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本番 素材③

「道秀! おい道秀!」


 ハメられた。どういう理由でかは分からないが、あいつがこんな事を持ち掛けてきたのは俺をハメる為だったんだ。


「ぶっ殺してやる!」


 とは言いながら手足の自由は効かない。見ると両手両足には手錠が掛けられていた。


 ――わざわざこんなものまで用意したってのか。


 何のつもりなんだ。日頃から穏やかで虫も殺さないようなタイプの男だが、その実何を考えているのかよく分からない所もある。腹の中でこんなふざけた事を計画していたと思うと心底腹立たしい。


「ん?」


 明るい部屋の床を見て一瞬思考が止まった。それは玄関へと続く廊下の方へと続いていた。


「……なんだよ」


 何かを引きずったかのように残る赤い筋。どこかで俺はこれを見た事がある。

 なんだ。なんだ。どこでだ。


 血。


 そうだ。血だ。よくドラマや映画で見る、死体なんかを引きずった跡に残る血痕がまさにこれだ。


 ――誰の?


「ん、ぐっ」


 身をよじりながら痕を辿る。血痕と思しき筋は、浴室の方へと続いていた。そこにはひとりかくれんぼを始める時に使ったぬいぐるみがある場所だ。


 ぞわっと背筋が寒気だった。

 ずりずりと俺は床を這いつくばる。床の赤から鉄さびた匂いがする。

 自分の撮った最初の動画を思い出す。最後ぬいぐるみを発見するシーン。そこには腹を開かれ中身を引き抜かれた無残なくまのぬいぐるみが残っている。そうするように頼んでおいたぬいぐるみを見て俺は恐怖する演技を見せるのだ。


 浴室にカーブするように入っていく血痕。この先に何がある。


「んぐっ……!」


 異臭が一際強くなった。間違いない中に何かがある。嫌な予感しかしない。入りたくない。入りたくないが、俺は確かめないといけない。何故だかそう思った。


「ふーっ、ふーっ」


 俺は意を決して浴室へと入った。

 暗い中でも床や壁に夥しい赤が飛び散っているのが分かる。


 ――嘘だ。嘘だ。


 浴槽の中から淵にもたれかかるように飛び出た人間の手足。

 浴槽に入れられたものが何か。おおよその検討はついていた。

 地獄だ。だとすればこの中に入っているのは悪夢を具現化した地獄の塊だ。


「あ、うわ、あ」


 もう異臭など感知出来なかった。五感が壊れて始めていた。

 何が間違っていて、何が正しいのか。判断。正常。不能。


「あ、あ、あ、ああ、あ」


 暗く濁った浴槽の中、人の形をしたものが収められている。

 長い髪。焦点の合わない二つの目玉。だらりと開いた口から垂れ下がる紫の舌。

 彼女の腹部は切り開かれ、ぐにゃぐにゃして長いものが露になり、外に飛び出ている。


「お、に。鬼」


 そう。鬼。俺が用意した鬼。

 いや違う。鬼、なんかじゃない。


「さー、ちゃ」


 さーちゃん。

 さーちゃん。

 さ、や。

 さ、やか。

 彩夏。


「彩夏」


 ガチャ。


 音がした。すぐ隣のトイレの扉。

 この音、前にも聞いた。


 ――ああ、そうだ。


「みちひで」


 隠れてもらっていた。ヤラセ動画の為に。

 前回は彩夏に頼んで同じようにトイレに隠れてもらった。そして頃合いを見て足音やノック音、そしてぬいぐるみの解体を頼んだ。

今回はそこに道秀が隠れていた。しかし俺はなぜかこいつに殴られて、それで、目を覚まして、その間に――。


「みぃつけたぁ」


 真後ろから声がする。甲高い声。

何を見つけたんだ、お前は。

 

 ずん、ずん、ずん、ずん。

 感覚がない。みちひでが何度も何度も俺の腹にぶつかる。


「みぃつけたぁ。みぃつけたぁ」


 ずん、ずん、ずん、ずん。

 だから、何をだよ。

 腹が熱い。何かが出てる。

 

 ああ、彩夏と同じだ。


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