開始
『さあ、今回行うのは……ひとり、かくれんぼー!』
誰もいない部屋でタツタツは小さく拍手をする。
『少し前に流行って今更って思われるかもしれませんが、あえて今回これをやっていこうと思います。さて、ひとりかくれんぼはかなり危険な降霊術とされております。なのでいつもはふざけた企画をやっておりますが、今回は真面目にやっていきたいと思います』
タツタツの喋りは大手配信者達のように喋りの間に隙間がないように編集が施されている。細かいカットと継ぎ合わせで淀みない喋りにはなっているが、実際はもっと間があったり噛んだりしているのであろう。
『さて、ひとりかくれんぼの為に必要なものがこちらになります』
そう言いながら彼は順番に用意したものを手に紹介していく。
『まずはぬいぐるみですね。かわいいくまちゃんでちゅねー。そして次に米、爪、髪の毛、体液、赤い糸。これは全てこのくまちゃんの中に入れるものになります。ああーかわいそうだけど、せっっぷく!』
“ぬいぐるみ”、”米”といったアイテムのテロップを順番に表示しながら彼は説明を続ける。そして手にしたハサミをぬいぐるみの腹にズバッという効果音と共に突き立てた。
『さあ、ぬいぐるみの準備が出来たところで次は塩水ですね。これは隠れる場所に用意しておく、と言う事でクローゼットの中にこれを置きましょう』
カットが入り、腹が縫い合わされたぬいぐるみを横に置き、今度はコップに入った塩水をカメラに向ける。場面は切り替わり、クローゼットの中にコップを置く様子が写される。
『時刻はまもなく午前三時になろうかという所です。いよいよ始まりの時です』
場所は浴室へと移る。手にしたぬいぐるみに向かって彼は呟いた。
『最初の鬼はさーちゃんだから。最初の鬼はさーちゃんだから。最初の鬼はさーちゃんだから』
三回唱えた後に、水を張った浴槽に彼はぬいぐるみを入れた。
『よし、これでオッケー』
タツタツの息は多少上がっていた。それが興奮なのか恐怖なのか、どういう感情によるものかは分からない。
『では、電気を消します』
パチッという音と共に部屋は真っ暗になる。
少しして急に画面がぶわっと明るくなる。映し出されたのはテレビ画面だった。
『テレビだけは点けとかないといけないみたいですからね』
後付けのように彼は口で説明を入れた。
『ふーっ。ふーっ。』
やはり怖いのだろうか。暗視モードで暗い部屋の中、少し緑がかった映像の中、息を整える彼の姿が映し出される。
『じゃあ……十秒数えます』
そこからは彼はゆっくりとカウントダウンを始める。
『十、九、八、七、六……』
画面上には彼のカウントに合わせて赤くおどろおどろしい数字のテロップも添えられている。
『ぜろ……終わりました。じゃあ行きましょう……』
画面はそのままに再び浴室に移動する。そして浴槽に入れられたぬいぐるみを取り出す。
『ふーっ。ふーっ。』
以前彼の息は荒い。
『……さーちゃん、みーつけた』
そして勢いよく包丁をさーちゃんに突き刺した。
『ふーっ。ふーっ……えっと、次なんだっけ』
少し焦りながら何かメモを確認しているのだろう。確認を終えた彼は、「あ、そうだそうだ」と続けた。
『次はさーちゃんが鬼だから』
そう言ってから足早に彼はクローゼットへと向かった。
『やべぇ……こええ』
そして彼は狭い暗闇の中に閉じこもった。