表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

暗殺者『アサシン』

場所は香港のとあるホテル。

「今回の仕事は、この香港で世界十二カ国の首脳陣により行われるサミットの警備だ。

 資料は各警備内容が異なる為、一人一人に配っている。

 よって各々資料の隅々までしっかりと目を通すように。

 尚、資料内容は全て暗記し、シュレッダーで資料は破棄してもらう。

 質問が有る者は、後で私のところまで来るように。

 以上」

 部屋の中には三十名程いた。

 中心者の話が終ると、全員が一斉に資料を確認した。

 特別警察の集まりだ。

 資料に目を通す速さは尋常ではない。

 各々が、確認した資料を全て破棄した後、部屋から出て行った。

 次の日。

 世界十二カ国からの首脳陣が訪れる事で、街の警備は相当なものだった。

 会場周りは、香港国際警察が厳重に警備している。

 各首脳が泊っているホテルから会場までの道路も、一般車両は完全にシャットアウト。

 更に道路の周りは私服警官や特殊警備隊だらけである。

 また移動時も、車での警備が各車両前後に付く。

 その上、首脳一人一人に数名のSPがついている。

 その全ての警備の指揮をとるのが、先程のホテルに集まっていた三十名である。

 なぜこの様な厳重な警備を行わなくてはならないのか。

 それは、ある情報が香港国際警察に入ってきたからである。

 その内容は、サミットが行われている時に会場を爆破するということだ。

 その情報が確かなものなのかは、全く持って解らない。

 しかし、万が一にもその様な事が起こっては、とんでもない大事件である。

 香港国際警察の名誉の為にも、全力で阻止しなければいけない。

 会場のビル内は、国際警察や爆弾処理班といった特殊部隊で警備している。

 周りのビルも警察が警備している。

 そんな中、今のところ爆弾は見つかってはいない。

 犯人の目的はテロなのか。

 それとも右翼的な組織。

 いや、愉快犯かもしれない。

 いずれにしても、サミットを無事に成功させなくてはいけない。


 サミット当日。

 会場付近は、異様な緊張感に包まれていた。

 各国の首脳が乗った車が、会場のホテルに到着し始めている。

 もちろん、日本からもサミットに参加していた。

 その警備の中に、大島警部の姿があった。

 サミット参加国の首脳全員が、無事にホテルに到着した。

 やがて、サミットも無事に終ろうとしている。

 爆破計画の情報は、何者かの偽情報だったのか。

 サミットも終り、各国の首脳陣が警備に守られて出てきた。

 その時だった。

 一発の銃声が、会場の周りに響いた。

 次の瞬間、そこに居た全ての警察や特殊部隊に緊張が走った。

 そして一人の首脳が、会場だったホテルの玄関口で倒れていた。

 弾丸は頭に命中していた。

 撃たれたのは、イランの副大統領だった。

 周りのビルには、特殊部隊や国際警察が一斉警備をしていたはずなのである。

 会場付近に不審な者が居たとなれば、直ぐに見つかることは必然だった。

 それなのに、どこから狙ったものなのか。

 それもたった一発の銃弾で、ましてや額のど真ん中に命中させている。

 残りの十一カ国の首脳陣は、警備に守られながら車に乗り込んだ。

 日本から来た首脳も、大島警部の警備の中で去って行った。

 

 翌日の世界中のニュースでは、国際サミットでのイラン副大統領暗殺ばかりだった。

 日本から参加した大島警部は、帰路の中でずっと考えていた。

 それは、あの『髑髏の紙』の事だった。

 警視庁に戻っていた大島警部だったが、香港国際警察に連絡を取っていた。

 捜査を手伝いたいとの申請をする為だった。

 しかし、香港国際警察の答えはノーだった。

 大島警部は、諦め切れなかった。

 そのまま香港に向かったのだ。

 その日の夜には、香港の中華街を探索していた。

 必ず何か起こると信じていたのだ。

 

 その勘は見事に的中した。

 

 中華街の中にあるホテルの一室で、その事件は起こった。

 そこには、アラビア系の男たちが居た。

 暫くすると、そこにサングラスをした白人の男がやってきた。

 部屋の中央に居たアラビア系の男が、白人の男に向かって、

「よくやってくれた。

 間抜けな警察連中は、爆弾テロだと思って厳重警備をしていたようだ。

 しかし、狙われているのがイランの副大統領だったとは思いもよらなかっただろう」

 そう言って高笑いをした。

 そして、

 「そんな事はどうだっていいんだ。

 君のテクニックは凄いな。

 二つ離れたビルからの狙撃で、それもたったの一発で仕留めたのだからな。

 いやぁ、大した腕をしている」

 そう言いながら、白人の男と握手を交わした。

 そして白人の男が、正面のソファーに座りながら答えた。

「光栄です。

 これでイランの石油の三分の二は、あなたの物になりますね。

 私も、そのお手伝いができて光栄に思っています」

 すると、アラビア系の男が笑いながら言った。

 「あのイランの副大統領は、政治の裏ではイランの石油を一人占めにしていたからな。

 まあ、我々が殺さなくても他の誰かが殺していただろう。

 自業自得ってものだ。

 君への報酬は、言われていた口座に振り込んでおいたよ。

 今日はゆっくりしていってくれ。

 御持て成しをさせてくれ」

 そう言った後、部屋に料理が運ばれてきた。

 男性店員が、料理をテーブルに並べようとした時だった。

「ちょっと待て。

 その封筒は何だ?」

 一人のアラビア人が、店員の動きを止めた。

料理の乗った台車の上に、一通の封筒が置いてあったのだ。

「何…… 誰が置いたんだ」

 困惑していた様子の店員だったが、

「あぁ、申し訳ございません。

 直ぐに料理を作り替えて参ります」

 そう言って頭を下げると、その場から引き返そうとした。

 しかし、

「まあ待て。

 お前も見覚えの無いようだ。

 持ってくる時は無かったのか?」

 別の男が訪ねた。

「はい。

 お持ちする料理をチェックした時は、このような物はありませんでした」

 店員は、男の威圧的な容姿に怯えながら答えた。

「差出人の名前は書いていません」

 体格の良いアラビア系の男が、封筒を手にしてそう言った。

 するとボスのアラビア系男が、

「中身はなんだ。開けてみろ」

 横に居た男に命令した。

 そして男は、言われたとおりに封筒を開けた。

 男が封筒を少し破った時だった。

 封筒から空気が抜ける音がしたのだ。

 それと同時に、封筒から何かの気体が噴き出てきた。

 「うわっ!!」

 思わず声を発した男だったが、その後いきなりその場で倒れた。

 すると、一部始終を見ていた白人の男が、

「ア…… アサシンのやろうだ」

 突然体を震わせながらそう言って、ソファーから立ち上がろうとした。

 すると、目の前のアラビア系男の頭が、地面に転がり落ちた。

 座ったままのボスの男の首からは、天井に向かって鮮血が噴出した。

 周りにいた男達は、慌てて銃を取り出そうと上着の胸に手をあてた。

 しかし、男達はその場で倒れたのだ。

 白人の男が、恐る恐る顔を上げた。

 そして、目の前の光景に目を丸く見開いた。

 男たちを殺していたのは、さっきまで怯えていたはずの店員だったのだ。

「貴様が、アサシンかぁっ!」

 叫び声をあげた白人の男は、横にあった銃を手に取り店員の方に向けた。

 しかし、そこに居た筈の店員の姿はなかった。

 男は瞬時に、白人の男の横に移動していたのだ。

 次の瞬間、白人の男のこめかみにナイフが刺さっていた。

「アサ…… シン…… 」

 白人の男は、倒れながらそう呟いていた。

 異様な物音に、一人の女性が部屋に入ってきた。

 そして、中の状況を見て絶叫していた。

 

 その声は、近くに居た大島警部の耳にも届いた。

「ふむ…… 近くで女性の悲鳴がしたが…… 」

 大島警部は、声の方向に向かって走った。

 そして殺人現場に着いた大島警部は、目の前で蹲る女性に話を聞こうとした。

「どうした。何が起こったんだ」

 大島警部の問いかけに、女性は座り込んだまま震えていた。

 周りを見渡す大島警部だったが、何かに気付いたのか、部屋の隅に目を向けた。

 そこには、血だらけのアラビア系の男が壁にもたれて何か呟いていた。

「お前、生きているのか。

 何があったんだ」

 大島警部が駆け寄って、男の顔の前でそう言った。

 すると、

「ア…… サシ…… 」

 アラビア系の男は、大島警部の耳元でそう呟いて息絶えてしまった。

 大島警部が立ち上がった横のソファーには、座った状態で死んでいる白人の男がいた。

「アサシンとは何だ。

 それに、この白人とこいつらは一体何者なんだ」

 そう呟きながら立ち上がろうとした大島警部。

 目の前の悲惨な状況に、戸惑いと憤りが交差していた。

 大島警部は考えた。

 香港で起きた全ての事件を思い出しながら、順番に繫いでいった。

「首が切られているアラビア系の男。

 それに、白人の男が死んでいる。

 状況を見ると、豪華な料理とこの男たちの容姿。

 昨日のサミットでのイラン副大統領暗殺と、ここの殺人には何か関係がありそうだな」

 腕を組んで考え込んでいた大島警部だったが、ふつと壁に目をやった時だった。

「何だあれは…… 」

 そう言いながら、死体をよけて壁際に向かった。

 そしてそこで見つけたものは、

「髑髏の描かれた紙」

 壁に刺さったナイフを抜いて手にした物は、あの『髑髏の描かれた紙』だったのだ。

「髑髏の紙と…… 男が言っていたアサシン…… 」

 大島警部は、そう呟きながら部屋を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ