後編
家紋 武範様主催【夢幻企画】の参加小説です。こちらは後編です。
「言うと思った。次は何をテーマにする?」
「それはカードで決めよう。彼女が作ってくれたんだ」
斧男の声は心なしか弾んでいて、彼女という人物が男にとってどれだけ大切なのかが分かる。
生贄の男達の正気がまだあれば、その女性をなんとかしてこの斧男に報復しようと思ったかもしれないが、斧男の気質からしてそれは最悪の事態を招くだけだ。
実際、実行した男がいたが、今は彼は牢屋に閉じ込められ、斧男の好きな時に殺されたり、男性としてかなり屈辱的な行為を迫られたりしてキャラ崩壊した。
サンドバッグ、安らかに眠れ。アーメン。
「寝ても地獄じゃない? あの人」
「夢の中に行ったら追加攻撃ができるからな。でも、寝ないと死ぬし、寝なくても死ぬからどうでもいいみたい。ちょっとつまんない。もっと泣いたり喚いたり、してくれていいのに」
「絶対しなさそう。ん、ボクが引いていいの?」
「シャッフルしたのはおれだからな。そっちで一枚選んでくれ。それでいいのか?」
斧男がカードをゆっくりめくると、そこには『ループ』と書かれていた。
まるっこい女性の字がなんだか場違いみたいで、斧男は彼女を思い出し微笑んだ。
きっと、彼女はこの言葉が引き起こす悲劇を楽しむだろう。
それで元気になれるのなら、現実世界で生きて行けるのなら。
このおれはいくらだって泥を被ろう。血しぶきを被ろう。
一方で、フード女もこれを書いただろう彼女に思いを馳せ、笑っていた。
きっと、彼女はこの言葉が引き起こす喜劇を楽しむだろう。
それで元気になれるのなら、この異世界でのびのびとできるのなら。
このボクはいくらだって幻を使おう。現実を幻で上書きしよう。
「準備はいいかい?」
「いいだろう。生贄ども出番だぞ」
「君たちが主役になるんだ。いっぱい踊ってね」
片方の男は、自分が殺される続ける悪夢を見た。
犯人は誰だか分らなかったが、次第にこちらに近付いてくる男に気が付く。
男は誰かの血に濡れた斧を大きく振って、彼の頭をかち割る。
次に目覚めたときは男はさらに近くにいて。生きたまま首をもがれた。
目覚めれば目覚めるほど、殺人鬼は近くに来る。
目覚めれば目覚めるほど、自らの死が早くなる。
一方の男は、その惨状を横で観測する幻覚を見た。
殺されている男に心当たりはなかったが、次第に同僚であると分かった。
その男は普段から意見の食い違いで、よく争っていた仲で、決して仲良くはなかった。
同僚が死ぬのを楽しんでいた男だったが、首をもがれた彼の苦悶の顔を見てはたと気が付く。
このまま行けば、いつか殺人鬼は同僚を殺し終え、その刃は自分に向くだろうと。
その場で佇めば佇むほど、同僚の生きている時間は短くなる。
何か、行動しなくては。
ずいぶん前に病で動かなくなった左足を前に踏み出したとき、辺りは真っ暗になった。
「アサシンさん? おれの悪夢に介入しましたね?」
「ふふふ。せっかくなんだから、本気で勝負しないとね。幻術は悪夢を上書きできるんだよ。ビクトリア・ミラージュ展開。キミはいつまで勝利を確信できる?」
「おれはいつだって彼女のために。悪夢は幻術を凌駕する。ドリーム・ブラザーズ展開。ゴリ押しと呼ばれてもいい。脳筋と呼ばれてもいい。必ず勝つ」
激しく金属のかち合う音。何かを話している男女の声。
とりあえず、血だまりに倒れる知り合いの姿を見ることはしばらくなさそうだ。
生贄たちはわずかに安堵して、仲良く気絶した。
「そもそも分身って幻覚の十八番なんだよ? ふふ、どれが本物のボクでしょうか!」
「全部本物だと思って、全部潰せばいい」
「だいたい、こんなの魔法使いちゃんの趣味じゃないでしょ。キミの趣味でしょ」
「そんなことない。彼女はおれたちが人を蹂躙する姿が好きだ」
「そうかもしれないけど、たまには違うものも挟まないと退屈するでしょ!」
「なるほど、味変か! それは失念していたぜ」
斧男は攻撃をやめて考え込む。
だが、その分体三人は攻撃をやめずに次々と突撃していくため、女は攻撃を続けなくてはならなかった。
「だいたい! 同作品内でテーマが幻覚でもないのに、幻覚使いが二人もいるっておかしいから!」
「だから悪の幻覚使いと、善の幻覚使いで役割分けてるじゃんね?」
「今日初めて聞いたよ、そんなこと! おかしいでしょ、ボクの幻覚がほとんど効かないって! 設定上、ボクは史上最強の幻覚使いなんだよ!? なんなの? じゃあキミはなんなの!?」
「設定上とか言い出すんなら、こっちもいいたいことがあるぞ。そもそもキャラクター造形タイミングはおれの方がずっと早いから。彼女に付き合ってきたのもおれの方が長いの! おれは彼女の最強のキャラなんだ。別のキャラが出てきて史上最強を名乗っても、それは揺らがない。変わらないことなんだ」
照明係は、ストーリー担当かつ監督に目配せした。
監督は三角帽子をかぶり直して、首を振った。
もうダメだ。取り返しはつかない。紅藤はこういう作風で、こういう人間である。
ふいに、照明役が何もしていないのに、部屋に明かりがついた。
部屋……スタジオは結構な惨状で、見えないところに積まれたぬいぐるみや個人の所有物がはみ出していた。
壁はいくつもの黒い槍が刺さっており、穴も見えぬまま霧のように消えていく。
アサシンの女性の影は分身し、本体とは違う動きをしながら崩れ去る。
転がっていた生贄たちは、縛られたマネキンになって転がっていた。
「おーい、飯ができたぞ。いつまでやってんだ?」
「タカシ氏とおかんみたいになった!」
「魔王ごっこみたいなもんだからな……これ」
電気を付けたのは、彼らのストッパーを自称する剣使いであった。
彼は飄々と昼飯の時間を告げたが、フード女の視線が届くとたじろいだ。
斧男は少しおもしろそうにマネキンを見ているだけだ。
「なんだよ。そんなに怒って。どうせいつものチャンバラだろ」
「剣士のバカ! 今日の幻覚指定、一定の暗さなんだよ!? 明るくしちゃったら全部消えちゃうじゃん!」
「あーあ、悪夢も終わっちゃった。召喚陣も効果が切れちゃったから、あの人たちそのまま送還されちゃったね」
「あのマネキン、ホントに魂を込めると人間みたいになるんだな」
「うん。斧戦士さんが幽霊時代によく使ってたやつなんだよ。今みたいに強制送還されないなら、それこそ魂が死ぬまで永遠に使えるはずなんだけど……」
監督の魔法使いは、明るい声で生贄の未来をさし示した。
その声は若干嬉しそうでもあった。
「今回ので魂は相当酷使されたっぽいし、元の身体に戻ってもすぐ死んじゃうかもね!」
「やっぱこいつの趣味アレだわ」
読んでくださった方と、家紋 武範様に感謝を。
魔「ここは楽屋。なんでもコメントしてええんやで。メタもいいとこ一度はおいで」
舟「長すぎないか? 今日の。文字数4000字とかふざけてんの?」
ア「分割すればいいんじゃない」
剣「本編は基本一話完結ってあらすじで言ってるから」
モ「最近そうでもないじゃない」
斧「これ番外編として別で出すから大丈夫、大丈夫!」