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髑髏の殺し屋

「今日はお忙しい中、この様な私の為に時間を割いてお集まり頂き、誠に光栄です。

 私も今日で六十になりました。

 これからもどうぞ宜しくお願いしたい。

 まあ、つまらない御持て成しですが、ゆっくりとご堪能していってください」

 日本で最も勢力を持つ暴力団『龍神会』会長・神道龍伍郎の誕生会での挨拶が終った。

『龍神会』は、日本暴力団の三分の一を傘下に持つ組織だ。

 他にも兄弟の杯をかわした組や交友を持つ組などを入れると、

日本暴力団の半分を仕切る程の力があった。

 ここ最近は海外に、それもアメリカと中国にその勢力を伸ばそうと動いていた。

 その『龍神会』の組長の誕生会とあって、招かれた客層も相当な者達ばかりである。

 政治家・財閥・芸能関係それに、同門の者たち。それも名のある組長ばかり。

 みんな裏社会で金に目がくらんで、自分の懐ばかりを考えている連中である。

 しかし、『龍神会』をあまり好ましく思っていない連中もこの誕生会に招かれていた。

 どれくらい時間が経ったか、会も終盤差し掛かった時だった。

 突然、一発の銃声とともに窓ガラスが割れた。

 それと同時に、近くに居た『龍神会』の幹部数名が慌てて駆け寄ってきた。

「組長っ!」

「組長っ!」

 そして、一人の幹部が叫んだ。

「誰か救急車だっ。救急車呼べっ」

『龍神会』組長の神道龍伍郎が撃たれたのだ。

 会場内は突然の出来事で、パニックに陥った。

 参加した連中は、自分の身の安全を確保しはじめた。

 銃弾は窓ガラスを突き抜けて、組長の頭に命中していた。

 何者かがビルの外から狙撃したのだ。

「何処からだ…… 」

 会場に居た幹部達が、口をそろえてそう呟いていた。

 それもその筈だ。

 ここは、今までに無いほどの厳重警備体制をとっていたからだ。

 幹部たち全員が、不思議そうに周りのビルを見渡していた。

 そして、『龍神会』組長の神道龍伍郎の六十歳の誕生会は凄惨な幕を閉じた。


 翌朝、どの新聞の一面を見ても、トップ記事は組長暗殺が載った。


その夜とある屋敷で、その記事を嘲笑いながら見ていた者がいた。

「これで龍神会も、どんどん衰えていくことだろう。

 後は、この国の裏社会はわしの手中だな。

 これは残りの報酬だ」

 一人の貫禄のある老人が、目の前の長身の男にそう言って、分厚い封筒を渡した。

「有難う御座います。

 また、何か私に出来る事が有りましたらいつでも」

 長身の男はそう答えると、貰った分厚い封筒を背広の内ポケットにしまった。

 貫禄のある老人は、ソファーに凭れながら不敵な笑みを浮かべて、

「しかし神道も、自分の身内の殺し屋に殺されるとは思ってもみなかったろう。

 のうカミソリ政よ…… 」

 そう言いながら、勝ち誇ったようにワインを飲んでいた。

 それを見ていた長身の男も、

「そうですね。

 まあ龍神会も私のものになりますし、あなたの組の傘下で裏社会を存分に楽しみましょう」

 と言いながら、正面のソファーに座った。

「撃った奴は、ちゃんと始末したのか」

 貫禄のある老人がそう問いかけると、

「そこは抜かりありません。

 まあ、腕が良かったから勿体無い気もしましたが、俺の手下どもにやらせました」

 と、長身の男が首の前で手を揺らせながらそう言った。

 龍神会組長暗殺は、そこに居る貫禄のある老人こと暴力団第二勢力を持つ誠心会組長と、

龍神会若頭で龍神会一の殺し屋と言われている、カミソリ政こと三島政治がやったことだった。

 そんな二人が話していると、扉の向うからノックの音が聞こえてきた。

「なんだ」

 カミソリ政が部屋の中からそう叫ぶと、扉の向うから、

「はいっ、組長宛に郵便物が届いております」

 見張りをしていた誠心会の幹部がそう言った。

「誰からだ」

 誠心会の組長が訪ねると、

「はいっ、それが差出人の名前がありません」

 見張りの幹部が、届いた封筒を見ながら答えた。

 それを聞いて、誠心会の組長が一旦考えた。

「郵送で何かを送りつける奴など、俺の周りにはおらんな」

 しばらく考えた後に、

「名前がないなら、封筒ならそこで中身を確認しろ」

 誠心会の組長は、暗殺という危険な仕事をやった後なので用心深くなっていた。

 その為に、得体のしれないものだったらいけないと思ったのだ。

 届いたものが封筒だったことで、その場で見張りの幹部に確認をさせたのだ。

「はいっ、畏まりました」

 幹部の男は、その場で恐る恐る封筒を開けた。

 静まった空間に、紙を切る音や広げる音が聞こえる。

「中身は紙切れ一枚です。

 それも、その紙には髑髏の様な模様が…… 」

 幹部は、しどろもどろにそう答えた。

「なにぃっ、髑髏だって。

 こっちに持ってきて見せてみろ」

 幹部の男のもどかしい回答に、カミソリ政が苛立ちながらそう言った。

 そのまま勢いよく立ちあがって、扉の方に向かって行った。

 徐に扉を開けて、外に居た幹部の男の後ろ襟を掴んだかと思うと部屋の中に引き摺り入れた。

 幹部の男は、その勢いのまま組長のほうまで小走りで向かった。

 そして手に持っていた封筒と髑髏の描かれている紙を、組長に手渡した。

 組長は、目を細めて幹部の男を睨みながら受け取った。

 その顔を見ることすら出来ない幹部の男は、カミソリ政の後ろにさがった。

「髑髏とは、どう言う意味ですかね」

 腕を組んで組長のほうに向かうカミソリ政だった。

 その時だった。

 いきなり部屋の灯りが消えて、辺りが真っ暗になった。

「何だっ。どうしたんじゃっ!」

 カミソリ政が叫んだ。

 その声の直ぐ後に、ドサッと何かが倒れた音がした。

 カミソリ政と組長が、暗闇の中を目を凝らして、音のしたほうをじっと睨みつけていた。

 視線の先には、封筒を持ってきた見張りの幹部が倒れていた。

 それも、首から上が無くなっていたのだ。

 カミソリ政の足元に、幹部の頭が転がっていた。

「うぇ~っ!!」

 突然の出来事に、興奮したカミソリ政が呻き声を発しながら拳銃を構えようとした。

 次の瞬間、

 再び地面に何かが落ちた音がしたのだ。

 カミソリ政は、何の音なのかが解らずに、キョロキョロと周りを見ていた。

 しかしその後ろでは、ガタガタと体を震わせながらカミソリ政の方を指差す組長が居た。

「あぁん?」

 状況を飲み込めないまま、組長の姿を見て自分の体を確認するように見るカミソリ政。

 だが、

「なんだぁっ! おおうっ! 誰じゃぁこらぁっ!」

 両腕を見ながらカミソリ政が叫んだ。

 目の前にあるはずの自分の両手が無く、手首から大量の血が溢れていたのだ。

 さっきの音は、カミソリ政の両手が床に落ちた音だったのだ。

 狂気のカミソリ政の叫び声が、部屋中に響いた。

 しかし、それは直ぐに止まった。

 そして、そのまま倒れたカミソリ政だった。

 何が起こっているのか、状況が全く飲み込めずにただ震えている組長。

 声も出せない組長の目の前には、鋭利な刃物で切られたカミソリ政の頭が転がっていた。

「な、なんじゃ…… だ、だれだぁ…… 。 

 ううぅ、金か。

 金なら幾らでもやるから、助けてくれ…… 」

 部屋の中に一人残った誠心会の組長は,あまりの恐怖に声にならない声で呟いた。

 この家の敷地内には、たくさんの組員が居るはずだ。

 だが、なぜか周りは静まり返っている。

「なぁ頼む。

 ああ、助けてくれたら組の幹部にしてやってもいい。

 だから、なぁ、たの…… 」

 組長の声が途切れた。

 そして、誠心会の組長もその場で倒れた。

 その後、組長の頭が転がる音だけが聞こえた。

 それは、一瞬の出来事だった。

 暫くたって、奥の方から廊下を走ってくる足音が聞こえてきた。

 広い屋敷で、少し離れた部屋に居た幹部連中が、あまりの静けさに異変を感じたのだ。

 「誰かぁ、灯りをつけんかぁっ!」

 走ってきた幹部の呼ぶ声に、直ぐに部屋が明るくなった。

 その瞬間、幹部達は息を呑んだ。

 その目前の状況に、言葉を失った幹部たちだったのだ。

 部屋の入り口には、頭の無い幹部の死体。

 そして少し離れた場所には、頭と腕のないカミソリ政が倒れている。

 更に部屋の中央には、やはり頭の無い組長の死体が倒れている。

 そして三人の生首が、ソファーの間のテーブルに並べられていた。

 床にはドロドロと滑った血が、じゅうたんの様に広がっていた。

 ゆっくりと部屋を見渡す幹部たち。

 その一人の目が、壁際の棚で止まった。

「あ、兄貴。あそこに何かありますぜ」

 そう言いながら、ゆっくりと棚のほうに向かう幹部だった。

 その足取りは、血のりで床に足をとられる為に思うように前に進めない。

 その幹部の男が手にした物は、一枚の紙だった。

「おい、ちょっとそれを持って来い」

 兄貴と呼ばれた幹部が、そう言った。

 そして持って来た紙を手にして、

「これは…… 髑髏か?」

 そう呟いた。

 それは、封筒の中に入っていた『髑髏の描かれている紙』だった。

間もなくして、警察がやって来た。

「これは悲惨だな。

 殺されたのは誠心会組長と、その幹部一人。

 それにぃ…… ほほう、龍神会の三島かぁ」

 白い手袋を噛んだままそう言ったのは、警視庁の大島大輔警部だ。

「なんで、三島と誠心会組長が一緒に居たんでしょうね。

 誠心会と龍神会はあまり仲がよくないと聞いていますよ」

 そう言いながら、大島警部の後から部屋に入ってきた男。

 新米の、田辺康太警部補だ。

 その問いかけに、すかさず大島警部は

「日本の裏社会は龍神会が仕切っていた。

 関東を中心に日本国内の暴力団の約三分の一は龍神会の傘下だからな。

 だが、それを好く思ってない輩も居る訳だ」

 手袋に指を入れながら、大島警部は言った。

 その言葉に田辺警部補は、急いで背広の内ポケットから手帳を取り出してメモを始めた。

 それを見た大島警部は、再び話し始めた。

「まあその第一人者が誠心会ってところだ。

 誠心会は龍神会まではいかないが、裏の世界では第二勢力と言われていたからな。

 トップを狙うのはあたりまえだろう」

 大島警部の話に、田辺警部補が頷く。

 そして、メモを取る。

 そんな田辺警部補に、

「しかし、なぜ三島がここに居たかだ」

 得意気な顔をした大島警部が問いかけた。

「三島といえば龍神会一の殺し屋と言われていて…… 。

 その上、神道龍伍郎の後を継ぐとも言われていましたよ」

 ボールペンでこめかみの辺りを掻きながら、田辺警部補がそう言った。

 すると、得意そうに話していた大島警部だったが、腕を組みながら首を傾げて、

「神道龍伍郎といえば幹部達はもちろん下の組員達もよく可愛がっていたっていう噂だ。

 それなのに龍神会の三島がなんで誠心会の組長と会っていたかだ」

 そう呟いて、考え込んでいた。

 その時、年配の刑事が二人のところにやって来た。

 そして大島警部に

「警部っ、この紙を…… 」

 そう言って、大島警部に一枚の紙を手渡した。

 その紙をじっと見つめる大島警部。

「なんだこの紙は。

 髑髏みたいなものが書かれているが」

 独り言のような言葉に、横に居た田辺警部補が、

「その紙にも、たくさん血が付いていますね。

 おそらく殺された三人も、この紙を見たと思いますよ。

 三島の横に落ちていた封筒ですが、たぶんその紙が入っていたと思われます。

 差出人は書いていませんけども」

「それで、この紙で何かヒントは得たのか」

 大島警部が年配の刑事に尋ねた。

 すると年配の刑事が小さな声で、

「推測ですが、この殺人は殺し屋かと…… 」

 年配の刑事は、大島警部の部下に当たる人物。

 しかし、経験は大島警部よりもはるかに上だ。

 その年配の刑事の言葉を聞いて、大島警部は呟いた。

「髑髏の殺し屋か」

 

 警視庁に戻った大島警部は、そのまま資料室に向かった。

 過去にも似たような殺人事件が起こっていないかを調べる為だったのだ。

 そして、見つけた。

 それも、一つだけではなかった。

『髑髏の紙』が壁に貼られていた殺人事件は、世界中で起こっていた。

 あの年配の刑事が言っていた通り、全てが暗殺事件だったのだ。

 尚且つ、暗殺された相手はどれも、名の有る殺し屋ばかりだ。

「どう言うことだ。

 髑髏の紙が関連している事件の被害者は、どれも殺し屋ばかりじゃないか。

 それも、名のあるギャングやマフィアが雇っている殺し屋ときてる」

 そう言うと、ふつと頭の中に何かヒントが浮かんだ。

「今回の殺しも、相手は誠心会の組長じゃないのかも…… 。

 もしかすると、龍神会の殺し屋『カミソリ政』なのか」

 そして大島警部の目が鋭くなった。

「なるほど、殺し屋の殺し屋。

 なかなか面白そうじゃないか」

 少しニヤケた顔でそう言った大島警部だった。

 そして、過去の『髑髏の描かれている紙』関連の殺人事件の資料を持って行った。

 

 そのころ別の場所でも、同じ様な事件が起ころうとしていた。




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