本番 素材②
「……ん?」
暗い。何だ。ここはどこだ?
「いづっ……」
頭に鋭さと鈍さの伴った痛みが走った。その瞬間思い出した。
「あいつ……!」
頭にかっと血が上った。
「おい! どういうつもりだ!」
叫んだが何の反応もない。
「くそっ……ん?」
その時に身体の違和感に気付いた。手足がうまく動かない。どうやら縛られているらしい。
「……んだよこれ!」
力を込めるが自分の両手両足を縛る枷は全く外れそうもない。
「んー!」
身体を無理矢理動かした所、目の前の壁にぶつかった。刹那壁だと思っていたそれは前に開いた。どんっと床に倒れ込む。どうやら自分はクローゼットの中に入れられていたらしい。
「なんだよこれ」
部屋の電気は点いていた。確かさっきまで自分はひとりかくれんぼをしていた。部屋の電気を消した直後、俺は気を失った。
「おい、いるんだろ道秀!」
こんな事が出来るのはあいつだけだ。
*
「面白い事思い付いた」
あいつはそう言った。俺のやる事になんて正直興味のない奴だと思っていたから、あいつからそんなふうに申し出があった時は驚いた。
「撮り直そう」
しかし次の瞬間あいつが言った事には思わず「はあ?」と言葉が漏れた。
「真エンディング版を撮るんだよ」
道秀が何を言いたいのかよく分からなかったのでとりあえず説明をさせた。あいつのプランは簡単に言うとこうだ。
今回俺がとったヤラセ動画をアップする。今回の俺の動画は浴槽で後ろにいる何者かの存在を感じ取り振り返るという所で終わっている。
実はまだこの動画は俺の中では未完成で、この後補足説明を入れる予定だった。動画で撮れたのはここまでだった。この後の映像は動画を回していたはずなのに何も残っていなかった。結局俺自身もその存在の事は不思議と何も覚えていない。でも確かにそこには誰かがいた――というような意味深な終わり方だ。
道秀が言うには、その最後に映ったものは何かという真相編を追加したものを撮ろうというのだ。つまり、ひとりかくれんぼをもう一度同じ状況で再現する。そうすれば、最後の何者かが今回は写るのではないか、という体で再度ヤラセ動画を撮るというのだ。
聞いた瞬間はなんだそれはと思ったが、考えてみると面白いかもしれないと思った。何よりそんな動画を上げているやつは他にあまりいない気がした。もしヤラセとバレたとしても、エンターテイメントとしてはありではないか。考えれば考えるほど良い案に思えてきた。
「やってみっか」
しばらく考えた後、俺は道秀の案に乗る事にした。




