表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

追跡

田辺警部補が手を打っていたことで、『ワン』の居場所は直ぐに解った。

 『ワン』は北京に居た。

 大島警部とキャサリンは北京に向った。

 田辺警部補は、『チェン』の居場所を突き止める為に別行動をとる事にした。

 北京に着いた二人は、田辺警部補が言っていた中国警察と連絡を取った。

 『ワン』は、北京で一番大きな高級レストラン『王道』の八階に滞在している事が解った。

「キャサリン、聞いたか。

 『王道』って言えば、日本にもあるけどかなりの高級レストランらしい。

 俺はまだ入った事がないが、日本にもあるという事は『ワン』は、いや、チャイニーズマフィア『王一族』は、日本にも勢力を伸ばしていたんだな」

 大島警部は少し興奮していた。

 それを見たキャサリンは、

「私は何度か『王道』で食事したことがあるわよ。

 私の場合は、アメリカのニューヨークにあるチャイナタウン『王道』だけどね。

 それに、『王一族』は世界中のチャイナタウンや中華街を制圧しているのよ。

 そりゃ、日本もその中に入っているわよ」

 と得意気に言うと、さっさと『王道』の中に入って行った。

「おっ、おいキャサリン、待ってくれよ」

 大島警部も、慌てて後を追って入って行った。

 店の入り口までくると、キャサリンが振り向いて言った。

「お腹も空いてきた事だし、仕事は置いといて、お食事でもしましょうか」

 それを聞いた大島警部は、慌てて財布を出し中身を確認した。

「…… 」

 大島警部が下を向いていると、キャサリンは笑いながら耳元で囁いた。

「大丈夫よ、私が持っているから」

 その言葉に、機嫌を直す大島警部だった。

 玄関口に来ると、ウェイターらしき長身の男が出てきた。

 そして二人の前に来ると、

「いらっしゃいませ。ご予約のお客様であられますか?」

 と訊ねてきた。

 大島警部が慌てて答えろうとすると、横からキャサリンが割って来た。

「いいえ、今来たばかりです」

 と答えながら、カードを見せた。

 するとウェイターは一礼をして、

「メンバーの方ですね。

 では、中へどうぞ」

 と、二人を店の中へ招いた。

 中に入ると、ウェイターは店員に小声で説明していた。

 そして、次は店員が二人の方へ歩いてきた。

「お客様は、お二人でよろしいでしょうか?」

 その問いかけに、キャサリンは軽く頷いた。

「畏まりました。

 では、こちらへどうぞ」

 店員は、二人を奥まで案内した。

 大島警部は周りの客を見渡した。

 髭を生やした白人紳士と、ドレスに身を纏った女性。

 貫禄のある、如何にも大手の会社の社長の様は人。

 それに、若くても凛とした実業家の様な男性。

 そういった上流階級の客ばかりだった。

〔完全に俺は浮いているな。場違いだよ〕

 大島警部はそう思いつつ、頭を掻きながら店員の後をついて行った。

 テーブルに着いても、全く落ち着かない様子だった。

 別の店員が来て、二人に注文を聞いた。

 するとキャサリンが、色々と料理を注文し始めた。

 大島警部の姿を見ていたキャサリンは、彼がそれどころではない心境だと察知していたのだ。

 そして、

「大島警部、大丈夫ですか。

 何か顔色が良くないわよ」

 と、微笑みながら話しかけてきた。

 その言葉に我に返った大島警部は、

「あ…… ああ、大丈夫さ。

 俺はただ、怪しい奴はいないか確認していたんだ」

 と強がって見せた。

 その姿に、クスクスと笑うキャサリンだった。

 そうこうしていると、二人の前に料理が運ばれてきた。

  

 その頃、同じ北京にあるバーでは、何やら怪しい動きが起こっていた。

「今回の殺しの相手はこいつだ」

 白人の大男が、写真を差し出した。

 その大男は、あのイタリアンマフィアのドン・ジニーニョから、チャイニーズマフィア『蛇道』の頭領『チェン・セイジン』の暗殺を指示されたジニーニョ一家の幹部だった。

 イタリアから、ここ北京まで来ていたのだ。

「名前は『チェン・セイジン』といって、ここ中国のマフィア『蛇道』のボスだ。

 今、ここ北京の『北京ロイヤルホテル』にチェックインしているが当分居座りそうだから、仕事は明後日の夜にやってもらいたい」

 そう指示を出した大男の前には、サングラスをした小柄な女が座っていた。

 その小柄な女は、黙って写真を受け取ると、その写真を暫く眺めていた。

 そして、大男に向って手を差し出した。

 女の無愛想な態度に、大男はムッとした顔をして、

「本当に大丈夫なのだろうな。

 そんな小さな身体で、まともな仕事が出来るのか」

 と言い放った。

 しかし、小柄な女は大男の方をじっと睨んだままだった。

 サングラスの向うには、今にも大男を喰らいそうな鋭い獣の様な眼が光っていた。

 大男はその眼を見て、背中に冷たい物を感じた。

「わっ…… わかった」

 そう言った大男は、小柄な女に分厚い封筒を手渡した。

 女はその封筒を受け取ると、黙って立ち上がりその場を去って行った。

 外は日も暮れて薄暗くなっていた。

 そして北京の街は、夜の闇に包まれた。


 大島警部とキャサリンは、高級レストラン『王道』の前にあるビジネスホテルに居た。

 そして『ワン』のいる『王道』の八階の部屋を監視していた。

 そこにあるオーナー室では、ワンがソファーに座って一枚の紙を見ていた。

「パーティーか。

 わしに招待状が来ているという事は、あの男にも同じ物が届いているだろう」

 そう呟いた。

 その時、ドアをノックする音がした。

「なんじゃ、どうした?」

 ワンがそう言うと、ドアの向こうから、

「はいっ、親方様に封筒が届いております」

 と声がした。

 それは部屋の外で見張りをしていた、ワンの部下の声だった。

 数日前の事もあり、部屋の外には数名の部下達が見張っていたのだ。

「わかった。

 すまないが、持ってきてくれないか」

 ワンは、ドアの向うに居る部下に命じた。

 部下が入って来ると、封筒をワンに手渡して部屋から出て行こうとした。

 するとワンは、その部下に対して、

「ちょっと待ちなさい。

 お前達は、ずっと部屋の向うで見張っていたからな。

 まあ、ちょうどいい時間だし、下で食事でもして少し休みなさい」

 と言って、微笑みかけた。

 その言葉に部下は、

「し、しかし…… それでは親方様にもしもの事が起きたら…… 」

 と困った口調で言った。

 しかしワンは優しく、

「まあ、少しぐらい大丈夫だろう。

 それに空腹だと、わしを守れんぞ」

 そう部下を宥めた。

 部下は直立すると、

「有難う御座います」

 と言って深々とお辞儀をした後、振り返って部屋を出て行った。

 扉の向こうからは、緊張の解れた部下たちの声が聞こえた。

 それを聞いて、ワンは優しそうに微笑んで頷いていた。

 そして机の引き出しからペーパーナイフを取り出して、封筒を開けた。

 すると、中から一枚の紙が出てきた。

 一瞬、眉間に皺を寄せて厳しい表情をしたワンは、ゆっくりとその紙を見た。

 その紙には髑髏の模様が描かれていた。

 その時、部屋の灯りが消えた。

『王道』の前のビジネスホテルに居た大島警部もそれに気が付いた。

「奴が来た」

 大島警部はそう呟くと、急いで部屋から出て行った。

 隣の部屋にいたキャサリンも出てきて、

「あいつが来たのね」

 そう言うと、大島警部は頷いた。

 そして二人は、階段を駆け下りて行った。

 一方、『王道』のオーナー室では、暗闇の中でワンが一人立っていた。

「そろそろ来る頃かと思っていた。

 そう思って、部下たちは食事に行かせてある。

 あいつらも、生活というものがあるからのう。

 死なせるわけにはいかんのだよ。

 この前は、わしを守ろうとして数人死んでしまったからな」

 ワンがそう言うと、部屋の中に何かが入ってくる気配を感じ取った。

「今日は四人か。

 この前よりも一人多いな。

 …… いやもう一人…… 」

 その時、一人の黒装束がワンに襲いかかって来た。

 ワンは宙を舞いながらその攻撃をかわした。

 更に避けながら、襲ってきた者を素早い掌底で突き飛ばした。

 ワンは幼い頃から中国武術をやっていたのだ。

 それに様々な殺人をやって、相当な修羅場を潜って来た兵だ。

 突き飛ばされた殺し屋は、部屋のドアのところまで飛ばされ息絶えた。

「一人減ったな。

 貴様達、わしが老いぼれだと思って簡単に殺せると思うなよ」

 ワンは、殺し屋の四・五人くらいは自分の力で十分倒せると思っていた。

 だが今回の殺し屋たちは、前に来た殺し屋達の比ではなかった。

 気配だけでも、かなり腕の立つ殺し屋だと解った。

 その残り三人が、同時にワンに飛び掛ってきた。

 流石のワンも、この攻撃では避ける事が出来なかった。

 肩に傷を負ってしまったのだ。

「ううっ」

 その場で膝を着いたワン。

 ところが、三人のうちの一人が倒れた。

 そしてワンの横に、真っ黒のボディースーツを着た者が立っていた。

「ワン大人、大丈夫ですか。

 後は私が引き受けますので、そこで休んでいてください」

 ボディースーツを着た者はそう言いながらワンを抱き起して後ろにさげた。

「おお、君か。

 さっきから気配は感じていたが、すまんが頼んだぞ」

 ワンがそう言うと、ボディースーツの者は殺し屋達に立ち向かって行った。

 ワンの目の前では、ニ対一の壮絶な戦いが繰り広げられていた。

『王道』の下の階では、大島警部とキャサリンが店の中に入って来ていた。

 店の中は、食事をしている客でいっぱいだった。

 突然入って来た二人を見て、二・三人の店員が走ってきた。

二人は、その店員を振り切って階段を駆け登った。

 そして三階まで登ると、そこには王一族の幹部達が食事をしていた。

 そこへ、更に後ろから店員が登ってくると、

「怪しい者達です。取り押さえて下さい!!」

 と幹部達に指示した。

 二人は、捕まってはいけないと抵抗した。

 そこでも、乱闘が始まった。

 大島警部は、警視庁でも武道やっていた。

 「ふん! 柔道四段、空手三段をなめるなよ」

 そう言った大島警部は、迫ってくる幹部達を次々になぎ倒した。

 キャサリンも応戦した。

 相手の幹部達も、武術をやっていたので手強かった。

 だが最後は、キャサリンがFBIの手帳を出して幹部達に銃を向けた。

「警察よ、大人しくしなさい」

 キャサリンのその一言で、幹部達は攻撃を止めて後ろに下がった。

 大島警部は、息を切らしながら幹部達に向って言った。

「ここまで階段を…… 上って来て…… これかよ。

 お前達のボスが…… 上で大変な目に…… 会っているぞ」

 息苦しそうに大島警部がそう言うと、幹部達ははっとした顔で上の階の方を見た。

 そして二人はまた、階段を駆け登って行った。

 幹部達も後を追って階段を登った。

 オーナー室では、二人の黒装束の者が戦っていた。

 そして、最後の殺し屋が死んだ。

 助けに来た黒装束の者は、振り返ってワンのところに歩いてきた。

 その時、窓の外に気配を感じた。

 次の瞬間、一発の銃声が響いた。

 銃弾は部屋の隅に居たワンを狙ったものだった。

 その音は、下から登ってくる大島警部とキャサリンや、王一族の幹部達にも聞こえていた。

 ワンが目を開けると、そこには黒装束の者が座って蹲っていた。

 ワンを庇って身体を張って守ったのだ。

 銃弾は、黒装束の者の右腕を貫通していた。

 すると、もう一発の銃声がなった。

 それは、部屋のドアの方から窓の外に向って放たれた音だった。

 その後、少し離れたビルの屋上で人が倒れる影が見えた。

 ワンを狙った殺し屋だった。

 黒装束の者とワンがドアの方に眼を向けると、そこにはチャイニーズマフィア『蛇道』の頭領の『チェン・セイジン』が立っていた。

「暫く会わないうちに、老いぼれたか」

 チェンはそう言いながら、部屋の中に入って来た。

「おお、チェン大人か」

 ワンがそう言うと、黒装束の者がチェンに頭を下げた。

「君も、リュウ師のところの者か」

 チェンがそう訊ねると、ワンが驚いた様に

「君も…… それじゃ、リュウ師の弟子は二人居たと言うのか」

 そう言った。

 その言葉に、黒装束の者は体をピクリと震わせて驚いた。

 そして、その驚きは別の物に変わった。

 階段の方から大島警部とキャサリンが登ってくると、ドアのところで銃を構えた。

「お前達、警察だ」

 大島警部が叫んだ。

 二人の後ろから、ワンのところの幹部達も登って来た。

「親方様、ご無事ですか」

 すると、大島警部とキャサリンが幹部達の言葉に気を取られた瞬間、黒装束の者が窓の方に向ってジャンプした。

 そして、そのままガラスを割ってビルの外に飛び降りたのだ。

 慌てて窓の方に駆け寄った大島警部だったが、黒装束の者は隣の建物に飛び移ると、そのまま夜の闇に消えて行った。

「くそぅ…… 。

 奴はあの『アサシン』か」

 大島警部は振り返って、悔しそうにそう言った。

 するとその言葉に、驚いた顔でチェンとワンが大島警部の方を見た。

 その二人の表情に、大島警部は、

「その驚き方は、もしかしてあなた達は『アサシン』の事を知っていますね」

 そう訊ねた。

 その問いかけに、二人は動揺を隠しきれないでいた。

大島警部は尚も二人に迫った。

「あなた達が『アサシン』の事を知っているのなら、すべて話してもらおうか」

 そう言うと、手に持った銃を納めて目の前のソファーに座った。

 キャサリンも銃を納めて部屋の中に入って来た。

 ワンとチェンは、顔を見合わせると頷き合った。

 そしてワンは、幹部達に、

「お前達は下の階に行って、ここには誰も来させるな」

 と指示して、大島警部の前に対座した。

 チェンもその横に座った。

 キャサリンは、部屋のドアを閉めると前にあった椅子に座った。

 そしてワンが大島警部に言った。

「約束してくれないか。

 さっき窓から出て行った者に対しては何もしないと。

 その約束をしてくれるのなら、わし達が知ってる『アサシン』の事をすべて話そう」

 その言葉に、暫く考えていた大島警部だったが、

「我々も法を預かる身です。

 悪い事をすれば、罰せられる。

 その罪のある者を見過ごす事は出来ません。

 それは、あなた方のお話の内容次第という事でご了承頂けないかと…… 」

 大島警部は、ワンの心を察してそう切り返した。

 部屋の中で、静かに時間が過ぎた。

 そして、チェンが言った。

「ワン大人、話をしてもいいのではないかな。

 ここまで大きな騒ぎになったのでは、警察も動き出すだろう。

 それにさっきの者は、何かあればわし達が守ってやればよいではないか」

 ワンは考えた。

 そして、大島警部とキャサリンに向って言い放った。

「解った。話をしよう。

 そのかわり、さっきの者にお前達が何か妙な事をしたら、わし達が全力でお前達を潰す。

 いいな」

 それは、覚悟の決まった、まさに気迫の篭った言葉だった。

 そして、今までに見せた事のない鋭い眼光で、大島警部を見つめたワンだったのだ。

 大島警部も、ワンの目をじっと見ながら、

「あなた達とさっきの真っ黒い奴とは、かなり深い関係で、それは非常に大切な関係だという事は、ワンさんのその態度で明らかです。

 ただ、俺達は『アサシン』の事が解ればそれでいい。

 キャサリンもそれでいいだろう」

 大島警部の言葉に、キャサリンは深く頷いた。

「それでは、話してもらおうか」

 その大島警部の言葉に、

「あれは二十年前の事になるか」

 ワンは、ゆっくりと語り始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ