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二・個性持たざる者

 勇者転移から数分前 ⎯⎯⎯⎯⎯⎯



 俺の名前は《佐藤さとう陽向ひなた》。個性の欠片もない、平凡な名前……はぁ……佐藤って……よりにもよって、全国一の苗字を背負って生きてる黒髪の、どこにでもいる高校二年生だ!

 顔は……イケメンでは、ない。でも、かといってブスってわけでも……ブス……いや……決して俺は、ブスではない……!! ……と思う。


「おい!蓮、頼む!昨日の課題のプリント見せてくれぇ…!!」



 はぁ……本当に神様なんて、この世にいるんだろうか。いや、だってそうだろ!? なんなんだよ、あいつら! 個性の塊みたいなやつら!!

 神宮寺……? 獅子王……?? なんだよその名前、アニメの主人公かよ!!! ふざけんなよ、神様!!


 あと、ついでにもう一つ言わせてくれ。

 そもそも、なんなんだよ、あの髪色!! 金髪とか茶髪なら、まあ百歩譲って分かる。でも、赤髪とか青髪って……地毛で通してるっぽいけど、地球上にそんな色の髪で生まれてくる人間なんていねぇから!! 宇宙人か、異世界人か、どっちかだろ!!!


 ……あれ? なんか今、獅子王が神宮寺たちを、ものすごい目で睨んでる。



「おい、陽向(ひなた)!なんかめっちゃ睨まれてる…」


 こいつはモブの《小林(こばやし) 五郎(ごろう)》。眼鏡をかけてる言わゆる陰キャだ…。


「(怖ぇ睨みすぎだろ)あんまり見るな…」



 獅子王の機嫌の悪さに気付いた他の生徒達も陰口を言っていた。


「あァ…!?なんか用かカス共ォ……!!」


  怖すぎるんだよ全く…獅子王が怒鳴り、静まり返るクラス。


「どうかしたのかい?獅子王君。」


 神宮寺が獅子王を宥めた…流石、主人公みたいな奴だな。


 クラスメイト達が感謝の言葉を投げる。神宮寺は優しい性格で美男、頭脳明晰。学校一の人気者だ。


「大丈夫なら良かった!」


  神宮寺は微笑みながら言った。


 

  ””ビョォォオヒュイィィン““



  なんだ……!?地震?突如、教室が揺れ始めた。教室の真ん中に白い魔法陣……?が現れる。なんだよこれ、まだやりたい事沢山…あったのに……。


『ヤバい』


  俺は白い光に飲み込まれた。



  ────── そして、現在



「あれ……能力(スキル)無いかも……」


 ちょっと待ってくれ……なんでだよ……。

 みんなは【特殊能力スキル】があるのに、俺には、見ることすらできない……。



「嘘、だろ……」


 あまりの悲しさに、思わず声が漏れてしまった。

 なんてこった……。ひとつの【特殊能力(スキル)】も持たずに、異世界転移してしまうなんて……。

 いや……分かってはいたさ。俺なんて、所詮モブキャラ。

神宮寺たち(メインキャラ)】の隅っこにいるかどうかの存在なんだ。


 神宮寺が剣を触ろうとしている。《神帝剣》…厨二心を擽られるな…神宮寺が剣に触ると突如光り輝き出す。


  数秒経った後、光は収まる…神宮寺は剣を握っていた。


「やはり……!!勇者様の降臨だ……!!」


  老人は涙を流しながら喜んでいる。


「”僕が……勇者……!!“」



  その姿を見た俺は…奇しくも本物の”勇者“だと思ってしまった。


  それから二日が経った…老人はあの後、簡単に自己紹介をした。


『私はこの神殿の“大司教”……ネチェル=メフィストと申します……』


 ネチェルさんは転移仕立てで疲れているだろうと二日の休息をくれた。その間、神殿の中で各々の時間を過ごした。御飯は今まで見た事の無い食材だらけでどれも珍味だった。現実世界から異世界に転移したのはクラス全員の28人。……俺たちは強くなる為に訓練所に来ていた。


「なぁ、陽向〜今日は魔法の訓練らしいぜ魔法とか特殊能力(スキル)とかまるでゲームの世界だよな…!」


 こいつは親友の《四多(よだ) 紫苑(しおん)》。ほんの少しだけ痩せている。そう、分かるだろうか…


【普通の《佐藤 陽向》】

【眼鏡の《小林 五郎》】

【痩体の《四多 紫苑》】



  この仲良し三人組。そう……どこにでもいる”陰キャ三人衆“なのだ!!といっても紫苑はそこまで痩せては居ないんだけどね。


「ゲームの世界か。不安しか無いよ。だって特殊能力(スキル)ひとつも無いんだよ……それに比べていいよな。紫苑は……」


 俺は弱々しい声で紫苑に応える。紫苑はひとつだけ特殊能力を授かったらしい。どんな能力かは知らないが《絶霧幻想(フォグイルージョン)》と言うらしい……おや、ネチェルさんがこっちに来る。


「魔法の訓練を行う前に、皆様には魔力量と適正属性の検査を行ってもらいます……」


  魔法量と適正属性か……どうせ俺は低いレベルなんだろうな……


「ささ、皆様こちらに……」


 ネチェルさんはそう言うと、俺達を小さな石門らしき所へ案内する。真ん中には青い魔法陣が描かれている。


「これは、転送門…ある特定の場所のみ移動可能な門です。これを使って…魔法雑貨専門店へ飛びます。」


 神殿にも魔力や属性を測る道具はあるみたいだが…魔法雑貨専門店には国内一の綿密な道具があるらしい…国内一……という事は一体どのくらい凄い建物なのか……!?俺達の胸は期待で膨らんでいた。


 だがしかし……


 転送した先は古びた埃が舞ってる小さな規模の店だった。


「あ…の……?ネチェルさん?転送先間違えたみたいですよ?」


  一条がネチェルさんに質問した…


「いいえ、一条様。こちらで合っていますよ。」


 ですよね〜分かってはいたさ……けど期待し過ぎた反動がデカくてクラスのみんなが固まってしまっている。


「ネチェル殿。その方々が……?」


  店の店主らしき人がこちらに来る。


「ようこそ、いらっしゃいました。勇者様!そのお姿を拝見できて光栄でございます!」


 店主は神宮寺に挨拶をした。


「おい、あの子可愛くね……!?」


 ヒソヒソと一条の話し声が聞こえた。一条の目線の先には確かに美人な受付嬢が居た。


「それでは、これより勇者様御一行の魔力量と適正属性の検査を行います!!」


 受付嬢がそう言うと店の奥から 大きな透明の水晶を持ってくる。


「こちらの水晶の上に…手を置いてもらうだけで結構です。適正属性は水晶に現れた色によって判断します。五大属性の《火・水・雷・風・土》属性が基本になります。それら以外の属性は特殊属性と呼び《光・闇・神聖》などなど他にも沢山の属性があります。魔力量は水晶に現れるその属性の色の輝きの大きさで判断します。」


 大きさって……なんかそれ曖昧じゃない?まぁそれは置いといて、さあ誰が先に行くんだ?ここは選ばれし六人の誰かだろ……!!


「じゃあ!!おれ一番な!」


 一条!!!流石一条……一番手にふさわしい男だ!


「こうか……?」


 一条は水晶に手を乗せる。すると、水晶は赤と緑色に変化する。輝きの大きさは水晶の半分までと言ったところか。


「凄い……火属性と風属性の適正があるようです!魔力量10万6000!凄腕冒険者の二倍は有ります!!」


「次は私がやるわ!」


  二番手は二階堂さんか。二階堂さんが手をかざした瞬間、水晶は赤・黄・緑色に輝く。大きさは一条の½くらいか?


「火・雷・風の適正があります……!!魔力量6万です!」



「次は私が……」


  おぉ三番手は伊集院か。水晶は紫・白・茶色に輝く。大きさは一条よりも大きい!


「これは……光・闇・土属性です!恐らく他にも特殊属性の適正があるかもです!魔力量は15万です!」



「邪魔だァ……!!オレにやらせろォ。」


 四番手は獅子王か…なんだかんだ言ってやる気満々じゃないか…獅子王は手をかざしたが水晶に色は現れずに透明の波紋だけが広がっている。


「こ、これは……!獅子王様は恐らく基本属性では無く何らかの特殊属性の適正があります!魔力量は24万3000です!」



「次は私がやります……!」


 五番手はみんなのヒロイン七瀬さんか。水晶の色は青色1色に変わる。


「水属性の適正があります!魔力量は8万3250です!」



「次は……僕が……!!」



  来たか!六番目は我らが勇者…神宮寺!!神宮寺は手を水晶に乗せる。


  「えええぇ!!!!!」


 受付嬢は思わず叫んでいる……いや、無理もない。クラス一同、唖然としている……!!

 なんだ、あれは……!?

 水晶に赤、青、黄、緑、茶色の光が現れたかと思えば、それらが混ざり合い、虹色の光になって——しかも、とてつもない大きさで輝きを放っている……!



「勇者様……!全属性適正……!!魔力量…………64万8700!!」


 はぁぁぁぁ??64……万?チートじゃねぇぇか!!




  “凄い……” ”流石蓮……“ “格が違う”



 おや?ほかの友人(モブ)たちがちゃんと仕事をしている。 俺も自分の仕事をしなければ……!


『”なんて魔力だぁー“』


  こんな感じか……?

 数分して、みんなの落ち着きが戻った頃、検査は再開された。案の定、あの六人以外は適性の有無はあれど、魔力量は平均で数千、多くても一万程度だった。


 そして——いよいよ俺の番だ……!!

 頼む! 無理は言わない! せめて、ひとつだけでいい、適性を……!!

 神よ……どうか……!!



「続いての方が最後ですねー?こちらにどうぞ!」


  俺はバクバクと鳴る心臓を抑えて水晶に向かう。



「ふぅ……」


 触るぞ……頼むぞ神よ……!!


  俺は水晶を触る。


「“え…………?”」


  俺は間抜けな声をだした。


  何故なら…………


 水晶は何色に光ることも無く波動も無い。微動だにしなかったのだ。


「あ、あれ……!?て、適正はな、無しです……魔力量は……測定不能(ゼロ)です。」


 なんだろう……瞳から鼻水が出そうだ……。

 この世界に、神様なんていない……そうだ……そうだったんだ……。


「も、もしかしたら特殊属性の適正があるかもですので……諦めないでください……!」


  受付嬢の気遣いが今は心をグリグリと抉っていく。




 クラス28人の検査が終わって俺達は訓練所へと戻る。

 すると、そこにはガタイのいい額に傷がある男が居た。 役職は剣士?年齢的には四十代か?すごい威圧感を感じるな。



「初めまして!勇者諸君……!!今日から君達に戦術を教える教官のヴェルフ=ヴィルヘルムだ!!よろしく頼む……!」


 男はそう言い笑みを浮かべた。







 ─────── 勇者一行が魔法雑貨専門店から訓練所に戻って、ほんの数秒後——とある出来事が起きていた。


 受付嬢が、水晶を片付けようと手を伸ばしたその瞬間。

 水晶は突如、風を巻き起こしながら、眩い光を放ち始めた。そして——




  ””バァァァァンンン“”



  水晶は、凄まじい威力で爆発した。破片が四方八方に飛び散り、その衝撃で店は半壊状態に陥る。

 受付嬢は、目の前の光景に絶叫した。


『ウェェェェェェエエ!!!???』


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