願い
「今日夜会おうよ」
一度身体を許してしまってから、秀君は目に見えて態度が変わった。これまでは穏やかで優しかった顔が嘘のように、自分の感情を剥き出しにするようになっていた。
いや違う。
「なぁ、俺がいいよな。俺の方がいいよな」
これが本当の秀君だったんだ。
「ずっと好きだったんだよ。ずっとずっと」
彼が激しく昂るほど、私の温度は冷えていく一方だった。
「うん、好き」
私が悪いのだ。最悪なのはいつだって私だ。
中学の頃から私の事を好きだと彼は言った。驚いた。まさかこんな所で繋がるとは思っていなかった。正直、中学の頃の彼の印象はまるでなかった。なにせ一言も喋ったこともなかったからだ。
運命だとも彼は言った。だとしたら何てひどい運命だ。
どうしようもない私を好きになったどうしようもない秀君。
彼に抱かれれば抱かれるほど、達樹の事を思い出す。
ああ、きっとそうだ。
私は愛される事が下手くそなんだ。
達樹みたいにないがしろにされるぐらいが身の丈に合ってるのだ。
深く深く愛される程に私の心は黒く淀み吐き気を催した。
――消えたい。
もう、全部を消して消えたい。
それは深淵の中で芽生えた、切なる願いだった。




