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一・異世界転移

「ここで……必ずお前を倒す!!」


 金髪の少年が剣を構え、鋭い眼差しで相手を睨みつける。

 その名は――【勇者《神宮寺じんぐうじれん》】。


 無惨にも倒れ伏す仲間たち。勇者パーティはすでに満身創痍だった。


 そして蓮の前に立ちはだかるのは、漆黒のローブに紫の刺繍をあしらった謎の男。

 その顔は歪み、霞がかったように判別できない。認識阻害の魔術か。


 男は静かに口を開き――

 次の瞬間、不敵な笑みを浮かべた。





  ― “半年前” ―


 教室のざわめきの中、大げさな声が響く。


 息を切らせながら駆け寄ってきたのは、“一条 駿(いちじょう しゅん)”。

 茶色がかった髪を無造作にかき上げ、困り果てた表情をしている。サッカー部に所属し、明るく快活な性格で、クラスのムードメーカー的存在だ。


「おい、れん、頼む……! 昨日の課題のプリント、見せてくれぇ……!!」


 机に突っ伏すようにして懇願する駿を、”神宮寺 蓮(じんぐうじ れん)“は呆れたように見下ろした。


「……いいけど、次からは自力でやらないとダメだよ」


 ため息混じりに言いながら、プリントを差し出す。

 駿は満面の笑みを浮かべ、すかさず手を伸ばした。


 しかし、その瞬間――。


「コラァ!! 駿!! また神宮寺くんに課題を見せてもらってるの!? あんたって奴は……!!」


 鋭い声が響くと同時に、駿の頭に軽やかなチョップが振り下ろされた。


「痛ってぇぇ!! 何すんだよ、暴力女……!」


 頭を押さえながら抗議する駿を、じろりと睨みつける少女がいた。


 “二階堂 朱莉(にかいどう あかり)”。

 鮮やかな赤髪を肩で揺らし、腕を組んで仁王立ちする。可憐な容姿とは裏腹に、気の強い性格で、クラスのリーダー的存在だ。


「誰が……暴力女ですってぇ……!?」


 朱莉のこめかみに青筋が浮かぶ。駿と朱莉の間でバチバチと火花が散る。

 その様子を見て、蓮は苦笑した。


 そこへ、落ち着いた声が静かに響く。


「くだらない言い争いはやめろ。蓮も困っている」


 教室の空気が、わずかに引き締まる。


 発言の主は、“伊集院 和真(いしゅういん かずま)”。

 すらりとした長身に、端正な顔立ち。薄緑色の髪を整え、知的な光を宿した瞳が、冷静に二人を見据えている。

 クラス委員長である彼は、常に秩序を重んじ、今日もまた騒がしいクラスメイトたちを諫めているのだった。


「じゃれ合い……!? どこがじゃれ合いよ!!」


 朱莉が納得いかない様子で食ってかかる。


 その時――。


「まあまあ……落ち着いて、朱莉ちゃん」


 柔らかく澄んだ声が、優しく宥めるように響く。


「ほら、皆の迷惑になっちゃうから……」


 穏やかに微笑むのは、“七瀬 未来(ななせ みく)”。

 蒼くしなやかな髪を揺らし、柔和な表情を浮かべる。誰にでも分け隔てなく接し、優しく包み込むような存在感を持つ彼女は、学園の“マドンナ”として皆に愛されていた。


 そして――。


 その光景を、遠くから鋭い視線で睨みつける影があった。


 銀髪に紅い瞳。


 “獅子王 豹牙(ししおう ひょうが)“。

 その名を知らぬ者は学園にはいない。

 鋭い眼光を光らせ、教室の隅から無言で周囲を見据える。無頼の不良として恐れられながらも、どこか孤高の雰囲気を纏う少年――。


 “うわ、怖“

 ”めっちゃ睨まれてる“

 ”あんまり見るな…“


 豹牙の機嫌の悪さに気付いた他の生徒達が陰口を言っていた。

「あァ…!?なんか用かカス共ォ……!!」

  豹牙が怒鳴りつけた瞬間、クラスは静寂に包まれた。


だが、その空気を破ったのは――


「どうかしたのかい?獅子王君。」


 金髪の少年、**《神宮寺じんぐうじれん》**が、穏やかに声をかける。

 頭脳明晰、運動神経抜群。誰にでも優しく接し、様々な分野で並外れた才能を持つ。

 本人は気づいていないが、学校一の人気者だった。


「あァ…?何でもねェよォ…」

 

豹牙は不機嫌そうに顔を背け、低く呟いた。


安堵したクラスメイトたちが、次々と感謝の言葉を口にする。


 「大丈夫なら良かった!」


 蓮は優しく微笑みながら答えた。

 しかし、その穏やかな空気は突如として引き裂かれる。


 “ビョォォオヒュイィィン――!!”


 突如、教室の中心に眩い白光の魔法陣が出現した。

 光はみるみるうちに広がり、まるで教室そのものを飲み込もうとするかのように渦を巻く。


 「なんだ……これは!?!」


 蓮は息を呑み、思わず叫んだ。


 「おい……なんかこれ、やばくねぇか……!?」


 駿の声が震える。普段は陽気な彼も、この異常事態には動揺を隠せない。


 「朱莉ちゃん……!! 手を……!!」


 未来が必死に手を伸ばし、朱莉の手を握る。


 「なにこれ……!?!?」


 朱莉も混乱しながらも、未来の手を強く握り返した。


 「なんだこれ!?」

 「キャー!!」

 「やばい……!!」

 「どうなるんだ!?」


 クラスメイトたちの悲鳴と恐怖が教室に満ちていく。だが、それすらもかき消すように、白い光がますます強く輝き、ついに視界を埋め尽くした――。


 ***


 「んん……!? ここは……!?」


 蓮がゆっくりと目を開く。

 だが、そこに広がっていたのは、見慣れた教室ではなかった。


 重厚な石造りの壁。

 鮮やかな装飾が施された天井。

 そして、整然と並ぶ異国風の調度品――。


 異様な光景に息を呑む蓮の前で、ひとりの老人が静かに微笑んでいた。


 「……やはり、伝説は本当だったのか」


 老人は高貴な装束を纏い、手には杖を握っている。

 まるで中世の魔術師のような風貌。


 「ようこそ……いらっしゃいました、勇者御一行様!!」


 荘厳な声が響いた瞬間、蓮の背筋に冷たい戦慄が走った。


 「ここは、タナトス王国……あなた方は、神がこの地に召喚した勇者です」


 老人の厳かな声が、静まり返った広間に響く。


 「召喚した……!? じゃあ、ここは……“異世界”なのか!?」


 駿が驚愕の声を上げる。しかし、すぐに状況を理解し、納得した。今、自分たちが立っているこの場所は、見慣れた教室とはまるで異なる。

 石造りの床、荘厳な柱、まるで神殿のような広大な空間――。どう考えても、ここは現実世界ではない。


「どうして……神は僕たちを召喚したんですか?」


 蓮が一歩前に出て、老人に問いかける。


 「……うむ」


 老人はゆっくりと頷き、杖を握る手に力を込めた。


 「この国……いや、この世界には、滅びの影が忍び寄っている」


 その声は重く、沈痛な響きを帯びていた。


 「世界を救うためには、強き勇者の力が必要だったのです」


 沈黙が広間を満たす。


 そして、老人は続けた。


 「……そして、この地には、太古より伝わる”伝説”がある――


 “”世界に災いが訪れる時…

  全てを祝福へと導く英雄を神が召喚する“”


 あなた方にはこれから鍛えてもらい、この世界の救世主になって欲しい……!!!」


「災い……救世主…でも、僕達は特殊な力なんて無いただの高校生ですよ……?」

 蓮は不思議そうに老人に尋ねる。


「いいえ…あなた方には”神の加護“によって特別な能力(スキル)を授かっています。自分だけに分かるはずです。どんな能力(スキル)を持っているか…!!」


 蓮は深呼吸をして集中する。すると、自分の持っている能力(スキル)の一覧が目の前に浮かぶ。



  【神宮寺 蓮】


 ༄《果敢英傑》 《全精霊護》 《至高勇者》༄


 ༄ 《悪斬神力》 ༄


「これは……!?!」


蓮は目を見開き、驚愕する。

 そんな彼の様子を見て、クラスメイトたちも次々と同じように試し始めた。




「こんな感じか……?」


  【一条 駿】


 ༄ 《迅速駿馬》 《威風魔道》 《常勝魔術》 ༄






「私も……!」


  【二階堂 朱莉】


 ༄ 《深紅弓矢》 《聖憐剣術》 《滅弓流星》 ༄






「ふむ……」


  【伊集院 和真】


 ༄ 《絶対憎悪》 《奮迅閻魔》 《無属結界》 ༄






「こう……かな…?」


  【七瀬 未来】


 ༄ 《神楽守護》 《潤傑聖者》《晴天加護》 ༄






「くだらねェ……」


  【獅子王 豹牙】


 ༄ 《威風永劫》 《騎虎豪放》 《神獣修羅》 ༄




それぞれの目の前に現れた、未知の力を示す文字の数々。

 驚き、興奮、不安――各々の表情には、さまざまな感情が入り混じっていた。


  他のクラスメイトたちも次々と試してみた。だが、特殊能力がひとつしかない者、まるで使い道がわからない劣等能力を持つ者、そして、そもそも特殊能力がまったくない者――。


 スキル一覧を見つめ、困惑する生徒たちの表情が広がる。一方で、蓮たち六人の持つ能力は圧倒的だった。まるで、生まれながらにして選ばれし者とそうでない者が決まっていたかのように――。



 “どうやるんだ!?”

 ”あれ…能力無いかも…“

 “最叡刺繍”え、弱そ!“

 “来い、最強能力!!”


 クラスの中に落ち込む人は沢山いた。


「確認できましたか…?やはり、”(あなた)”様が勇者ですね。」


「え……?僕なんかが……??」


「はい…間違いありません。貴方には精霊の加護が強く感じ、とてつもない魔力をお持ちだ…こちらにお越しください。」

 老人はそう言うと蓮達を違う部屋に移動させる。


「どうぞ…こちらに……この剣をお取り下さい…」


 そこにあったのは厳重に封印されていた剣だった。何重にも結界が貼られている。


「大丈夫です…この結界は選ばれし勇者には反応しません。そして、この剣は《神帝剣(シンオウケン)》。世界に数本しか無い神器の一つです。勇者でなければ触れる事すら出来ません。」


 蓮は恐る恐る、剣に手を伸ばす。 蓮が剣に触った瞬間、剣が光り出す。



 ”なんだ…!“

 “光だ……”


 数秒経った後、光は収まる…蓮は剣を握っていた。


「やはり……!!勇者様の降臨だ……!!」

 老人は涙を流しながら喜ぶ。


「”僕が……勇者……!!“」





 これは…後に語り継がれる«””伝説““»の物語





 この物語の主人公は……




 〝〟クラスのお調子者でも、クラスのまとめ役でも、頭脳明晰な委員長でも、心優しい学校のマドンナでも、恐れられている不良でも“最強の勇者”でもない……〝〟





 そう……この”物語“の主人公は ──────





 ༅『”あんまり見るな…“』༅ ༅『”ヤバい“』 ༅


 ༅『”あれ…能力無いかも…“』༅



 主人公は…モブ(オレ)だ……!!


読んでいただき、ありがとうございます!

次のお話から主人公視点に変更します!

たまに三人称視点になるけど……

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