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クソ

「手伝って欲しいんだ」


 それは達樹がひとりかくれんぼの動画を撮って数日後の事だった。


「またひとりかくれんぼ?」

「そうだ。この前の続きを撮る。ちょっとしたサプライズもあるから、あいつには彩夏が来ることは今回内緒だ」


 こんな短い間にひとりかくれんぼを二回も手伝う事になるなんて思ってもなかった。


「分かった」


 秀君との関係は変わらず続いていた。まさか達樹は私がそんな事になっているなんて知る由もないだろう。自分以外の男に抱かれるなんて想像もしていない男だ。知ったら彼はどう思うだろう。


 一週間後の夜。私は達樹のマンションの近くで待機していた。秀君は達樹と動画を撮る。内容はまたヤラセだそうだ。恐怖演出の為に私に途中から登場して欲しいと言われていた。


『いいよ』


 秀君からメッセージが来た。

 私は達樹の部屋に向かった。玄関の鍵は開いていた。

 部屋は暗く、静かだった。ひとりかくれんぼをする時は確か電気を全て消さないといけないからそのせいだろう。

 ただにしても、静かすぎる。中には少なくとも二人はいるはずなのに。


「ぐぎっ……!」


 瞬間後ろから首を凄まじい力で絞められた。突然の事で頭が混乱した。何が起きた。


「なぁ、好きだよなぁ俺の事」


 首筋を這いずるような秀君の声がした。

 

「どうして俺じゃなくてこいつなんだよ。なぁどうしてなんだよ」


 締める力がいっそう強まる。駄目だこのままだと落とされる。

 

 ――それもそれでいっか。


 一瞬そんな考えが頭をよぎった。どうせ最後はそのつもりだった。

 

 ――嫌だ。


 でも、嫌だ。私が悪い。私が悪いと思い続けてきた。

 でも、本当にそうなのか。

 何も思い通りにいかなかった。自分に自信を持てなかった。

 私が悪い。私が悪い。

 それに付け入られて、私の意思はいつしかなくなった。

 そう思いたくなくて、達樹の事を心底愛しているからこそだと自分を騙した。自分がいなきゃダメだからと言い聞かせた。

 そんな事はない。普通に考えれば分かる。


 そしてそんな私を心配して声を掛けてきた秀君。

 でも本当は私への一方的な愛を認めさせたい、受け入れさせたいだけだ。

 好きな時に呼び、好きな時に抱く。

 私を心配しているのではない。私を自分のものにしたいだけの私利私欲の行為だ。


「達樹は今クローゼットに寝かしてある。起きたら浴槽にぶちまけたお前の死体を見つけさせる。その後に達樹も殺して終わりだ。クソなお前達にはうってつけの最高にクソな最後だ。くまちゃんみたいにぐちゃぐちゃにして終わりだ」

 

 生暖かく荒い息が耳元に当たり続ける。

 

「あづっ…!」


 彼の腕の力が緩んだ。その隙に彼の懐に飛び込む。


「んぐ、ぶぐ、う、おご」


 何度も何度も。


「クソはお前もだろ」


 ずん、ずん、ずん、ずん、ずん、ずん、ずん、ずん。


 びしゃびしゃと身体に液体がかかる。


「あ、が、あ、あ、ご」


 彼の声が弱まっていき、やがてずるずると床に倒れ込んだ。倒れ込んで尚私は彼の顔や腕や腹や股間を刺しまくった。

 あっけない命だった。手にした包丁はずるずるに血に塗れている。


 ――くまちゃんみたいにぐちゃぐちゃにして終わりだ。


 私は浴室へと向かった。

 暗い浴槽の中に、私が達樹にあげたくまのぬいぐるみが腹を開かれ無残な姿で横たわっていた。


“さーちゃん?”

“そう。私だと思って大事にしてあげて”

“ああ? めんどくせえ”


 付き合って間もない頃に彼にあげたものだった。

 めんどくさいなんて言いながら、彼は捨てる事はしなかった。

 嬉しかった。そんな事を嬉しく思った日もあった。


“唾液か、血って書いてあるな。それ全部こいつに詰め込むから”


 私は代わりにぐちゃぐちゃになった秀君を引きずり、浴槽の中にぶち込んだ。


 ――どいつもこいつも。


 自分も含めて本当にろくなやつがいない世界だ。


「おい、いるんだろ道秀!」


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