時代遅れ
『どうもー!タツタツです!さあ、という事で。季節は夏。夏と言えば……そうですね。ホラーですね。なのでそんな夏にぴったりの企画を今回はやっていこうと思います!』
大学生活から始めた一人暮らし。1Kの狭い部屋だが、一人で暮らすには十分な広さだ。そんな狭い世界から今日も、俺は世界に発信する。
机に置いたカメラに向かってお決まりの挨拶と共に今回の企画を説明する。今こそ言い慣れたが、初めての時は一人で部屋の中で自分は何をやっているんだろうという気恥ずかしさで何度も心が折れかけながら撮り直した。
それでも一度羞恥の壁を乗り越えるとえらいもので、以降は何の恥じらいもなくすらすらと喋れるようになった。喉元過ぎればというのはちょっと違うかもしれないが、一度経験してしまえば大したことではない。
そうして俺はネット配信者として活動し始めた。
「え? ひとりかくれんぼ?」
学食で昼飯を食いながら、大学の友達である道秀に相談した所、彼はあからさまに呆れた顔を見せた。
「何だよその反応」
「いやだってお前……今更ひとりかくれんぼって」
道秀が言いたいことは分かる。
ひとりかくれんぼが流行ったのはもう五年以上前の事だ。今更という言葉と彼の呆れ顔は理解できなくもない。
「馬鹿、今更だからいいんだって。ほら流行りってさ、サイクルするもんだろ。ある意味流行りが落ち着いた今だから受けるんだって」
「サイクルってそんなファッションみたいにうまくいくもんか?」
「それに夏って言ったらよ、やっぱりこういう系だろ。間口は広いと思うんだよな。それに心スポ凸とかに比べて家で出来て完結出来るし楽だしコスパもいいだろ」
「配信者として成功したいんならもっと努力も必要じゃないか?」
「努力も結構だけど、いかに楽して稼ぐか。ローリスクハイリターンを意識する方が重要なんだよ」
「はぁ」
道秀はなんだかピンと来ていないようだったが、まあいい。
「で、ひとりかくれんぼをするってのはいいが俺に何か相談なのか?」
「ああ、そうだ。お前さ、こういうオカルトっての? 詳しいじゃねえか。だからやり方とか確認したいなって」
そうすると彼はまた呆れ顔をしながらめんどくさそうに長い髪をかきあげながら言った。
「お前そんなのネットで調べたらいいだろ」
「いやだって失敗したら嫌じゃねえか」
「失敗って、俺だってやった事ねえし詳しい事なんて知らねえぞ」
「何だよ役立たずじゃねえか」
「じゃあそんな役立たずは帰らせてもらうぞ」
「おーい待て待て待て。一緒に確認だけでもしてくれよ」
「何だよ、それ」
席から立ち上がりかけた道秀は再び腰掛けた。なんだかんだ親身になってくれる所がこいつの良い所だ。
「いろいろ準備とかやり方とかあるんだろ、これって?」
「ああ。一人で出来る降霊術の一つとして手軽さもあって話題になったけど、かなり危険だとされている。ちゃんとルールを守らないと命を落としかねないって」
「おー怖」
「まあ別に俺はお前がどうなっても構わんので一人で勝手にやってくれって話なんだが」
「ひでぇな。それでも友達か?」
「いつから友達だった?」
「うーわマジひでぇ。まあとにかくちゃんとしなきゃやべえって話だな」
「そう言われているな」
「じゃあちょっと一から確認させてくれ」
「めんどくせぇ……」
そう言いながら道秀にひとりかくれんぼをするにあたっての確認を行った。めんどくさがりながらも道秀は一緒に内容を確認してくれた。
「おっけー、ありがとう。じゃあこれでとりあえずやってみるわ! 配信楽しみにしといくれよ!」
「はいはい」
そこでやっと解放されたと言わんばかりに道秀は席を立ち去った。そんな彼の態度に少し苛つきを覚えた。だが結果として彼に相談して良かった。
――おもしれぇ事になるかも。
自分自身、配信が楽しみになってきていた。