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FBI

東京では、大島警部と田辺警部補が、漁港で見つかった白人の死体の男を調べていた。

 白人の男はアメリカ人の『殺し屋』で、殺される前日は中国に居たとの目撃情報があった。

 二人は中国に飛んだ。

 その道中の飛行機内で、

「田辺、俺は中国は初めてなんだ。

 なんか違う意味でワクワクするな」  

 大島警部警部は、妙な笑みを浮かべてそう言った。

「先輩、遊びに行くんじゃないですよ。

 それにこの前、先輩が僕に言ってたじゃないですか『俺はそんないい加減な男じゃない』って」

 田辺警部補がそう言うと、血相を変えた大島警部が、

「お前っ、何を勘違いしてるんだ。

 俺は中国が初めてだから…… 」

 と、慌ててそう怒鳴った。

 そんな大島警部の言葉を止める様に、

「ちょっと…… ここは飛行機内ですから、そんなに大きな声で言わないで下さいよ。

 はいはい、わかりました」

 と、田辺警部補は恥ずかしそうに周りを見ながら、大島警部を宥めた。

 こうして二人の中国の旅が始まった。

 しかしこの旅が、二人にとって重大な出来事になるとは…… 。

 今の二人には想像すらできていなかった。

 二人の乗った飛行機が中国の上海空港に着いたのは、薄暗い夕方近くだった。

 空港から出ると、二人は直ぐに中国警察に向った。

 その道中でも、二人の漫才のような会話は続いた。

「俺さ、中国に着いたら『ブルース・リー』に会いたかったんだ」

 大島警部の言葉に、田辺警部補は思わず吹き出した。

「先輩、『ブルース・リー』はもう死んで居ませんよ」

 笑いながら田辺警部補がそう言うと、

「そんなこと解ってるよ、だからお墓に…… 」

 大島警部は恥ずかしそうにそう言った。

 田辺警部補はまた吹き出した。

「先輩、『ブルース・リー』のお墓はシアトルにあるんですよ。

 中国じゃありませんよ」

 田辺警部補がそう言うと、大島警部は更に顔を赤くして、

「わっ、解ってるよ。

 だっ、だから、『ジャッキー・チェン』に会えればと…… 」

 そう言った。

 田辺警部補は呆れた口調で、

「彼はハリウッドスターだから、アメリカじゃないですか。

 事務所は香港にあると聞いたことがありますから、彼も…… 」

 と話していると、途中で大島警部が割って入った。

「お前っ、『ジャッキー・チェン』の事を“彼”って、えらい馴れなれしいな」

 そんな大島警部の言掛りの様な言葉に、寝た振りをする田辺警部補だった。

「このやろう、眠ってやんの」 

 そう言いながら窓の外を見た大島警部は、内心ウキウキしていた。

 だがその浮付いた感情は、その後嫌悪感に変わるのだった。

 二人の乗った車は、中国警察に到着した。

 そこで二人を待っていたのは、

「日本から来た警視庁の大島という者です。

 こいつは、私と一緒に今回の事件を担当している田辺警部補という者です。

 宜しく頼みます」

 入り口に居た警官にそう言って、大島警部は頭をさげた。

「田辺と申します。宜しくお願いします」

 田辺警部補も頭をさげた。

 すると、

「いやぁ、お待ちして居りました。

 ささぁ、こちらへどうぞ」

 と丁寧に二人を招き入れ、奥の部屋に案内した。

 そして奥の部屋の扉を開けると、二人を部屋に入れた途端、何も言わずに出て行った。

「あの警官、さっきの態度とは別人のようだったな」

 そんな事を言う大島警部の前には、一人の白人女性が立っていた。

二人が来た事を確認したかのように、女性が振り向いた。

 そして、

「あなた方が、日本から来られた警視庁の方々ですね」

 白人女性がそう言うと、二人はその女性の目を見ながらかるく頷いた。

「外人は目が青いって言うが、本当だな」

 大島警部が小声でそう言うと、

「聞こえちゃいますよ。

 先輩も、外国人は見たことがあるでしょう」

 と、首を縮めて小声で答える田辺警部補だった。

「解りゃしねえよ、日本語で言ってんだから」

 再び小声で大島警部がそう言うと、

「日本人は時間にうるさいと聞いてますが、私は三時間もここで待たされていました。

 日本人にも“ルーズ”な方が居るのですね」

 ブロンドの髪にモデルのような体系で、顔のほうも女優差ながらの美人だ。

 そんな白人女性が、目を細めてきつい口調でそう言った。

 それも日本語だった。

 その白人女性の言葉に、早速大島警部の態度が反応した。

 そして田辺警部補も、瞬時に大島警部の心情を悟っていた。

 後ろから大島警部の袖を引っ張って抑えていたのだ。

 その状況を知ってか知らずか、再び白人女性が話し始めた。

「申し遅れましたわ。

 私は、アメリカから来ましたキャサリン・メリスンと申します。

 同僚達はキャサリンと呼んでますから、あなた達もそれでいいわ。

 『FBI』という組織の中で警部という職を預かっています。

 どうぞ宜しく」

 そう言うと、キャサリンはかるく頭をさげた。

 大島警部は、まだ怒っていた。

 その後ろで田辺警部補は、申し訳無さそうに苦笑いで挨拶した。

 そんな二人の感情はよそに、キャサリンの目つきが急に鋭くなったかと思うと、

「私がここにいるのは、ある事件の捜査で来ました。

 早速だけど、この写真の人物に覚えがあるかと思うの」

 キャサリンはそう言うと、目の前の二人に一枚の写真を差し出した。

 その写真に写っていた人物は、数日前に日本の漁港にて水死体で見つかった白人の男。

 即ち、二人がこの中国で調べるアメリカ人の『殺し屋』だった。

「FBIも、この男を追っていたのか。

 まあ…… 確かにアメリカ人だが、ここ中国で目撃情報があるから俺たちも…… 」

 大島警部は、その写真を手にとって食い入るように見ていた。

 キャサリンは話を続けた。

「この男の名は『ジーン』と言って、アメリカで指名手配中の『殺し屋』です。

 それが一カ月程前に、この『ジーン』に殺人依頼があったという情報を入手しました。

 それも、イタリアンマフィアからの暗殺依頼がね。

 その暗殺の相手が、ここ中国に拠点を持つチャイニーズマフィアのボスなの。

 組織名は『蛇道』、その頭領である『チェン・セイジン』という男よ。

 我々は、そこまでは突き止めました。

 それで『ジーン』がこの中国に来ていると聞いて、私も中国に来たという訳です」

 その時、大島警部の後ろにいた田辺警部補が、厳しい顔で写真を見ていた。

 それに気付かない大島警部は、一歩前にでてキャサリンに向って言った。

「しかしよう、アメリカで捜査していた『殺し屋』が日本で殺されてるんだぜ」

 その言葉に、キャサリンは驚いていた。

「日本で…… この男が殺された…… 」

「そうさ、だから俺たちはここにいる。

 FBIの捜査と、俺達日本の警察が捜査していたこの『殺し屋』の行き着いた所。

 それが、ここ中国なわけだ」

 そう言って、大島警部は田辺警部補の方に振り向いた。

 後ろでは、田辺警部補が顔色を変えて震えていた。

 それを見た大島警部は、

「おい、田辺。

 どうした、ここに来るまでの疲れが出たのか?」

 と、田辺警部補の肩に手を当てた。

 田辺警部補は、それで我に返った。

 そして、

「ああ…… 大丈夫です。

 それより、もう遅いんでそろそろホテルに行きませんか。

 キャサリンも、話の続きは明日の朝にしましょうよ」

 そう言って下を向いた。

 そんな田辺警部補の状況に、

「そうですね。

 今日はもう遅いので、ここから先は明朝にしましょう」

 キャサリンはそう言いながら、二人の横を通り過ぎて部屋から出て行った。

 それを見た大島警部は、猛烈に怒っていた。

「見たか、田辺。

 今のあの女警部の態度。

 いくらFBIだからといっても、あれは無いんじゃないか」

 と言った。

 だが田辺警部補は、何も言わずに振り返って部屋を出て行った。

「あいつ、相当調子悪いみたいだな。

 ここまでの疲れが出てんのか…… 」

 大島警部はそう呟きながら、田辺警部補の後を追った。

 田辺警部補は考えていた。

〔やばい。

 敵が大きすぎる。

『蛇道』といえば、チャイニーズマフィアでは一番の勢力を持っている。

 組織の中には、腕の立つ殺し屋もいる。

 あまり深入りしては、こちらが危険だ。

 しかし、『ジーン』という殺し屋がなぜ『髑髏の紙』を持っていたのか〕

大島警部と田辺警部補は、中国は上海にあるホテルに着いた。

 二人は各部屋に別れた。

 そして翌朝、二人は早い時間に中国警察に向った。

 キャサリンは、まだ到着していなかった。

 この状況に、ここでまた大島警部の怒りが爆発した。

「あの女警部、まだ来てないぞ。

 周りの中国人の警察官はもう来てるっていうのに。

 昨日は散々偉そうなこと言っておいて、自分は何様だってんだよ、まったく。

 ちょっと美人だからって、いや、かなり美人だからと思って生意気なんだよ」

 大島警部がそう言ってると、入り口の方からキャサリンがやって来た。

「お早う御座います。今日は早いのですね。

 昨日の私の言葉が気になったからかしら。

 なら、好い事ですわね」

 その言葉に、大島警部の怒りが更に膨らんでいった。

 その状況を横眼で見ながら、キャサリンは昨日の話の続きをはじめた。

「昨日のあなた方の話を聞くと、殺し屋『ジーン』の死体は日本にあった。

 つまり、ここ中国まで来ていたが、何者かに日本まで連れて行かれて殺された。

 ということですね」

 大島警部は怒りのあまり、キャサリンの言葉の後に間髪いれずに答えた。

「ああ、そうだ。

 『ジーン』の死体は日本の東京の漁港で見つかった。

 そして、日本で司法解剖もやった。

 結果、死亡時の致命傷は鋭利な刃物で心臓を一突きだ。

 それで、その『ジーン』が死んだ時に持っていた物がある。

 それがこれだ」

 そう言って、キャサリンに透明のビニール袋を手渡した。

 ゆっくりとビニール袋を開けて中身を取り出したキャサリン。

 だが次の瞬間、一気に顔色が変わった。

「こっ、これを…… これを『ジーン』の死体が持っていたと言うんですか」

 キャサリンは震えながらそう言うと、

「私は、この『髑髏の描かれた紙』の関連事件を数年前から追っているの。

 まさか、日本でも…… 」

 そのキャサリンの言葉に、大島警部は驚いた。

「ええっ、あんたもこの『髑髏の描かれている紙』の関連事件を追っている。

 それも数年前からだって。

 俺もだよ。

 まぁ、俺は一年ほど前からだけど、そんな事はどうでもいい。

 ただ、日本でも数年前から、この『どくろの描かれてる紙』の事件は数件起きてる。

 それを知らなかったのか」

 大島警部の言葉に、信じられない様なキャサリンだったが、気を静めて、

「まあ、ゆっくり話すわよ」

 そう言いながら、頭を抱えたまま手探りでソファーのところに行くと、凭れる様に座った。

 そして一呼吸すると、これまでの『髑髏の紙』関連事件について調べた事を話し始めた。

 キャサリンの前に居た二人も、ソファーに座って静かに話を聞いた。

「あれは五年前だったかしら。

 私がまだ、FBIの捜査官になったばかりの頃だったわ。

 アメリカで大きな事件が起きたの。

 それは、アメリカンマフィアとサウジアラビアのテロ組織のぶつかり合いだったの。

 その争いは数カ月続いたわ。

 始めのうちは、サウジアラビアのテロ組織が優勢だった。

 だけど、ある出来事が起きてその争いは終ったわ。

 アメリカンマフィアが勝利したの」

 そこで大島警部が問いかけた。

「その、ある出来事って何なんだ?」

「その出来事というのは、テロ組織の上層幹部の全てが何者かによって殺されたの。

 それも、全てが一夜にしてね。

 最後は、一日で決着が着いたってわけ。

 ただ…… 」

 と、キャサリンが言葉をとめた。

 大島警部はソファーから体を乗り出して、

「ただって、勿体つけんなよ」

 と、迫るように言った。

 するとキャサリンは、呼吸を整えてまた話を進めた。

「テロ組織の上層幹部達は、アメリカンマフィアが雇った殺し屋によって、全て暗殺されたの。

 それも一夜にして、いや…… 一瞬にしてって言っても過言じゃないわね。

 そして、その暗殺されたテロ組織の上層幹部全員が、殺された時に手に持っていたのが

さっきあなた達が私に見せた『髑髏の描かれた紙』と同じ物よ」

 そのキャサリンの話に、大島警部は驚いた。

 それは、『アサシン』の正体は一人だと思っていたのに、キャサリンの話の内容では

複数犯でないと出来ないからである。

 しかし、大島警部よりも更に驚いていたのは、横で体を震わせている田辺警部補だった。

 大島警部はあまりの動揺で、隣に居る田辺警部補の状態が目に入ってなかった。

 キャサリンは話を進めた。

「その争いの後、三カ月くらい経った時にフィリピンの大統領が何者かに暗殺されたわ。

 その時も、その『髑髏の描かれてる紙』が壁に貼られていたの」

 その後も、キャサリンの話は続いた。

 大島警部は、自分が東京の警視庁で調べた事件の他にも、まだこの『髑髏の紙』の

関連事件がある事に驚いた。

 そして、大島警部がキャサリンに尋ねた。

「君が調べた事件の中に、僕が調べた事件とは別の事件があるんだが…… 。

 その内容、いや、被害者の殺された時の状況はどんな状況だった。

 例えば、僕が調べた事件の被害者は全て、裏社会では有名な殺し屋だ。

 それと殺された時の状況は、首から上を鋭利な刃物で刺されている。

 もしくは首を切り落とされている。

 だから僕が調べた事件の被害者の死体には、首から下は無傷なんだ。

 それに、全ての犯行は密室で起きている。

 さっきの『髑髏の描かれてる紙』は、壁に貼られている。

 だけど今回の『ジーン』の場合は、心臓を一突きの後に死体を海に投げ込んでいる。

 そして『髑髏の描かれてる紙』は、死体の手に握られていた。

 このように、今まで調べた事と今回の事件には、細かい事かもしれないが違いがある。

 同じ事といえば、どれも『髑髏の描かれてる紙』が必ずあるということだ」

 その大島警部の言葉に、横に居た田辺警部補は大きく頷いた。

 キャサリンは、大島警部の質問に静かに答えた。

「そうね。

 私が調べた関連事件も、被害者は全て殺し屋ばかりよ。

 それに大島警部が言った様な犯行もあるわ。

 だけど、大島警部が日本で調べた事件以外は、おそらく今度の『ジーン』の時と

同じ様な殺し方じゃないかしら。

 それに大島警部の知らない事件には、初めに話したテロ組織の上層幹部暗殺の時と

同じように複数で同時暗殺もあるから」

 そのキャサリンの話に大島警部は絶句した。

 横にいた田辺警部補も、同じ様な顔になっていた。

 そして数秒の沈黙があった。

 暫くして、大島警部がキャサリンに静かに尋ねた。

「キャサリン、最後に一つ聞きたい事がある」

 キャサリンは、大島警部の目を見て静かに頷いた。

「キャサリンは、『アサシン』という殺し屋の名前に聞き覚えはないかい」

 その名前を聞いたとたん、キャサリンの体が小刻みに震えだした。

 そして、小さな声で答えた。

「さっき話した事件の、全ての犯行の首謀者は、大島警部が今言った『アサシン』よ」

 そう言うと、下を向いて体を震わせながら、更にこう言った。

「そして『アサシン』が殺した、『殺し屋』以外のたった一人の被害者。

 それは…… 私のお父さん。

 お父さんを殺した犯人も、その『アサシン』よ」

 その言葉に、大島警部は言葉が出なかった。

 そして、その横でもっと驚いて絶句していた田辺警部補の姿があった。

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