。
男は無言のまま、太い枝から地面へと静かに降り立つ。その動きはまるで重力を無視するかのように滑らかだった。
そして、ゆっくりと口を開く。
──”オレは終焉の魔人…
この世界を終焉に導く者“────────




