表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DEMONSMOB〜勇者に巻き込まれて転移した俺の物語〜  作者: はるりん
第1章 転移、そして目覚め
100/151

百・正義と悪 ”裏“

ヒナタ視点で前回の話の平行線です。

 昨日の夜に感じたあの気配は、どうしても引っかかっていた。

 朝になってすぐ、リリスに調査を頼んだが──結果は何も掴めず。


「痕跡すら残っておりませんでした」と、いつもの調子で報告してきたが、珍しく声音にはわずかな困惑が滲んでいた。


 あれほどの“異質な気配”が、まるで最初から存在しなかったかのように掻き消えている。

 逆に気味が悪い。


 一方その頃、勇者たちは朝食を終えたあと、集まって今後の方針を話し合っていた。

 内容までは聞こえなかったが、雰囲気からしてそれなりに真剣な会議のようだった。


 そして今日は──

 ゼルフィスさんの姿が、朝から見えない。村の者に尋ねても「外出中」としか答えが返ってこない。


 ふ〜む。何やら、村の奥のほうが騒がしい気がする。


 遠くからかすかに聞こえるざわめき。

 ざっ…ざっ…と、足音のような気配も混じっている。


 いや、これは……!!


 昨日の気配と、まったく同じ感じの――

 あの、血の匂いと、禍々しい空気が混じったような、胸の奥をざわつかせる感覚。


 間違いない。これは――


 その瞬間。


 ズガァァンッ!!


 轟音とともに、村の奥から強烈な衝撃波が吹き荒れた。


「勇者様方……!どうか、力を貸してください!」


 衝撃波の余韻が残る中、息を切らしながら、セレナが駆け込んできた。衣服は土で汚れ、顔には焦りと緊張が滲んでいる。


 必死に、勇者たちのもとへと声を上げるその姿に、場の空気が一瞬で引き締まった。


 なんだ……?

 何が起きてる!?

 この雰囲気、ただ事じゃない。


「何があったんですか? セレナさん……!」


 神宮寺が一歩前に出て、真剣な眼差しで問いかける。


 セレナは肩で息をしながら、一瞬だけ言葉を飲み込んだあと、震える声で告げた。


「……“彼女”が現れました……!」


 彼女……?

 昨日の気配の人か……?


「……わかりました。案内してください。」

 神宮寺が静かに頷く。


 その言葉を合図に、勇者たちが次々と立ち上がり、すぐさま行動を開始する。

 その動きに、無駄は一切なかった。


 俺も、気になる。面倒事は嫌いだけど……この状況、さすがにスルーできない。


 ……と思っていた矢先。


 セレナが、誰にも気づかれないように、俺の耳元で小声で囁いた。


「アンタは邪魔だからここに居て!」


 おいおいおい!!

 こんな状況でもそんな扱いなんですかこの人ーーー!?!?


「えぇ……はい。」


 自然と声がしぼむ。これはもう完全に、心が折れるやつだ。……仕方ない。気づかれないように、影から観てるか。



 現場に着いた勇者たちの後を、少し距離を取って俺も追う。


 そして、森の奥――

 ざわめきの中心にたどり着いた俺は、一本の大きな木の陰に身を潜めた。


 目の前には、エルフの精鋭と思われる数人が剣を構え、警戒を解かずに立っている。


 その中央に、地面に座り込むようにしている一人の女性。


 長い黒髪。

 身体中に擦り傷や切り傷。

 それでも、その瞳には消えない強さが宿っていた。


 あれが……例の“彼女”か。

 昨夜、俺が《千里眼》で見た、追われていたエルフの女性。


「……彼女はかつて、この地のエルフを惨殺し……そして裏切った者……」


 セレナが勇者たちの前に立ち、低く、しかしはっきりとした声で続ける。


「悪魔と呼ばれた女……――ミレオナです。」


 その名前が告げられた瞬間、空気がまた一段と重くなる。


 勇者たちの視線が、一斉にその黒髪の女――ミレオナに注がれる。


 ミレオナ……裏切り者か。


 けど――

 何故、裏切った奴が、わざわざ自分から“敵地”に戻ってくる?

 しかもあんな姿で、追われるように。


 何か……おかしい。この状況、どうにも引っかかる。


 突如、ミレオナが立ち上がった。


 その瞬間、エルフの精鋭たちが一斉に動き出す。

 抜かれる刃、放たれる魔法。

 だが彼女は――まるでそれを予期していたかのように、傷だらけの身体で躱し、反撃する。


「っ……!」


 地を蹴る音、魔力のうねり、刃と刃の交差。


 ボロボロのはずの体で、あの動き。

 常人なら立つことすら困難なはずなのに、彼女は圧倒的な精度と判断で応戦している。


 すごい……。

 あんなにボロボロなのに、ここまで動けるなんて。


 俺は思わず、木の影から目を離せなくなっていた。


「そこまでだ……!」


 神宮寺の声が響いた。


 鋭く、凛としたその一声に、エルフたちもミレオナも一瞬動きを止める。


 流石は勇者。

 その立ち姿ひとつで、場の空気を掌握してみせるあたり、本当に主人公らしい。


 そして次の瞬間――

 ミレオナと勇者たちの戦いが始まった。


 俺は木の影から、息を潜めてそれを見守る。


 剣が閃き、魔力がうねり、攻防が目まぐるしく展開されていく。


 どうやら、武は勇者たちにあるようだ。

 神宮寺の剣が的確に前を切り開き、一条が背後をかき乱し、伊集院と七瀬さんの魔法が支援を重ねていく。


 獅子王の一撃は派手で重く、二階堂さんの弓は鋭く、隙を逃さない。


 ……まあ、そりゃそうか。

 6対1だし……。


 ちょっと、いや、かなり同情するよミレオナ。


 それにしても……。


 彼女――ミレオナから漂ってくるこの“怨み”。

 戦いの中で、まるで噴き出すように溢れてくる負の感情。


 ただの裏切り者から発されるものじゃない。

 もっと深くて、重くて、どす黒い……積み重ねた何かが、そのまま怒りに変わっているような。


 あれは――裏切った者の気配じゃない。

 むしろ、“裏切られた”側のそれに近い。


 一体、彼女に何があった?

 真実は、まだ“表“に出ていない気がする。


 さっきから、リリスとも以心伝心でまったく連絡が取れないし、なんか……嫌な予感がするんだよな。

 あぁ……面倒なことになりそうな気配しかしない!


 ミレオナは、完全に勇者たちに押されていた。


 攻撃の鋭さも鈍り、動きに迷いが出ている。

 血で濡れた足取りはもはや限界寸前だ。


 それでも――


「……お前たち、ここで殺さなかったこと……悔いるといい……」


 絞り出すようにそう言い残し、森の奥へと姿を消していった。


 逃亡。


 勇者たちはその場で構えを解いた。


 どうやら、追う気はないらしい。

 あの状態なら、もう戦闘継続は不可能だと判断したのだろう。


 それにしても、あの傷――

 逃げるどころか、生きてるのも不思議なくらいだ。


 さて、どうしたものか。


 俺は木の陰でひとつ息を吐き、決めた。


 追ってみるか。


 俺は静かに木の影から姿を移し、周囲の気配を確認する。

 勇者たちの意識がミレオナの逃走を見送っているうちに――《千里眼》を展開。


 視界が森の奥へと伸びていく。


 いた。

 ミレオナは血を垂らしながら、ふらつく足取りで森の深部へ進んでいる。


 よし、誰にも気づかれないように、こっそり後を追うとしよう。


 気配を殺し、足音も立てず、俺は闇に紛れるように動き出した。


 凄いな。

 あの傷で、ここまで逃げるとは――尋常じゃない執念だ。


 《千里眼》で追いながら、俺は距離を詰めていく。


 そして少し離れた場所。

 木々と岩の入り組む、視界の悪い影の中――ミレオナが座り込んでいた。


「はァ……はァ……」


 肩を上下させ、呼吸は荒く、今にも倒れそうなほどに力尽きかけている。


 それでもまだ、周囲を警戒する目だけは死んでいない。

 本能だけで、ここまで逃げ延びてきたのか。


「……どうして…勇者が……まさか、勇者も……」

「まだ……こんな……ところで……」


 かすれるような声で、ミレオナが何かを呟いた。


 その瞳に映るのは、俺じゃない。

 彼女の中で、別の何かが動いている。

 何かを、知っている――そんな目だった。


 次の瞬間、彼女の身体がぐらりと揺れ、力なく地面へと崩れ落ちた。


 ミレオナは、意識を手放した。


 流石に限界だったようだ。

 ここまで動けていたのがむしろ異常だったんだろう。


 うーん、どうしよう!

 このまま放っといたら、多分ほんとに死んじゃうぞこれ!?

 いやいやいや、これって介抱案件じゃないのか!? でも敵だし!?


 ……とはいえ。


 根拠は無い。

 けど、なんだろうな……この人からは、あまり“悪”の感じがしないんだよな。


 少なくとも、あの戦いの最中ずっと漂っていたのは、攻撃的な殺意じゃなくて……もっと、別の何か。


 苦しみ? 絶望? 怒り?

 いや、それだけでもない、もっと混じった、複雑な何か。


 ……くそ、判断に迷う。

 けど――


 見捨てたら、絶対後味悪いやつだこれ。


「ごめんよ。俺、《低級回復》しか使えないんだ……。」


 そう呟きながら、俺は手をかざし、《低級回復》スキルを発動する。


 微かな光がミレオナの身体を包み、傷口がゆっくりと塞がっていく。

 完全ではないが、血の流れは止まり、裂けた皮膚が少しずつ閉じていくのが見える。


 ……が、


 駄目だ!!

 あまりにも傷が深すぎる!


 このままじゃ、スキルじゃ追いつかない。

 そういえば……確か、翡翠那聖(エリナーゼ)の備蓄庫でポーションを見た気がする。


 くっ、しょうがない!

 俺は《瞬間転移ブリンクゲート》を発動し、誰にも気づかれないように一気に村へ戻った。


 昼下がりの静かな村。

 人目を避けて素早くポーションを回収し、すぐに現場へ戻ってくる。


「よし……これで……!」


 ミレオナの口元に慎重にポーションを流し込む。


 ……数秒後、かすかに彼女の表情が緩み、呼吸が少しだけ穏やかになった。


 なんとか、繋いだ……か。


 俺はこの場を離れるべきか、少しだけ悩んだ。


 けれど、今このタイミングで何者かに奇襲されでもしたら、ミレオナはひとたまりもない。

 あの状態じゃ、防ぐ術も逃げる力も残ってないはずだ。


 それに――聞きたいこともある。

 “なぜ戻ってきたのか”、そして“なぜあの怨みを抱えていたのか”。


 ……だから、俺はその場に残った。


 木々のざわめきと鳥の声だけが響く、静かな森の中。

 陽は高く、雲がゆっくりと流れていく。


 ――どれくらい経っただろうか。

 おそらく、一時間ほどだ。


「……っ……ん……」


 かすかに身を震わせる気配。

 ミレオナが、ゆっくりとまぶたを開いた。


「誰だッ!」


 ミレオナが跳ね起きるようにして、鋭く声を上げた。

 目にはまだ焦点が定まらず、身体も完全には動かせていない。

 だがその気迫は、今にも襲いかかってきそうな勢いだ。


「怪しい者じゃないですよ。えっと……」


 どうしよう、何て言えばいい!?

 適当に誤魔化すか? いや、この状況で下手に嘘をついても逆効果かもしれない。


 ……よし、こうなったら。


「僕は勇者の友達です。」


 ミレオナの目が一気に鋭さを増す。


「勇者の……!?(敵か……!)」


 ヤバい、今にも攻撃飛んできそうな気配!!


「ち、違いますっ! 僕は勇者ではなくて、ただの、その友達の……異世界人です!」


 必死に手を振りながら、なんとか命の危機を回避しようとする俺。


 ミレオナは、ゆっくりと自分の身体に視線を落とす。


 服は破れ、血に染まっていたが――

 皮膚の裂傷は塞がり、呼吸も多少落ち着いている。


「……(傷が治っている……?)」


 かすかに眉をひそめ、傷口をそっと指先でなぞる。


「これは……?」


 その問いかけに、俺は少しだけ距離を保ちながら答えた。


「不出来ながらも、少し回復させていただきました。」


 なるべく穏やかに、敵意のないことをアピールしつつ、言葉を選ぶ。

 実際、大した回復じゃなかったけど……今の彼女には、命綱になったはずだ。


「どうして……私を……?」


 ミレオナが、小さく震える声で問いかけてくる。

 その瞳には、困惑と、戸惑いと、ほんの少しの希望が混ざっていた。


 俺は一呼吸おいて、静かに言葉を返す。


「さっきの戦いを見ていたんです。僕には……貴女が、悪い人には思えなくて……」


 そう口にした瞬間だった。


 ミレオナの瞳に、ふわりと光るものが浮かぶ。


 それは、これまでどれだけ痛みに耐えても決して見せなかったもの――


 涙。


 けれど彼女は、それを流さなかった。

 唇を噛み、まぶたを伏せ、必死に――その涙をこらえていた。

 声も出さず、ただ静かに、ただ堪えるように。


 やっぱり……なにか裏があるな。


 この人はただの“裏切り者”なんかじゃない。

 少なくとも、そんな単純な話じゃないことだけは、はっきりしてる。


「少しお話してもいいですか?」


 俺は静かに、できるだけ優しく問いかけた。

 敵意がないことを示すように、手も視線も落として。


 ミレオナは、わずかに視線を揺らしながら、黙ってこちらを見つめていた。


「どうして……この里と敵対することになったんですか?」


 俺がそう尋ねると、ミレオナはそっと目を伏せた。


「…………」


 言葉は返ってこない。

 けれど、その沈黙がすべてを拒絶しているわけではないことは、なんとなく伝わってきた。

 しばらくの沈黙のあと――


「“裏切り”だ。」


 ぽつりと、低く呟かれたその言葉には、怒りでも悲しみでもない、深い断絶の色が滲んでいた。


 裏切り……。


 この感じ――間違いない。

 裏切ったんじゃない。

 この人は、裏切られた側だ。


「一体……あの翡翠那聖で、何があったんですか?」


 核心に踏み込む。

 あえて、もう一歩。

 俺の声は自然と低く、真剣なものになっていた。


 俺の問いに、ミレオナは一瞬だけ目を細め、俺をじっと見つめた。


 そして――


「お前は……知らない方がいい。」


 その声は静かだったが、そこに込められた意思は強かった。


(それを知れば、この人も――狙われかねない。)


 言葉には出さずとも、そう続いているのがわかる。

 守ろうとしている。自分を? それとも、俺を?

 どちらにしても、この問題は想像以上に根が深いらしい。


「知りたいんです。あの翡翠那聖の……闇の正体を。」


 俺の声は自然と真剣なものになっていた。

 ごまかす気も、遠回しに聞くつもりもなかった。

 この目で見たもの、この心で感じた違和感――その答えが、彼女の中にあると確信していたから。


 ミレオナの目が見開かれる。


「見ず知らずの君を巻き込むわけにはいかない!」


 迷いのない拒絶。

 だけどその言葉の奥には、明らかに“守ろうとする”意志があった。


 この人は優しいんだな。

 深く傷ついて、それでもなお誰かを巻き込むことを恐れてる。

 本当にただの裏切り者だったら、そんなこと言わない。


「大丈夫です! 色々と巻き込まれることには慣れてますし……」


 俺は軽く肩をすくめて、苦笑する。


 そもそも、この異世界に来たのだって、勇者召喚に**“巻き込まれた”**だけの話だ。

 完全にとばっちりだっての。


「それに僕、こう見えて結構頼りになるんですよ!」


 微笑みながらそう言うと、ミレオナは驚いたように目を見開いたまま、しばらく黙って俺を見ていた。

 その表情には、少しだけ――緊張がほどけたような色が浮かんでいた。


「君は……不思議な人間だな。」


 ミレオナがぽつりと呟いた。


 敵でも味方でもない、けれど敵意も恐れも見せず、ただ真っ直ぐに言葉を向けてくる。

 そんな俺の姿が、彼女にはどう映っているのかは分からない。

 でも――


 その声は、ほんのわずかに柔らかさを帯びていた。


 ようやく、ミレオナの口が開かれた。


「私が奴らと戦う理由……それは、奪われた“もの”を取り返す為。」


 その声には迷いがなかった。

 静かで、けれど確かな決意が宿っている。


 ある物、か……。

 だが、それだけか?


 その“もの”とやらを取り返すためだけに、命をかける?

 自分を裏切り者と呼ばせ、血を流しながら、それでも戻ってきた理由が――それだけ?


 ……いや、違う。

 きっと、それ以上の何かがある。

 そもそも、“裏切り”の内容すら、まだ俺は知らない。


「奪われたもの……」

 俺は一歩だけ身を乗り出すようにして、静かに問いかける。


「その話、もっと詳しく教えてください。」


 ミレオナは視線を伏せたまま、しばし沈黙する。

 だがその沈黙は拒絶ではなく、葛藤の色を帯びていた。


 やがて――


 ゆっくりと、まっすぐこちらを見て言った。


「……分かった。」


 その一言に、確かな決意が込められていた。


 語られる“真実”。

 翡翠那聖の闇と、ミレオナの過去。

 そして、奪われた“何か”の正体。


 ──それは、まだ誰も知らない物語の核心だった。


次回はミレオナの過去編です!

少し程度だと.....。

ヒナタ視点は少しお休みですので混乱なさらずに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ